×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
・ ルルーシュの記憶が戻る前の話。
・ ブラック・リベリオンからまだ日が浅く、ロロがルルーシュのことを嫌い嫌いで仕方なかった頃の話。
・ …と、いうわけでロロが始終ツンツンしております。
最初は、何も感じなかった。
あふれんばかりの愛情に包まれても、毎日のように親愛の抱擁を交わされても。
そんな日常に嫌悪感を覚えたのがいつからだったのか、ロロは覚えていない。一度自分が抱いた嫌悪に気付いてからは、それは日々、大きくなっていった。
そんな、ある日。
「弟」の演技を続けるつもりが、化けの皮が一気に剥がれた。
ルルーシュに触れられた瞬間、膨らみ続けていた憎しみが爆発したのだ。
――こいつは、ゼロという名の、悪魔。
「…触るな…気持ち悪いっ!!」
その言葉を口にした方も、口にされた方も、驚愕で硬直した。先に我に返ったのは言葉を口にしたロロで、ほんの数秒だけでギアスを使ってから、全速力でその場から走り去った。数秒後、遙か後方から、
「ロロっ!!」
ルルーシュの叫び声が聞こえたが、ロロは無視してクラブハウスを出た。
『好き』の反対は…-The Question-
銃声が、響き続けていた。銃弾が発射される度に空薬莢が転がり落ちてカラカラと音を立てる。
発射された銃弾は、そのいずれも標的に飲み込まれていった。しばらく、音が嵐のように響き渡たり、やがて、止む。銃声が響く間、アイプロテクターを通して標的を狙う目は、最初は苛立ちを隠していなかったものの、銃声が鳴るたびに落ち着きを取り戻し、最後には冷淡な色を見せていた。
他の職員を追い出した広大な地下射撃訓練場に、静寂が横たわる。
大きな青色のイヤープロテクターに覆われたロロの耳にも、痛いほどの静けさが訪れる。ロロはしばらくニーリングの態勢を取ったまま射撃場を見渡してから、銃を降ろし、立ち上がった。イヤープロテクターをゆっくりと外すと、
「…いい腕だな」
ヴィレッタがそう言いながら、ロロの斜め前にあるパネルを操作し始めた。これで射撃訓練の結果がわかる。
「Bフェイズの二個目の標的、Cフェイズの最初の標的、それからDフェイズの四個目が、多少ずれているでしょう。…心臓の位置から」
ロロは面白くなさそうに、アイプロテクターも外す。
「ああ、確かにその通りだ」
ヴィレッタは結果を確認してから言った。
「全部、心臓に撃ち込むつもりでした」
表情を全く変えないまま、ロロは感情の籠っていない声で言う。
「ロロ。さっきのことだが」
「…普通の兄弟でも、喧嘩ぐらいはするんでしょう?」
ロロはヴィレッタが言い終わる前に、言った。先程自分がルルーシュに「触るな」と言っていたのを、ヴィレッタは監視カメラを通して見ていた筈なのだ。
「そうだが」
「仰ってたじゃないですか。ルルーシュの愛情は異常だって。僕の任務はルルーシュを監視、ゼロとしての記憶が戻っているか否かを判断し…、最終的には殺すこと。ルルーシュのご機嫌取りじゃない。あとでルルーシュと普通に話せば済むことでしょう?」
「だが、あまりルルーシュを刺激し過ぎては記憶が戻る可能性もある…そうなったらC.C.を釣れなくなる」
ロロは先程まで数々の標的が立っていた場所を見る。
「…中佐」
「ん?」
「さっき、全部、心臓に撃ち込むつもりだったと…僕は言いましたよね」
「ああ」
「標的をルルーシュだと思って撃ってました…。全弾心臓に当たらなかったのが本当に残念です」
淡々と言うロロに、ヴィレッタは目を見開く。
「おいロロ…。まだルルーシュは…」
「わかっています。ゼロの記憶を取り戻したと明確にわかるまでは、手を下したりしません…でも」
ロロの口元が微笑みを浮かべるが、目には殺意が浮かんでいた。
「頭の中で殺すのは、僕の自由でしょう?」
* * *
放課後。シャーリーは廊下を歩いていた。
(ルル、今日はこなかったな…)
ルルーシュは今日、授業に来なかった。ルルーシュが授業をサボるのはよくあることなので、大して心配はしていない。しかし一体どこに行ったんだろうと思いながら、シャーリーは生徒会室のドアを開ける。
「…えっ…」
ドアを開けると、シャーリーは思わず声を上げた。
部屋の隅で、ルルーシュが椅子に座っていた。それだけなら驚きはしないのだが、問題はルルーシュの顔。
血の気が引いた真っ青な顔色をしながら、魂の抜けた紫の双眸が、何処ともわからない宙を見ていた。
「…ルル…?」
後ろ手にドアを閉めてから、シャーリーが心配そうにルルーシュに近づこうとすると、肩を誰かに掴まれた。
「会長?」
シャーリーが振り向くと、そこにはミレイが立っていた。
(…昨日、ロロと喧嘩したらしいのよ。原因はよくわからないんだけど)
ミレイがシャーリーに耳打ちする。
(ええっ!? ロロと?)
いつもロロとべったりな、あのルルが!?
と、驚きながらもシャーリーも声を落とす。
(そう。今日の朝、死にそうな顔でフラフラ歩いてたから、捕まえてここに連れてきたのよ。それで事情を聞いたんだけど、言ってることが要領を得なくて。なんとかわかったのは、昨日ロロと喧嘩したってことと、ロロが家出したって、ルルーシュが思い込んでたこと。でも、私が確かめてみたらロロは1限目には授業にいたらしいの…。それを教えてあげたら、ルルちゃん少しは安心したみたいなんだけど…でも、ずっとあの調子)
シャーリーは再びルルーシュの方を見た。腕が力なくだらりと垂れ下がり、何の意志も持たない瞳を晒すルルーシュを。
人間は誰に何を言われればあそこまで衝撃を受けるだろう。シャーリーは、ルルーシュの中でロロが占める場所の広大さを思わずにはいられなかった。
(あれはマズいですよぉ! なんとかしないと!)
(そうなんだけどねぇ…私もロロを捕まえようと思ったんだけど、雲隠れしてるみたいで。今リヴァルが探してるんだけど…見つかる気配ナシ)
(そんなぁ~~)
(電話しても出ないし)
(あ、会長! メールはしてみました?)
(したわよ~。『あなたのお兄さんが死にそうです』って)
(私もやってみます! 皆からメールが来ればロロも心配して来てくれるかも)
シャーリーは鞄から急いで携帯電話を出すと、メールを高速で打ちはじめた。
『ルルの魂が何処かに行ってしまっています。このままだと本当に違う世界の人になりそう。助けてあげてください。ロロしか助けられる人がいません。迎えに来てくれるだけで、ルルは喜ぶと思います』
文章はあまり繋がっていなかったが、とにかく一気に書き上げて、シャーリーはメールを送信した。
リヴァルの奔走も空しく、ロロは見つからなかった。他に対応策も思いつかず、ルルーシュをそっとしておくことしか出来ないので、生徒会のメンバーは仕方なく仕事を始めることにした。
ルルーシュを除く生徒会のメンバーで、時折ルルーシュの方を気にしながら、仕事を進める。いつもなら、
「会長、また仕事ためてー! もうっ!」
だとか、
「次はなんのパーティーにしようかしら? シャーリー、ナイスバディを披露してみない?」
「いいっスねぇ~」
だとか、常に誰かが喋っているものだが、この日は、書類をめくる音と、ペンが紙面を走る音しか聞こえなかった。一度だけルルーシュが身体を動かして、シャーリーがびくりとしたが、ルルーシュは顔を俯かせただけだった。
黙々と仕事をするという、このメンバーでは異様な状況の中で、窓から入ってくる光が少しづつ赤みを帯び始める。いつもよりかなり早いペースで書類が片付いてしまい、さて、これからどうしようか、と生徒会のメンバーが顔を見合わせた時、ノックの音が響いた。
「はーいー!」
ミレイが言うと同時に、ドアが開く。そこにはロロが立っていた。
『ロロ!!』
ミレイとシャーリーが同時にそう叫ぶと、ルルーシュの肩が大きく震えた。
「迎えに来ました。…兄さんを」
抑揚のない声でロロはそう言ってから、ルルーシュの方に歩き始める。
「ああっ! そうだ! シャーリー、今日服買いに行くって約束してたわよね! タイムセール、始まっちゃうし、そろそろ行きましょう! リヴァルも」
不自然に明るい声でミレイがそう言ってから、バタバタと音を立てて、ものの数秒で生徒会のメンバーは、部屋から姿を消した。
「…兄さん、帰ろう」
ルルーシュの傍に立って、ロロは言った。だがルルーシュは返事もせず、俯いたままだ。
「…帰りたくないの?」
ルルーシュは答えない。
「…そうだよね。…僕がいる家になんて、帰りたくないよね」
ロロは冷めた瞳でルルーシュから視線を外しながら、あからさまな溜息をついて言った。任務の為に、ルルーシュを迎えに来たつもりだった。適当に謝って仲直りしようと思っていた。だが、ルルーシュを実際に目にすると、嫌悪感が止まらなくなって、皮肉めいた言葉を口にしたくて仕方がなくなった。
突然、ルルーシュが立ち上がった。椅子が音を立てて動く。
「…兄さん?」
急に立ち上がったルルーシュに面食らっていると、ルルーシュの手が、高く上がった。
平手打ちされる、と瞬時に理解してから、避けようと身体が反応するが、この平手打ちは受けた方がいいだろうとすぐに判断する。そのまま全く動かないでいると、広げられていたルルーシュの手は時間をかけてゆっくりと握られ、元の位置へと下がっていた。
「…叩きたいなら、叩けばいいのに」
ロロが冷たく言い放つ。
「ロロ。昨日、俺がどんな思いをしたか、わかるか?」
「………さぁ」
実際、わからない。
「俺が嫌いなら嫌いで構わないから、昨日みたいなことは二度とするな!!」
ロロは不思議そうな瞳でルルーシュを見た。『俺が嫌いなら嫌いで構わないから、昨日みたいなことは二度とするな』というルルーシュの真意がわからなかったのだ。
「…なんで?」
わかった、とか、うん、だとか、素直に頷けば終わったものを、ロロは反射的に聞いていた。
「…夜遅く、外に出たら危ないことぐらい、わかるだろう! そんな時に出て行って、お前に何かあったら…!!」
「…本当に?」
ロロはルルーシュの言葉を遮った。
「…本当に、僕に何かあったら、兄さんは悲しむ?」
ルルーシュは驚愕に目を見開いてから、静かに言葉を紡ぐ。
「ロロ。俺は、何か気に障ることをしたのか…?」
「別に」
ルルーシュの瞳が戸惑うように動く。
「ねぇ兄さん…考えたこと、ない?」
止まらない。ルルーシュへの憎しみが。
「兄さんが僕を大切に思う気持ちが、全部作られたものだって」
駄目だとわかっているのに、際限のない湧き水のように次々と流れ出てくる黒い感情を、どうやっても止める事が出来ない。
「その作リモノの感情で、兄さんに大切にされてる僕はどうすればいいの? どう応えればいいの? …酷いよね。僕が兄さんにどんな感情を持ったって…、それは一人でゲームしてるのと、何も変わらないんだよ」
言葉が止まらない、止められない。
一気に言ってから、ロロは壮絶な笑みを浮かべて、ルルーシュの方を振り向いた。
「…兄さんには、僕の気持ちなんて、一生わからない」
それからすぐに背を向けて、
「今日、帰り、遅くなるから…友達の家に行ってる」
そう言ってからギアスを発動し、ロロは生徒会室を出た。
すぐに携帯電話が振動して、相手も確認せずに、ロロはでる。
『おいロ…』
「射撃訓練場、あけておいてください」
ヴィレッタが言い終わる前にロロはそう言って、きった。
地下に潜ると、機情の人間が非難の声を上げようとしたが、ロロが素早く折り畳み式のナイフを取り出してその場で開いて見せると、全員が黙った。わざと、肩の高さまでナイフを上げた状態で進むと、ヴィレッタが走ってモニタールームから出てくる。
ロロの持つナイフにぎょっとしながら、ヴィレッタは怯まなかった。
「ロロ、あれでは」
「うるさい黙れ!!」
普段滅多に声を上げることなどないロロの激昂に、機情の面々に驚愕の表情が浮かぶ。
「訓練場、あけてくれました?」
「ああ…。あけて、おいた」
怒りの表情から一転して無表情に戻ったロロに面くらいながら、ヴィレッタは答える。
「ありがとうございます」
ロロはにっこりと笑ってから、ナイフを畳んだ。
* * *
射撃訓練場に、銃声が響く。
「………っ!」
一つ、標的を逃して、ロロは舌打ちした。
二つ目、三つ目、四つ目、と弾を大きく外して、五つ外した時、ロロは立ち上がった。
まだ次々に標的が出てきているのに、プロテクターを外す。中にまだ弾が残っていなかったら、床に銃を投げつけるところだった。
「なんでっ…」
パネルを操作して、標的が出てくるのを止めてから、ロロは拳を握り、震わせた。
ルルーシュが憎い。憎くて仕方ない。
「なんで、僕がこんな役をやらなきゃいけないんだ…っ…!!」
言ってしまってから、ロロは息を呑む。
任務を受けた時は、なんとも思っていなかった筈だ。偽りの記憶を与えられた人間の傍で家族として振る舞い、監視し、殺す。家族というものを知らない自分に演じきれるだろうか、という懸念はあったが、それ以外の感情は一切なかった。
任務が始まってからも、最初はルルーシュのべったりぶりに驚きはしたものの、特に憎いとも思わなかった。監視して、ゼロの記憶を取り戻したら、殺す。考えていたのはそれだけだ。
それが、ルルーシュと時を過ごすうちに、少しづつ嫌悪感が増していったのは何故か。
演技が出来ないまでに、憎悪が噴出したのは何故か。
最初はキスされてもなんとも思わなかったのに、一度ルルーシュに隠れて嘔吐するまでに至ったのは何故か。
今まで暗殺対象は、モノでしかなかった。ロロ本人の心から湧き上がった殺意によって殺された対象は、今まで、無い。
ロロはぎり、と歯噛みしてから、パネルを操作して、標的が出るように設定する。
プロテクターをつけないまま、ロロは出てくる標的に向かって。撃った。
次々に出てくる標的に一発も当てられないまま、ロロは弾が切れるまで撃ち続けた。
銃が床に落ちる音が、訓練場に響いた。
「なんで…っ…なんでっ…!」
ロロは床に両膝をついた。
何故、止まらない。
何故、こんなにも、ルルーシュが憎い。
何故、こんなにも、呼吸が苦しい。
何故、こんなにも、身体が力の解放を求める。
何故、こんなにも、目の奥が熱くなる。
何故、こんなにも。
「……なんでっ!!!!」
戻りたい。何も感じていなかった頃へ。
キスにも抱擁にも、ルルーシュの存在自体に関心がなかったあの頃へ。
それさえ出来れば、こんなに苦しまずに済むのに。
悲痛な叫びが他に聞く者のない空間を震わせた後、ロロの頬を伝った涙が、ロロ本人にその存在を認識されないまま、音もなく落ちていった。
終
戻る
『好きの反対は…-The Answer-』まで続けたい…のですが、書き終われるか未知数なので一度、ここで終わっておきます。ツンツンロロは果たして需要があるのか…という疑問があるのですが管理人はツンツンロロ大好きです(笑)
BGM:澪音の世界 by Sound Horizon
→「少女」を「少年」に変えると後半ロロの曲に聞こえます。
・ ブラック・リベリオンからまだ日が浅く、ロロがルルーシュのことを嫌い嫌いで仕方なかった頃の話。
・ …と、いうわけでロロが始終ツンツンしております。
最初は、何も感じなかった。
あふれんばかりの愛情に包まれても、毎日のように親愛の抱擁を交わされても。
そんな日常に嫌悪感を覚えたのがいつからだったのか、ロロは覚えていない。一度自分が抱いた嫌悪に気付いてからは、それは日々、大きくなっていった。
そんな、ある日。
「弟」の演技を続けるつもりが、化けの皮が一気に剥がれた。
ルルーシュに触れられた瞬間、膨らみ続けていた憎しみが爆発したのだ。
――こいつは、ゼロという名の、悪魔。
「…触るな…気持ち悪いっ!!」
その言葉を口にした方も、口にされた方も、驚愕で硬直した。先に我に返ったのは言葉を口にしたロロで、ほんの数秒だけでギアスを使ってから、全速力でその場から走り去った。数秒後、遙か後方から、
「ロロっ!!」
ルルーシュの叫び声が聞こえたが、ロロは無視してクラブハウスを出た。
『好き』の反対は…-The Question-
銃声が、響き続けていた。銃弾が発射される度に空薬莢が転がり落ちてカラカラと音を立てる。
発射された銃弾は、そのいずれも標的に飲み込まれていった。しばらく、音が嵐のように響き渡たり、やがて、止む。銃声が響く間、アイプロテクターを通して標的を狙う目は、最初は苛立ちを隠していなかったものの、銃声が鳴るたびに落ち着きを取り戻し、最後には冷淡な色を見せていた。
他の職員を追い出した広大な地下射撃訓練場に、静寂が横たわる。
大きな青色のイヤープロテクターに覆われたロロの耳にも、痛いほどの静けさが訪れる。ロロはしばらくニーリングの態勢を取ったまま射撃場を見渡してから、銃を降ろし、立ち上がった。イヤープロテクターをゆっくりと外すと、
「…いい腕だな」
ヴィレッタがそう言いながら、ロロの斜め前にあるパネルを操作し始めた。これで射撃訓練の結果がわかる。
「Bフェイズの二個目の標的、Cフェイズの最初の標的、それからDフェイズの四個目が、多少ずれているでしょう。…心臓の位置から」
ロロは面白くなさそうに、アイプロテクターも外す。
「ああ、確かにその通りだ」
ヴィレッタは結果を確認してから言った。
「全部、心臓に撃ち込むつもりでした」
表情を全く変えないまま、ロロは感情の籠っていない声で言う。
「ロロ。さっきのことだが」
「…普通の兄弟でも、喧嘩ぐらいはするんでしょう?」
ロロはヴィレッタが言い終わる前に、言った。先程自分がルルーシュに「触るな」と言っていたのを、ヴィレッタは監視カメラを通して見ていた筈なのだ。
「そうだが」
「仰ってたじゃないですか。ルルーシュの愛情は異常だって。僕の任務はルルーシュを監視、ゼロとしての記憶が戻っているか否かを判断し…、最終的には殺すこと。ルルーシュのご機嫌取りじゃない。あとでルルーシュと普通に話せば済むことでしょう?」
「だが、あまりルルーシュを刺激し過ぎては記憶が戻る可能性もある…そうなったらC.C.を釣れなくなる」
ロロは先程まで数々の標的が立っていた場所を見る。
「…中佐」
「ん?」
「さっき、全部、心臓に撃ち込むつもりだったと…僕は言いましたよね」
「ああ」
「標的をルルーシュだと思って撃ってました…。全弾心臓に当たらなかったのが本当に残念です」
淡々と言うロロに、ヴィレッタは目を見開く。
「おいロロ…。まだルルーシュは…」
「わかっています。ゼロの記憶を取り戻したと明確にわかるまでは、手を下したりしません…でも」
ロロの口元が微笑みを浮かべるが、目には殺意が浮かんでいた。
「頭の中で殺すのは、僕の自由でしょう?」
* * *
放課後。シャーリーは廊下を歩いていた。
(ルル、今日はこなかったな…)
ルルーシュは今日、授業に来なかった。ルルーシュが授業をサボるのはよくあることなので、大して心配はしていない。しかし一体どこに行ったんだろうと思いながら、シャーリーは生徒会室のドアを開ける。
「…えっ…」
ドアを開けると、シャーリーは思わず声を上げた。
部屋の隅で、ルルーシュが椅子に座っていた。それだけなら驚きはしないのだが、問題はルルーシュの顔。
血の気が引いた真っ青な顔色をしながら、魂の抜けた紫の双眸が、何処ともわからない宙を見ていた。
「…ルル…?」
後ろ手にドアを閉めてから、シャーリーが心配そうにルルーシュに近づこうとすると、肩を誰かに掴まれた。
「会長?」
シャーリーが振り向くと、そこにはミレイが立っていた。
(…昨日、ロロと喧嘩したらしいのよ。原因はよくわからないんだけど)
ミレイがシャーリーに耳打ちする。
(ええっ!? ロロと?)
いつもロロとべったりな、あのルルが!?
と、驚きながらもシャーリーも声を落とす。
(そう。今日の朝、死にそうな顔でフラフラ歩いてたから、捕まえてここに連れてきたのよ。それで事情を聞いたんだけど、言ってることが要領を得なくて。なんとかわかったのは、昨日ロロと喧嘩したってことと、ロロが家出したって、ルルーシュが思い込んでたこと。でも、私が確かめてみたらロロは1限目には授業にいたらしいの…。それを教えてあげたら、ルルちゃん少しは安心したみたいなんだけど…でも、ずっとあの調子)
シャーリーは再びルルーシュの方を見た。腕が力なくだらりと垂れ下がり、何の意志も持たない瞳を晒すルルーシュを。
人間は誰に何を言われればあそこまで衝撃を受けるだろう。シャーリーは、ルルーシュの中でロロが占める場所の広大さを思わずにはいられなかった。
(あれはマズいですよぉ! なんとかしないと!)
(そうなんだけどねぇ…私もロロを捕まえようと思ったんだけど、雲隠れしてるみたいで。今リヴァルが探してるんだけど…見つかる気配ナシ)
(そんなぁ~~)
(電話しても出ないし)
(あ、会長! メールはしてみました?)
(したわよ~。『あなたのお兄さんが死にそうです』って)
(私もやってみます! 皆からメールが来ればロロも心配して来てくれるかも)
シャーリーは鞄から急いで携帯電話を出すと、メールを高速で打ちはじめた。
『ルルの魂が何処かに行ってしまっています。このままだと本当に違う世界の人になりそう。助けてあげてください。ロロしか助けられる人がいません。迎えに来てくれるだけで、ルルは喜ぶと思います』
文章はあまり繋がっていなかったが、とにかく一気に書き上げて、シャーリーはメールを送信した。
リヴァルの奔走も空しく、ロロは見つからなかった。他に対応策も思いつかず、ルルーシュをそっとしておくことしか出来ないので、生徒会のメンバーは仕方なく仕事を始めることにした。
ルルーシュを除く生徒会のメンバーで、時折ルルーシュの方を気にしながら、仕事を進める。いつもなら、
「会長、また仕事ためてー! もうっ!」
だとか、
「次はなんのパーティーにしようかしら? シャーリー、ナイスバディを披露してみない?」
「いいっスねぇ~」
だとか、常に誰かが喋っているものだが、この日は、書類をめくる音と、ペンが紙面を走る音しか聞こえなかった。一度だけルルーシュが身体を動かして、シャーリーがびくりとしたが、ルルーシュは顔を俯かせただけだった。
黙々と仕事をするという、このメンバーでは異様な状況の中で、窓から入ってくる光が少しづつ赤みを帯び始める。いつもよりかなり早いペースで書類が片付いてしまい、さて、これからどうしようか、と生徒会のメンバーが顔を見合わせた時、ノックの音が響いた。
「はーいー!」
ミレイが言うと同時に、ドアが開く。そこにはロロが立っていた。
『ロロ!!』
ミレイとシャーリーが同時にそう叫ぶと、ルルーシュの肩が大きく震えた。
「迎えに来ました。…兄さんを」
抑揚のない声でロロはそう言ってから、ルルーシュの方に歩き始める。
「ああっ! そうだ! シャーリー、今日服買いに行くって約束してたわよね! タイムセール、始まっちゃうし、そろそろ行きましょう! リヴァルも」
不自然に明るい声でミレイがそう言ってから、バタバタと音を立てて、ものの数秒で生徒会のメンバーは、部屋から姿を消した。
「…兄さん、帰ろう」
ルルーシュの傍に立って、ロロは言った。だがルルーシュは返事もせず、俯いたままだ。
「…帰りたくないの?」
ルルーシュは答えない。
「…そうだよね。…僕がいる家になんて、帰りたくないよね」
ロロは冷めた瞳でルルーシュから視線を外しながら、あからさまな溜息をついて言った。任務の為に、ルルーシュを迎えに来たつもりだった。適当に謝って仲直りしようと思っていた。だが、ルルーシュを実際に目にすると、嫌悪感が止まらなくなって、皮肉めいた言葉を口にしたくて仕方がなくなった。
突然、ルルーシュが立ち上がった。椅子が音を立てて動く。
「…兄さん?」
急に立ち上がったルルーシュに面食らっていると、ルルーシュの手が、高く上がった。
平手打ちされる、と瞬時に理解してから、避けようと身体が反応するが、この平手打ちは受けた方がいいだろうとすぐに判断する。そのまま全く動かないでいると、広げられていたルルーシュの手は時間をかけてゆっくりと握られ、元の位置へと下がっていた。
「…叩きたいなら、叩けばいいのに」
ロロが冷たく言い放つ。
「ロロ。昨日、俺がどんな思いをしたか、わかるか?」
「………さぁ」
実際、わからない。
「俺が嫌いなら嫌いで構わないから、昨日みたいなことは二度とするな!!」
ロロは不思議そうな瞳でルルーシュを見た。『俺が嫌いなら嫌いで構わないから、昨日みたいなことは二度とするな』というルルーシュの真意がわからなかったのだ。
「…なんで?」
わかった、とか、うん、だとか、素直に頷けば終わったものを、ロロは反射的に聞いていた。
「…夜遅く、外に出たら危ないことぐらい、わかるだろう! そんな時に出て行って、お前に何かあったら…!!」
「…本当に?」
ロロはルルーシュの言葉を遮った。
「…本当に、僕に何かあったら、兄さんは悲しむ?」
ルルーシュは驚愕に目を見開いてから、静かに言葉を紡ぐ。
「ロロ。俺は、何か気に障ることをしたのか…?」
「別に」
ルルーシュの瞳が戸惑うように動く。
「ねぇ兄さん…考えたこと、ない?」
止まらない。ルルーシュへの憎しみが。
「兄さんが僕を大切に思う気持ちが、全部作られたものだって」
駄目だとわかっているのに、際限のない湧き水のように次々と流れ出てくる黒い感情を、どうやっても止める事が出来ない。
「その作リモノの感情で、兄さんに大切にされてる僕はどうすればいいの? どう応えればいいの? …酷いよね。僕が兄さんにどんな感情を持ったって…、それは一人でゲームしてるのと、何も変わらないんだよ」
言葉が止まらない、止められない。
一気に言ってから、ロロは壮絶な笑みを浮かべて、ルルーシュの方を振り向いた。
「…兄さんには、僕の気持ちなんて、一生わからない」
それからすぐに背を向けて、
「今日、帰り、遅くなるから…友達の家に行ってる」
そう言ってからギアスを発動し、ロロは生徒会室を出た。
すぐに携帯電話が振動して、相手も確認せずに、ロロはでる。
『おいロ…』
「射撃訓練場、あけておいてください」
ヴィレッタが言い終わる前にロロはそう言って、きった。
地下に潜ると、機情の人間が非難の声を上げようとしたが、ロロが素早く折り畳み式のナイフを取り出してその場で開いて見せると、全員が黙った。わざと、肩の高さまでナイフを上げた状態で進むと、ヴィレッタが走ってモニタールームから出てくる。
ロロの持つナイフにぎょっとしながら、ヴィレッタは怯まなかった。
「ロロ、あれでは」
「うるさい黙れ!!」
普段滅多に声を上げることなどないロロの激昂に、機情の面々に驚愕の表情が浮かぶ。
「訓練場、あけてくれました?」
「ああ…。あけて、おいた」
怒りの表情から一転して無表情に戻ったロロに面くらいながら、ヴィレッタは答える。
「ありがとうございます」
ロロはにっこりと笑ってから、ナイフを畳んだ。
* * *
射撃訓練場に、銃声が響く。
「………っ!」
一つ、標的を逃して、ロロは舌打ちした。
二つ目、三つ目、四つ目、と弾を大きく外して、五つ外した時、ロロは立ち上がった。
まだ次々に標的が出てきているのに、プロテクターを外す。中にまだ弾が残っていなかったら、床に銃を投げつけるところだった。
「なんでっ…」
パネルを操作して、標的が出てくるのを止めてから、ロロは拳を握り、震わせた。
ルルーシュが憎い。憎くて仕方ない。
「なんで、僕がこんな役をやらなきゃいけないんだ…っ…!!」
言ってしまってから、ロロは息を呑む。
任務を受けた時は、なんとも思っていなかった筈だ。偽りの記憶を与えられた人間の傍で家族として振る舞い、監視し、殺す。家族というものを知らない自分に演じきれるだろうか、という懸念はあったが、それ以外の感情は一切なかった。
任務が始まってからも、最初はルルーシュのべったりぶりに驚きはしたものの、特に憎いとも思わなかった。監視して、ゼロの記憶を取り戻したら、殺す。考えていたのはそれだけだ。
それが、ルルーシュと時を過ごすうちに、少しづつ嫌悪感が増していったのは何故か。
演技が出来ないまでに、憎悪が噴出したのは何故か。
最初はキスされてもなんとも思わなかったのに、一度ルルーシュに隠れて嘔吐するまでに至ったのは何故か。
今まで暗殺対象は、モノでしかなかった。ロロ本人の心から湧き上がった殺意によって殺された対象は、今まで、無い。
ロロはぎり、と歯噛みしてから、パネルを操作して、標的が出るように設定する。
プロテクターをつけないまま、ロロは出てくる標的に向かって。撃った。
次々に出てくる標的に一発も当てられないまま、ロロは弾が切れるまで撃ち続けた。
銃が床に落ちる音が、訓練場に響いた。
「なんで…っ…なんでっ…!」
ロロは床に両膝をついた。
何故、止まらない。
何故、こんなにも、ルルーシュが憎い。
何故、こんなにも、呼吸が苦しい。
何故、こんなにも、身体が力の解放を求める。
何故、こんなにも、目の奥が熱くなる。
何故、こんなにも。
「……なんでっ!!!!」
戻りたい。何も感じていなかった頃へ。
キスにも抱擁にも、ルルーシュの存在自体に関心がなかったあの頃へ。
それさえ出来れば、こんなに苦しまずに済むのに。
悲痛な叫びが他に聞く者のない空間を震わせた後、ロロの頬を伝った涙が、ロロ本人にその存在を認識されないまま、音もなく落ちていった。
終
戻る
『好きの反対は…-The Answer-』まで続けたい…のですが、書き終われるか未知数なので一度、ここで終わっておきます。ツンツンロロは果たして需要があるのか…という疑問があるのですが管理人はツンツンロロ大好きです(笑)
BGM:澪音の世界 by Sound Horizon
→「少女」を「少年」に変えると後半ロロの曲に聞こえます。
PR
癒し系ボタン
現在のお礼SS:ロロルルロロ一本。
効能:管理人のMP回復。感想一言頂けるととても喜びます。