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    枢木vol.2  ― Private Actor




 夕飯はルルーシュ、ロロ、スザクの三人でとった。
 知らない者が見れば、三人が互いに笑い合う暖かな食事風景だったが、実際は、三人の胸の奥では打算、殺意、嫉妬、憎悪、疑念が渦巻いていた。
 観客がいたら怯えてしまうような舞台だな、と思いながらルルーシュは演じ続ける。
 無垢な微笑を浮かべながら、楽しげにスザクの話を聞くロロ。
 自分がいない間の学園生活はどうだったか、とルルーシュに問うスザク。
 煩い奴がいなくて、静か過ぎてつまらなかった、と答えるルルーシュ。
 笑いの絶えない、三人の夕食。
 一体いつ、ここは劇場になってしまったのだろうか。

 無事に、問題なく、瘴気が漂っていた夕食は終わった。
 コップを持ったルルーシュと水差しを持ったスザクがルルーシュの部屋へ、ロロが自分の部屋へ、と別れる時、
「ああ、そうだロロ。その、今日は」
 わざとスザクの前で、ルルーシュは思わせぶりにロロに言う。
「わかってるよ。お二人の邪魔は致しません」
 ロロはにっこりと笑って言った。
「…積もる話も、あるだろうしね…」

*   *   *

 部屋に入ってから、明かりをつける前に、スザクに抱きしめられた。
 ドアがスザクの後ろ手で閉じられる。
「スザク、電気」
 抱きしめられた感触から、前より少し逞しくなったんじゃないかとぼんやりと考える。
「…つけなくていい…」
 スザクの低い声に、
「気が早すぎる」
 ルルーシュは嘆息して言った。
 何も、水差しを持ったまま抱きしめなくてもいいだろうと思いながら、手を伸ばして、ルルーシュは明かりをつける。
「スザク…コップが置けない」
 ルルーシュが言うと、スザクは渋々といった感じで、ルルーシュを解放した。

 今のは演技か、それとも……。

 互いに持ち物を机の上に置き、スザクはソファ、ルルーシュはベッドに座る。
 これぐらいの距離感が妥当だろうと思いながら、スザクがそれを疑問に思う前に、ルルーシュはその理由でもある過去を口にする。
「お前が亡き皇女殿下の騎士になって以来、だな…こうして二人きりになるのは」
 表情を変えたスザクを見て、ルルーシュは先制出来たな、と思う。
 ユフィのことで自分を憎んでいる筈のスザク。
 そこに真っ直ぐ、こちらが言葉を放り投げれば、何の波紋も広がらない筈はない。
 他でもないルルーシュによって、ユフィの姿を頭に浮かべさせられ激震が走る中で、スザクはルルーシュに話を合わせなければいけなくなる。
 それにもし、先程ルルーシュを抱きしめたのが演技でないとすれば、愛憎渦巻く中で、スザクは自分自身を制御しなければいけない。
「そうだね。…あれ以来、バタバタしてて。連絡も全然出来なかった」
 ぎこちなく話すスザクに、ルルーシュは更に攻撃を続ける。
「あの時は、本当に突然だったからな…」
 ルルーシュは目を伏せる。突然だったから、なんなのだ、と自分でつっこみを入れたくなるが、あとはスザクに自分で想像させた方が効果は高い。
 ルルーシュを置いて行ってしまったことへの、静かな責めととるか、それとも寂しかったと気を引いているように聞こえるか。あるいはその両方か。
 いずれにせよ、ルルーシュに記憶が戻っているとは思えないだろう。
「…ルルーシュ。どうしても、聞いておきたいことがあるんだ」
 微妙な空気を変えるように、スザクは口を開いた。
「…なんだ?」
 ルルーシュは顔を上げた。

*    *    *

 ロロのほっそりした指から、最初から壊す為に持ち込まれたガラス製のコップが、凄まじい勢いで投げられて、他のメンバーを追い出した機情のモニタルームの壁に音を立てて激突した。
 続いて、次々に新たなガラスコップが四つ、犠牲になり、その数秒後には、壁に飛んできたナイフが刺さっていた。
 しばらく、ガラスの割れる音が続いた。

*    *    *

 スザクが神妙な面持ちで深呼吸をする。
 何が来る? と思いながら、ルルーシュは心の中だけで身構える。
「…彼氏、できてたりとか、する? 僕がいない間に…」
「は?」
 これは、ラウンズとしてのゆさぶりか? スザク個人の素なのか?
 一瞬呆気にとられてから、ルルーシュはすぐに思考をクリアーに戻す。
「…彼女ならいる」
「え」
 ルルーシュの真面目な表情に、スザクは目を丸くする。
 ルルーシュは言いにくそうに声を潜めながら、続ける。
「実は…。会長と付き合ってるんだ…リヴァルに内緒で」
「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「…冗談だよ」
「あぁ、吃驚した……」
 スザクは胸を押さえて安堵のため息をついた。

 ルルーシュは考える。
 おそらくスザクは、あえて演技をしないことにしたのではないか?
 頭脳戦でルルーシュに適わないことはスザクもよく分かっている筈で、それなら、別段演技せずに、下手に探りなど入れずに、ルルーシュと普通の会話をした方がいいと判断したのではないか。力を抜いて、今のスザクは、ルルーシュをゼロと知る前のスザクだと思い込むことによって。
 そうすれば、スザクは過去のルルーシュとの”擬似恋愛”をすることが出来るわけだし、それでルルーシュがボロをだすようなら、儲けものだ。

「付き合ってる人がいたら、どうするつもりだったんだ?」
「…身の安全は保障しかねるね、その人の」
 スザクが微笑を浮かべる。
 どうして俺が惚れる連中はこうなんだ、と心中で毒づきながら、ルルーシュはロロの殺意に満ちた笑みを思い出した。

 どうする。
 スザクを懐柔するか。
 それとも……。

 ルルーシュはロロの言葉を思い出す。
『ごめん…役に立てなくて…』
 そう言って、ルルーシュの背中を抱きしめて、身体を震わせていたロロ。
(俺は…)
 自分はロロを、自分さえ我慢すればいいという傲慢で、深々と傷つけた。
 更に、『俺は、大丈夫だから』と言うことで、おそらくは余計に深く、その傷を抉ってしまった。
 傷つけた弟に、自分が贈れるものは、何か。
 それが何であるにせよ、今は一度スザクを引きつけておかなければいけない。
「俺はてっきり、あの時お前に捨てられたと、…そう、思ってたんだがな」
「…違うっ!!」
 スザクは叫んでから、自分でもその声に驚いたように、目を見開いた。
「君を忘れたことは…一日だってなかった!!」
 それはそうだろう、どういう感情を伴っているかを限定しなければな、と思いながら、
「気が合うな…俺もだ」
 ルルーシュは慈愛に満ちた表情を作った。
「…ルルーシュ…」
 スザクの瞳が潤む。

 さあ、ここが勝負時だ。
 ルルーシュは自分のすぐ隣にやって来たスザクを間近で見詰めながら、思った。
 この後、どう転んでも自分の利益になるように、お膳立てはした。思い出したくはなかったが、過去のスザクとの恋愛を何度も脳内で再生して、言葉を考えた。
 あとは、自分次第でどうにでもなる。
「…ルルーシュ」
 スザクがルルーシュの顎に手を添えた。緑の瞳が艶事の前兆で、妖しく鈍い光を内包していた。

*   *   *

「ふふっ……」

 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる

 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる

「あはっ、あははははははっっ………!!」

 殺シテヤル 殺シテヤル 殺シテヤル 殺シテヤル
 殺シテヤル 殺シテヤル 殺シテヤル 殺シテヤル
 殺シテヤル 殺シテヤル 殺シテヤル 殺シテヤル
 殺シテヤル 殺シテヤル 殺シテヤル 殺シテヤル

 殺シテヤル 殺シテヤル 殺シテヤル 殺シテヤル
 殺シテヤル 殺シテヤル 殺シテヤル 殺シテヤル
 殺シテヤル 殺シテヤル 殺シテヤル 殺シテヤル
 殺シテヤル 殺シテヤル 殺シテヤル 殺シテヤル

「はははははははははっ……!あははははははははっ……!!!」

*   *   *

 失敗するつもりはない。失敗しても、大勢に影響はないように考えてある。
 なら、やるしかないだろう。
 最初は、自分がスザクに大人しく抱かれれば、それが一番いいのだと思っていた。
 楽に、コトを進めることが出来る。
 しかし。
(…大切に、しないとな)
 ロロも、自分も。
 ロロを泣かせてしまったことの意味を、理解した今、ここで、大人しくしているわけには行かない。
 演じてやる。
 スザクを愛するルルーシュ・ランペルージを。
 演じきってやる。終幕の時まで。

「…っ…!」
 ルルーシュはスザクの手から逃れるように、大きく顔を横に振った。
「! ルルーシュ…?」
 勢いをつけて顔を振り、横を向けば、少し長めの髪が、スザクから見える側の目を覆い隠すことは計算済みだった。
「…わからないだろう…」
 ルルーシュは声を震わせながら、静かに言った。
 涙などいくらでも流せる。
 ブラックリベリオンの後に自分を襲った、屈辱、悲しみ、怒り、憎悪。
 全てを叩きつけてやる。
 無防備になり、ルルーシュの狙い通り、近づきすぎたこいつに。
 言葉さえ、記憶のないルルーシュを装えれば、そこにある感情が何であっても問題は無い。
「俺がどんな思いを、してきたか……」
 ルルーシュは立ち上がった。まだ、顔を横に向けたまま、瞳は見せない。そしてまだ、声音は抑えられている。
「お前にわかるか…」
 涙が溢れてくるのと同時に、ルルーシュはゆっくりとスザクの方を振り向く。
 頬を涙が伝うのを感じながらも、それでもよく通る声でルルーシュは続ける。
 まるで、涙が流れていることに自分すら気づいていないというように。
「散々お前の熱を覚えさせられて、一人寝が苦痛になるまで、お前に溺れさせられて…」
 ルルーシュは自分の身体を抱いた。
「その結果は、何だった?」
 涙を止め処なく流しながらも、声音に皮肉を込めて、言う。
「僕だってル……」
ふざけるな枢木スザク!!
 立ち上がり反論しようとスザクに、ルルーシュの大音声が浴びせられた。ゼロとしての演説の為に訓練されつくした声は窓を震わす程で、さすがのスザクもその声に、言葉を止めた。最高級の高性能のヘッドフォンで、音量を最大にしてモニタをーを睨んでいたロロが驚いて、びくりと身体を震わせていたのを、二人は知る由もない。
「いや、ナイトオブラウンズ様と言った方がいいか?」
 ルルーシュは嘲笑した。
(涙が枯れ果てるまでやってやる!)
「忘れるな。お前は、他でもないお前の意志で、俺から離れた。それなのに…。また俺に、お前の熱を散々覚えさせて…、また離れるんだろう。…お忙しいナイトオブセブン様。今度は何年離れる? また一年か? 二年か? 五年か!? 十年か!?」
 嘲りの表情は怒りのそれへと変わっていた。
「それで、また俺に訊くのか? 恋人がいるかと? さも俺のことを想っているかのように!! …はっ!『…身の安全は保障しかねるね、その人の』!?……っ……」
 声音が悲しみへと変わっていく。
「…俺の…気持ち…なんて…うっ……」
 ルルーシュはその場で泣き崩れた。
 ここまでやっても、演技だとは思われないだろう。何故なら演技ではないのだから。噴出してくる感情は全て本物だ。
 未だにルルーシュは夢に見る。
 スザクによって、皇帝の前に引き出された時、容赦なくスザクに押さえつけられて、頭蓋骨が悲鳴をあげた、あの瞬間を。
 今湧き上っている感情は、まさにあの時のものだ。
 呼び覚まされた感情は、形になる言葉は違っても、スザクへの攻撃性だけは、一緒だった。
 ルルーシュからの一斉射撃をまともに食らったスザクは、しばらく呆然としていたが、すすり泣くルルーシュを見てから沈痛な表情を浮かべ、
「ルルーシュ…ゴメン…それしか言えない…」
 しゃがんでルルーシュの肩に触れた。
 ルルーシュは下を向いたまま、その手を振り払うことはしなかった。もうすぐ勝負が決まる。次、スザクの瞳を見た時、結果がわかる。
「…スザク…すまない…」
 ここで一度、最後の攻撃の前に一歩引く。
「嬉しいんだ…また…お前に会えて…だが…」
 途切れ途切れに、ルルーシュは言う。相手を十分にひきつけておいてから、攻撃を開始する。これは、基本。
「…帰ってくれ」
 最初は小さく、だが、きっぱりと言う。
「……頼むから帰ってくれ!!」
 顔を上げ、スザクの目を真っ直ぐに見据え、今度は、叫んだ。

――勝った。
 
 スザクの瞳が小刻みに震えているのを見て、ルルーシュは確信した。

*    *    *

 枢木の足音が部屋から遠ざかっていったのを確認してから、ルルーシュは天井にある監視カメラに向けて、親指を立てる。
 その姿を、ロロがモニター越しに見ていた、
「兄さん…どうして…演劇部に入らなかったの……?」
 ロロはルルーシュの大声で限界を突破して壊れたヘッドフォンを「要修理」の袋に入れてから、モニターに向けて拍手を送った。



枢木 vol.3 ― 誰かを救った思いやり に続く
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 ルルーシュに総攻撃受けてるスザクはとても辛いと思います。そう仕向けてるルルーシュも。…というスザクの心情も書いてみたいと思いつつも、VOL.3はロロルルのみです。


サブタイトルは、ドラマ「Private Actress」より。
プライベート・アクター・ルルーシュ。
BGM:Perfume of love。vocal by Globe
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現在のお礼SS:ロロルルロロ一本。
効能:管理人のMP回復。感想一言頂けるととても喜びます。
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