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『待人目醒メズ』の続きです。 



   会イタイ 会イタイ 会イタイ



 何も、覚えていません。あなたのことは。
 あなたと僕がどんな関係だったのか、どんな時間を一緒に過ごしたのか。
 いつ出会ったのか。どんな出会いだったのか。
 交わした言葉も、共にいた場所の風景も、何一つ、覚えていないのです。

 あなたの、
 名前も。声も。顔も。性別も。髪の色も。背格好も。

 何も、思い出せないのです。

 でも、何故でしょうか。

 あなたが、僕の一番大切な人だということだけは、覚えています。
 それだけは、確かに、言える。

 何も覚えていないのに、それだけは確かに、言えるのです。

 あなたと一緒にいたいと、
 あなたに幸せであって欲しいと、
 あなたに愛されたいと、
 僕が、ずっとそう思い続けてきたのだと。

 あなたは今、笑っていてくれているのでしょうか?

 すぐにでも、本当は飛んで行きたいのです。

 でも、それで、いいのでしょうか。

 あなたと別れてから、どれだけ時間が経ったのかさえ、僕にはわからない。

 あなたは、僕のことを忘れているかもしれない。
 大切に想っているのは僕の方だけで、あなたは僕を何とも想っていなかったのかもしれない。

 いえ。そんなことはどうでもいいのです。
 それなら、傷つくのは僕だけです。

 僕が一番恐れているのは、あなたが僕を愛してくれていた時。

 僕が何も覚えていないことで、あなたを深く傷つけないでしょうか。
 笑っていて欲しいあなたの顔を、哀しみで歪めはしないでしょうか。

 僕が持っているのは、この気持ちだけなのに。

 好きです。
 大好きです。
 愛しています。
 今すぐ、会いたい。

 あなたの姿を思い浮かべることさえ出来ないのに、そんな想いが溢れてくるのです。

 あなたは、待っていてくれていますか。
 あなたの顔も、あなたとの大切な思い出も、何一つ覚えていない薄情な僕を。
 あなたへの想いしか、それだけしか持っていない僕を。

 こんな僕で、いいですか?

 僕は傷ついても構わない、そしてあなた以外他の何を傷つけても構わないと、そう思っているのに、あなたを傷つけることだけは、たまらなく怖いのです。

 何故こんなにも怖いのか、わかりません。
 ひょっとしたら、僕は、あなたを深く傷つけたことがあるのかもしれません。
 僕が、愛しいあなたの顔を哀しみに染め上げてしまったのかもしれません。

 教えてください。
 会いに行って、いいですか?

 あなたのもとに、帰っても、いいですか?

 きっとあなたへのこの想いがなければ、僕は、何処にも帰りたいとは思わなかったでしょう。
 でも、僕は、あなたのもとへと帰りたいのです。

 あなたの顔が見たい、話しがたい、抱きしめたい。

 あなたが呼んでくれれば、僕は飛んでいきます。
 ただ一言でいい。
 どうか、僕を、呼んでください。
 あなたへの想いしか持たず、あなたを傷つけることを恐れている僕を、導いてください。
 この世界を震わす程の言の葉で。

 それまで、僕は夢の底をたゆたっています。
 あなたが、呼んでくれるのを、ずっと、待っています。

 たった一つ、僕に残された、あなたへの想いだけを抱いて、待っています。


*   *   *


 眠り続けた先で、僕の耳に、僕を呼ぶ声が届いた。

「…っ…ロロ…。さっさと帰って来い!!」

 これが、あの人、の声?
 これが…。
 思い出そうとしても、あの人の声の記憶は何処にもない。
 本当にこの声が…? と思いながらも、
 この声に震えだした心に、僕は、確信した。
 これが、僕の、一番大切な人の、声。

「本っ当に、俺は、何も出来ない……!!」

 そんなことない。あなたは、僕を、呼んでくれた。


 今、帰るから。


 今すぐ、帰るから。


 待ってて。




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BGM:11文字の伝言 by Sound Horizon

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