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   最強兄弟。(後編) 



 ルルーシュはプレジデント・チェアに脚を組んで座り、ロロはルルーシュに向かい合うようにして机に軽く腰掛けていた。
 机にはゼロの仮面が置かれ、その隣に小型のディスプレイがある。ルルーシュが置いたものだ。黒の騎士団のメンバーがどう動いているか、これで把握出来る。誰もこの部屋に近づくなとは言ってあるが、万一ということもあるからなのだそうだ。

「最初は、悪戯として末端で処理される所だったんだ。…ロロの手紙は」
「…だろうね。その可能性は考えてた」
「だが一人優秀な奴がいて、俺の所まで持ってきた」
「…驚いた? 僕の手紙を見た時」
「ああ。…そりゃあ、そうだろ。…だから、本当にロロが俺のことに気づいているのか、ゼロとして確かめる必要があった」
「それで、兄さんはここに僕を呼んだ」
「…そういうことだ」
 ロロの瞳が細められた。
「…ねぇ、兄さん」
「ん?」

「ここまで来たんだから、嘘はやめようよ」

「何の事かな?」
 ルルーシュはどこか楽しそうに、ロロの方に身を乗り出した。
「兄さんは最初から、僕が気づくと思ってたんだ。…今回のことは、僕がゼロイコール兄さんと気づいているかどうかを確かめることが目的なんじゃない」

 ルルーシュがにぃ、と口元を歪める。どこをどう見ても楽しんでいる。

「じゃあ、俺の目的は? 何故俺はそんなことをしなければいけなかったんだ? こんな危ない所までロロを呼び出して…まさか、楽しくおしゃべりする為じゃないだろう?」

「まず、ここは別に危ない所じゃない。というより、もし危ない人間がいたら、僕が来る前に黒の騎士団のメンバーが排除していた。僕が辿るルートには黒の騎士団のメンバーが配置してあったんだ。…ここまで来る時、ずっと視線を感じてた。あれは、黒の騎士団向けの名目は僕を警戒する為だけど、本当は僕の身を守る為。元々の治安と地理的に騎士団を展開できる規模を考えると、トーキョーの方が相当危ないから、こういう守り易い所にした。…ついでに、ボディ・チェックが無かったのは、僕が兄さん以外に触れるのも触れられるのも大嫌いだって知ってるから。かといってそれでは、他のメンバーに示しがつかないから、一階には探知機を配置した」

 ルルーシュは机に両肘をつき、手を組んだ。
「ロロの為に安全を図った…。それは正解。問題は」
「そこまでして兄さんが、僕と、『ゼロ』として会わなければいけなかった理由」
「…わからないな。是非教えてくれないか?」
 妖艶な深い紫の光を瞳にたたえながら、ルルーシュはロロを挑戦的に見上げた。
「兄さんは、僕を試したかった。僕の覚悟、度胸を。まず、黒の騎士団の呼び出しに応じるかどうか。だから、黒の騎士団かゼロから迎えに来るという形にしなかった。会う場所を遠くに設定したのはここにも理由がある。そして、黒の騎士団からの呼び出しがあってから、今日まで、兄さんとどういう会話が出来るかも見たかった」
「なかなかスリリングな会話だったよ」
 ルルーシュは、今度は頬杖をついた。
「…そして、いくら正体が兄さんとわかってはいても、『ゼロ』と対面した時、それ相応の対応が出来るか。…でも、今回の一番の目的は」
 ロロはルルーシュの頬に手を伸ばして、触れた。
「兄さんがゼロであるとわかった上で、僕が兄さんの目的にまで気づいているかどうかを確かめる為」
 ルルーシュは笑みを深くして、
「成程。筋は通る。もう一度訊こうか、では『何故俺はそんなことをしなければいけなかったんだ?』」
 芝居がかった声で言った。

「兄さんは、僕を黒の騎士団に欲しかった」
 
 ルルーシュの目元が緩む。
「でも、強制はしたくなかった。僕が、兄さんがゼロであると知り、その目的を知った上で、それでも黒の騎士団に入る、という僕の意志が欲しかった…そして、ここまで気づくかどうかも兄さんの『試験問題』なんでしょう?」
 ロロは左手を机について、上半身をルルーシュの方に屈めた。
「俺の見込んだ通りだよ。お前は」
「…何年兄さんの弟やってると思ってるの? 昔から、『ブリタニアをぶっ壊してやる』って、兄さん言ってたじゃない。僕はいつも言ったよね?『その時は、僕も一緒だよ』って」
「…試すようなことをして、悪かった。だが、最後に一つ答えてほしい」
「何?」
「俺がロロを欲している理由は?」
「口にすると恥ずかしいから言えないなぁ」
 ロロが白々しく言うと、ルルーシュはくくっ、と喉の奥で笑う。

「…それでいい」
 ルルーシュはプレジデント・チェアに身体を預け、手袋を外してから、ロロに右手を差し出した。先程までの笑みは消えて、真剣な眼差しをロロに渡す。

「俺と一緒に、血の河を渡って欲しい」
「何処までも、一緒だよ」

 ロロは即答してその手を取り、かたく握り締めた。
 何があっても、兄を守る。何処までも一緒だ、とずっと思い続けてきた。それが変わることは、この先、決してないだろう。
「そうだ、兄さん」
「ん?」
「さっきの答え、口にはしたくなかったけど」
 そう言ってからロロはプレジデント・チェアの前に立って、
「あげるよ、答えを」
 ルルーシュの右手を握ったまま、ロロは左手をルルーシュの頬にやった。




 ルルーシュはロロとのキスを味わいながら、幼い日のことを思い出す。
「ブリタニアをぶっ壊す!」
 そう語る度に、「その時は、僕も一緒だよ」とロロが返してくれたことがどれだけ嬉しかったか。
 あの時から、ブリタニアと対峙する時は、ロロを傍に置くつもりだった。ギアスを手にする前から、ブリタニアを打倒する為に考えていたプランは幾つもあって、そのどれかが実行可能になった時は、ロロに話をしようと決めていた。
 だがギアスを手に入れたことで計画が大幅に前倒しになり、ロロと事前に話をするという機会を逸してしまった。
 それでもいいのかもしれない、とルルーシュは思った。
 ロロであれば、必ずゼロの正体に辿り着く。(ルルーシュ自身がそれを望んでいたから、日常の中でロロにヒントを与えてしまった部分もあった)

 これから自分が何をしようとしているのか。
 世界がどのような視線を向けてくるのか。
 この手で奪うものが何なのか。

 それをロロが客観的に見た上で、それでもルルーシュの傍にいたいと願ってくれるなら、ルルーシュは喜んで迎え入れようと思っていた。ロロの覚悟を見極めた上で。

 数週間前から、ロロがルルーシュ=ゼロだと感付いている、ということにルルーシュは気付いていた。ロロが無視を決め込むか、ルルーシュの味方についてくれるか。どちらの行動にでるか。ロロと日常の言葉を交わす度に、ルルーシュの脈拍は加速した。きっとルルーシュに賛同するだろうとは思っていたが、万一ということもある。自分からロロを抱き込むことも出来たが、それはしなかった。ロロの意志を尊重したかった。
 だから、ロロからの連絡が入った時には、目の前にディートハルトがいるのも忘れて笑い出しそうになった。ロロからの手紙が末端の者に消されそうになった…というのは嘘で、どのような内容のでも『ゼロ』に通すようにディートハルトには言っておいたのだ。
 あとは、『ゼロ』としてロロに対峙し、ロロの覚悟を知りたかった。

 自分の行動が、兄の行動として正しいとは思わない。
 安全な場所でロロに生きていて欲しいと願うことこそが、一番『正しい行動』で、『正しい愛し方』なのだろう。
 それでも、幼い時から何度も耳にした、
「その時は、僕も一緒だよ」
 というロロの言葉は、甘美な誘惑であり続けた。

 何処までも、一緒に堕ちて欲しかった。
 修羅の道を行き、血の河を渡り、屍の山を登る己と共に。
 それが、己と同じ業をロロに背負わせることだと、わかっていても。
 地獄の底まで、一緒に。

 それが、ロロを欲した、理由。
 だからこのキスは、かたい握手だけでは飽き足らない、ロロの誓いなのだろう。何処までも、一緒に堕ちて欲しい、というルルーシュの望みに必ず応える、という。

 もしこの世に「正しい愛」があるとするなら、自分達はとっくの昔にその正しさから足を踏み外している。
 共に何重もの禁忌を破ってきた。これからも二人一緒ならなんの恐れもない。

 次第に深くなっていく口付けに応えながら、ルルーシュはロロの手を渾身の力で握る。ロロもまた、力を込めてきた。
 痛みを感じないと言えば嘘になる。ロロもそうだろう。

 それでも、例え互いに、傷つけあっても、もっともっと、傍にいたかった。
 もっと、もっと、もっと、もっと、限界を超えて。
 何処までも、いつまでも、傍に。




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BGM:Red fraction vocal by MELL
Blood Queen Vocal by Migo Aki
勇侠青春謳 vocal by Ali Project


 武器をだせ! と言われて、主人公が正直にハンドガンをを出したのはいいものの、他にも身体のあちこちから火器が出てきて「戦車?」と訊かれていた映画がありました。昔からあるネタですが、次々に服から出てくる武器に味方も敵も目を丸くするというシーンは何度見ても大好きです。
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現在のお礼SS:ロロルルロロ一本。
効能:管理人のMP回復。感想一言頂けるととても喜びます。
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