×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
『ゴメンナサイ』の続きです。
優しいせせらぎのような言の葉に包まれながら、ロロはまだ、眠りの底にいた。
待人目醒メズ
そろそろ日付が変わるという時間。
ルルーシュは、ロロの部屋にいた。机の灯かりだけが光量を落としてつけられ、ルルーシュはそれを背にして、ベッドのすぐ傍にある椅子に座っている。その両手は、眠るロロの片手を包み込んでいた。ロロのもう片方の腕には、点滴の針が刺さっていた。
ロロの記憶を奪ってから、一週間が経つ。未だ、ロロが目を覚ます気配は全くない。
このまま、目を覚まさないのではないか、という最悪の事態がルルーシュの頭をよぎる。
ナナリーは、母を目の前で殺されたという悲惨な出来事で、自由に歩ける脚と、光を失った。では、人生の大半の記憶を、無理やり奪われたショックは、何を引き起こすのか。
すぐに目を覚ますだろうと、希望的に予測していたのがまずかった。勿論機情の対応などは、ロロがどのような状態で目覚めてもいいように、また長期間目覚めなかった時のケースも既に考えてある。頭ではこの事態を予測していたのに、心の準備が出来ていなかった。
「…ロロ…」
そろそろ眠らなければ、と思うのだが離れ難い。本当はロロが一人で目を覚ますようなことにはしたくないから傍にいたい。だが、自分が休息を取る事を義務付けられている人間なのだ、ということはよく理解していた。黒の騎士団のブレーンである自分の洞察力・判断力・決断力、いずれも低下させるわけにはいかない。睡眠不足で判断を間違えましたでは洒落にもならない。
出来るなら、ロロの手を握ったまま、このままベッドに突っ伏して寝てしまいたかった。しかし一度それを自分に許せば、ロロが目を覚ますまで、毎夜毎夜、自分はここで寝てしまうだろう。そうなったら気付かない内に相当の疲労が蓄積してしまう。
それ程長期間無理が効く身体ではないことはルルーシュ自身が一番よくわかっていた。
「…っ…」
ルルーシュがびくりと顔を上げた。ロロが少しだけ動いたのだ。だが、ロロは目を閉じたまま、顔をルルーシュの方に傾けただけだった。
ルルーシュは落胆の色を濃くしてから、ロロがほんの少しでも動く度にこうしてビクついている自分に、自嘲気味な笑みを浮かべた。
一秒でも早く目を覚まして欲しいと思うのと同時に、ロロの目覚めを何処かで恐れている自分がいる。
ロロが、どこまで覚えているのか。それを知る瞬間を。
自分は、ロロに、「ギアスに関する、全て」を忘れろと命令した。その範囲はあまりに広大すぎる。おそらくは、ロロの人生でギアスと関連していない部分は殆ど無いのだから。程度の差こそあれ、必ずロロの行動の下にはギアスの存在があった。その記憶を全て一気に失うことで、それに引き摺られる形で「ギアスに関する」という範囲外の記憶さえも忘却の海の底に沈む可能性がある。ルルーシュのギアスが対象の脳に介入することで、その影響でギアス介入前後の記憶が失われる事と、現象としては近い。
「ギアスに関する、全て」という範囲ですら未知数なのに、記憶を失った衝撃で失われる記憶まで考えると、ロロが目覚めた時、どのような状態になるのか、考えられうるパターンは膨大な数に上った。
ルルーシュは、ロロの顔にかかった髪を払ってやる。
自分のことを、ロロに覚えていて欲しい、と思うのは傲慢だろうか。
自分との思い出こそが、ロロにとって一番辛いものかもしれないのに。
あれだけ、兄さんと言われることに嫌悪感を覚えていたというのに、出来ればまたその口で「兄さん」と呼んではくれないかと、そう願うのは罪だろうか。
もっと早く気付いていれば良かったのだ。
もっと、もっと早く、自分の気持ちに。そうすれば、うわべだけの言葉を投げかけることも無かった。
ロロが偽の弟だと気付いた時からずっと、自分が紡いだのは心にもないことばかり。
自分の中にある、憎しみとない交ぜになった愛情を、ルルーシュは憎悪としか認識出来なかった。
もっと、早く、気付いていたら。
ギアスと関係のない思い出を、もっと作れたかもしれない。幸せな、思い出を。そうしたら、その記憶を頼りにして、ロロがルルーシュのことを忘れないでいてくれたかもしれなかった。
全ては、あとの、祭り。
ロロの頭に、「暗殺」という文字が思い浮かばない、という意味での「適度」な付き合いしかしなかった。
「そうだな…ロロが俺のことを忘れていても、仕方、ないのかもしれないな…」
ギアスとの関係を取り払った時、自分達の間には、何か残っていたのだろうか。
心の伴わない言葉を聴かせ、嘘の表情を見せた。結局は偽りの記憶しか与えられなかった。
ただ一つ、希望があるとすれば、ロロの記憶が失われる前に、ロロが口にした言葉。
『…忘れたくない…だって忘れたら…僕は…』
忘れたくない。それが自分のことだったと考えるのは自惚れだろうか。
ロロの心と記憶を蹂躙したルルーシュを、ロロが、もし最後の瞬間まで想っていてくれたなら。
ほんの少しだけでも、ルルーシュのことを覚えていてくれるかもしれない。
ルルーシュは机の上にある時計を見た。
もう休まなければ。
ルルーシュは、ロロの手の甲にキスを落としてから、その手を毛布の中にいれてやり、はなした。
自分には、待っていることしか出来ないのに、手を繋ぎ続けてやることさえ出来ないのだ。
「…っ…ロロ…。さっさと帰って来い!!」
ルルーシュは八つ当たりするように叫び、俯く。
早く目を醒まして欲しいと思う自分。ロロの目醒めを恐れる自分。何も出来ない自分。
その全てにルルーシュは苛立っていた。
「本っ当に、俺は、何も出来ない……!!」
ルルーシュは左目を手で押さえた。王の力。絶対遵守の力。それが、眠り続けるロロの目覚めに何の効果ももたらさない。
自分は、ロロに、何もしてやれない。
過去に、何もしてやらなかったくせに、ロロが過去の時間を大切に想っていてくれれば、とただ望むことしか出来ない。
目を包む水の量が、少しづつ増えていく。
泣くな。
俺に泣く資格などない。
泣くなと言っているだろうがこの大馬鹿野郎が!!!
込み上げてくる熱いものを押し返そうと、ルルーシュは右手の爪を服越しに、太ももに食い込ませる。
「……泣いて、いいよ」
?
ルルーシュは、自分が何を聴いたのか、理解することが出来なかった。
自分の頬にある温もりの正体がわからなかった。
なんだ、これは。
小刻みに震えながら、ルルーシュは顔を上げた。
視界に入る。起き上がったロロの上半身が、首筋が、そして、
「…僕の、一番大切な人」
微笑みを浮かべた、ロロの顔が。
「幽霊でも見たような顔、しないで」
ロロは点滴を抜いてから、呆然としているルルーシュの前で、ベッドの上で両膝をついた。
「僕は、ちゃんと、ここにいる。…何処にも行かないから」
ロロに頭を抱きしめられながら、ルルーシュはようやく理解した。
ロロが、目を覚ましたのだ、と。
『会イタイ 会イタイ 会イタイ』に続く
戻る
優しいせせらぎのような言の葉に包まれながら、ロロはまだ、眠りの底にいた。
待人目醒メズ
そろそろ日付が変わるという時間。
ルルーシュは、ロロの部屋にいた。机の灯かりだけが光量を落としてつけられ、ルルーシュはそれを背にして、ベッドのすぐ傍にある椅子に座っている。その両手は、眠るロロの片手を包み込んでいた。ロロのもう片方の腕には、点滴の針が刺さっていた。
ロロの記憶を奪ってから、一週間が経つ。未だ、ロロが目を覚ます気配は全くない。
このまま、目を覚まさないのではないか、という最悪の事態がルルーシュの頭をよぎる。
ナナリーは、母を目の前で殺されたという悲惨な出来事で、自由に歩ける脚と、光を失った。では、人生の大半の記憶を、無理やり奪われたショックは、何を引き起こすのか。
すぐに目を覚ますだろうと、希望的に予測していたのがまずかった。勿論機情の対応などは、ロロがどのような状態で目覚めてもいいように、また長期間目覚めなかった時のケースも既に考えてある。頭ではこの事態を予測していたのに、心の準備が出来ていなかった。
「…ロロ…」
そろそろ眠らなければ、と思うのだが離れ難い。本当はロロが一人で目を覚ますようなことにはしたくないから傍にいたい。だが、自分が休息を取る事を義務付けられている人間なのだ、ということはよく理解していた。黒の騎士団のブレーンである自分の洞察力・判断力・決断力、いずれも低下させるわけにはいかない。睡眠不足で判断を間違えましたでは洒落にもならない。
出来るなら、ロロの手を握ったまま、このままベッドに突っ伏して寝てしまいたかった。しかし一度それを自分に許せば、ロロが目を覚ますまで、毎夜毎夜、自分はここで寝てしまうだろう。そうなったら気付かない内に相当の疲労が蓄積してしまう。
それ程長期間無理が効く身体ではないことはルルーシュ自身が一番よくわかっていた。
「…っ…」
ルルーシュがびくりと顔を上げた。ロロが少しだけ動いたのだ。だが、ロロは目を閉じたまま、顔をルルーシュの方に傾けただけだった。
ルルーシュは落胆の色を濃くしてから、ロロがほんの少しでも動く度にこうしてビクついている自分に、自嘲気味な笑みを浮かべた。
一秒でも早く目を覚まして欲しいと思うのと同時に、ロロの目覚めを何処かで恐れている自分がいる。
ロロが、どこまで覚えているのか。それを知る瞬間を。
自分は、ロロに、「ギアスに関する、全て」を忘れろと命令した。その範囲はあまりに広大すぎる。おそらくは、ロロの人生でギアスと関連していない部分は殆ど無いのだから。程度の差こそあれ、必ずロロの行動の下にはギアスの存在があった。その記憶を全て一気に失うことで、それに引き摺られる形で「ギアスに関する」という範囲外の記憶さえも忘却の海の底に沈む可能性がある。ルルーシュのギアスが対象の脳に介入することで、その影響でギアス介入前後の記憶が失われる事と、現象としては近い。
「ギアスに関する、全て」という範囲ですら未知数なのに、記憶を失った衝撃で失われる記憶まで考えると、ロロが目覚めた時、どのような状態になるのか、考えられうるパターンは膨大な数に上った。
ルルーシュは、ロロの顔にかかった髪を払ってやる。
自分のことを、ロロに覚えていて欲しい、と思うのは傲慢だろうか。
自分との思い出こそが、ロロにとって一番辛いものかもしれないのに。
あれだけ、兄さんと言われることに嫌悪感を覚えていたというのに、出来ればまたその口で「兄さん」と呼んではくれないかと、そう願うのは罪だろうか。
もっと早く気付いていれば良かったのだ。
もっと、もっと早く、自分の気持ちに。そうすれば、うわべだけの言葉を投げかけることも無かった。
ロロが偽の弟だと気付いた時からずっと、自分が紡いだのは心にもないことばかり。
自分の中にある、憎しみとない交ぜになった愛情を、ルルーシュは憎悪としか認識出来なかった。
もっと、早く、気付いていたら。
ギアスと関係のない思い出を、もっと作れたかもしれない。幸せな、思い出を。そうしたら、その記憶を頼りにして、ロロがルルーシュのことを忘れないでいてくれたかもしれなかった。
全ては、あとの、祭り。
ロロの頭に、「暗殺」という文字が思い浮かばない、という意味での「適度」な付き合いしかしなかった。
「そうだな…ロロが俺のことを忘れていても、仕方、ないのかもしれないな…」
ギアスとの関係を取り払った時、自分達の間には、何か残っていたのだろうか。
心の伴わない言葉を聴かせ、嘘の表情を見せた。結局は偽りの記憶しか与えられなかった。
ただ一つ、希望があるとすれば、ロロの記憶が失われる前に、ロロが口にした言葉。
『…忘れたくない…だって忘れたら…僕は…』
忘れたくない。それが自分のことだったと考えるのは自惚れだろうか。
ロロの心と記憶を蹂躙したルルーシュを、ロロが、もし最後の瞬間まで想っていてくれたなら。
ほんの少しだけでも、ルルーシュのことを覚えていてくれるかもしれない。
ルルーシュは机の上にある時計を見た。
もう休まなければ。
ルルーシュは、ロロの手の甲にキスを落としてから、その手を毛布の中にいれてやり、はなした。
自分には、待っていることしか出来ないのに、手を繋ぎ続けてやることさえ出来ないのだ。
「…っ…ロロ…。さっさと帰って来い!!」
ルルーシュは八つ当たりするように叫び、俯く。
早く目を醒まして欲しいと思う自分。ロロの目醒めを恐れる自分。何も出来ない自分。
その全てにルルーシュは苛立っていた。
「本っ当に、俺は、何も出来ない……!!」
ルルーシュは左目を手で押さえた。王の力。絶対遵守の力。それが、眠り続けるロロの目覚めに何の効果ももたらさない。
自分は、ロロに、何もしてやれない。
過去に、何もしてやらなかったくせに、ロロが過去の時間を大切に想っていてくれれば、とただ望むことしか出来ない。
目を包む水の量が、少しづつ増えていく。
泣くな。
俺に泣く資格などない。
泣くなと言っているだろうがこの大馬鹿野郎が!!!
込み上げてくる熱いものを押し返そうと、ルルーシュは右手の爪を服越しに、太ももに食い込ませる。
「……泣いて、いいよ」
?
ルルーシュは、自分が何を聴いたのか、理解することが出来なかった。
自分の頬にある温もりの正体がわからなかった。
なんだ、これは。
小刻みに震えながら、ルルーシュは顔を上げた。
視界に入る。起き上がったロロの上半身が、首筋が、そして、
「…僕の、一番大切な人」
微笑みを浮かべた、ロロの顔が。
「幽霊でも見たような顔、しないで」
ロロは点滴を抜いてから、呆然としているルルーシュの前で、ベッドの上で両膝をついた。
「僕は、ちゃんと、ここにいる。…何処にも行かないから」
ロロに頭を抱きしめられながら、ルルーシュはようやく理解した。
ロロが、目を覚ましたのだ、と。
『会イタイ 会イタイ 会イタイ』に続く
戻る
PR
癒し系ボタン
現在のお礼SS:ロロルルロロ一本。
効能:管理人のMP回復。感想一言頂けるととても喜びます。