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・『キノの旅』の「人の痛みが分かる国」のパロディです。(後半違う話になってますが…)
・タイトルは『狼と香辛料』のOPテーマより。
・エルメスはいません(笑)
・13話でロロがなんと言われようと、ロロとルルーシュを応援するSSです。
旅の途中(1)
「本当に誰もいないな……」
高層ビルの展望台で、ロロは一人、ため息をついた。
一人旅を始めて数年経つが、入国し、都市部に入って二日目だというのに、人間に全く会えないなんて体験は今までしたことがない。入国審査もホテルの予約もレストランの注文を訊くのも、全て機械がやっていた。道を走る車は清掃専門車で、無人だった。
一体この国はどうなっているのだと質問しようにも、答えてくれる人間はいない。他の質問にはいくらでも答えてくれる機械達も、「何故人がいないの?」という問いには答えてくれなかった。
ロロは設置してある高倍率の双眼鏡にコインを入れて、家らしき建物が連なる場所を覗いた。
(手入れが行き届いてる庭があるんだけどなぁ…)
花に囲まれた一軒家や、洗濯物が干してある家が、ロロの目に映った。確かに人がいる筈なのだが、人の姿は全く見えない。
(でも、行ってみる価値はあるかもしれない…行ってみよう。あの辺りへ)
干してある洗濯物が、まさか機械の為のものではないだろうと判断し、ロロは展望室にあるインフォメーションパネルを操作して、住宅地と思われる場所の住所番号を確認した。
住所番号を頭に入れて、ロロはエレベーターで一階まで降りた。
広大なロビーには、やはりロロ以外の人間は誰もいない。掃除用の機械が、歩くのが申し訳ないぐらいにぴかぴかに磨き上げられているというのに、床に汚れが無いかどうかのチェックを数台で行っていた。
「オ客様」
掃除用の機械に長い首と頭をつけたような機械が、ロロに近づきながら、エントランスへと進むロロを呼び止める。
ロロが立ち止まると、
「今日ハ最高気温36℃トイウ予想ガデテイマス。ヨロシケレバオ飲ミ物ヲドウゾ」
機械はペットボトルに入った水を差し出してきた。
「…ご親切にどうも」
ロロがよく冷えたペットボトルを受け取ると、機械は「良イ一日ヲ」と言って去っていた。
貰ったペットボトルを肩から掛けた鞄に入れながらエントランスに立つと、ガラス製の自動ドアが開く。入ってきた熱気にロロは顔をしかめた。
午前中だというのに、容赦なく太陽の光が街を突き刺していた。照り返しに思わず目を細めてしまうような中、ロロはエントランス前の階段を下っていた。
階段を下り終えると、車道に停まっていた車から、すかさず人口音声が響く。
「ゴ利用ナサイマスカ?」
「…うん、乗らせて貰うよ」
ロロが車に近づきながら言うと、車のドアが勝手に開いて、
「行キ先ハドチラデスカ?」
訊いてきた。ロロが住所番号を告げながら車に乗り込むと、やはりドアが自動的に閉まった。外の地獄のような気温とはうって変わって、車内はひんやりとした空気が保たれていた。
「クーラーノ温度ハ今ノ状態デヨロシイデスカ?」
車が発進したとほぼ同時に、人口音声が訊いてきた。
「今の温度でいいよ」
* * *
住宅地に着き、車を降りると、外の空気はビルを出た時よりも遙かに上がっていた。その暑さに一瞬、ホテルに戻ろうか、とロロは考えたが、なんとか踏み止まる。
住宅地といっても家同士の距離はかなり離れていて、どんなに近くても五十メートルは離れていた。間には必ず沢山の木が互いの家を隠すように植えられている。
(…誰もいない…)
道は、人が一人通れるぐらいの幅には舗装されていたが、周りは草だらけだった。道の脇には木が等間隔に植えられている。
三十分ほど住宅地の道を歩いたが、ロロが人間の姿を見ることはなかった。
なるべく木陰を歩こうとしているのだが、それでもあまりの暑さに頭がおかしくなりそうだ。
ひょっとしたら、あまりに暑いから人が出てこないだけなのでは、という考えが暑さにやられた頭に浮かぶが、夜でも人が殆どいなかったのを思い出して、ロロはその考えを否定した。
(もう少し歩いたら休もうか…アレ?)
右に大きく曲がった道を曲がりきると、道の真ん中で黒髪の青年が地面に膝を着き、苦しそうに胸を押さえていた。
「大丈夫ですか」
「―――!?」
ロロが走り寄り、しゃがんで青年の肩に手をやると、青年は瞬時に顔をあげてロロを驚愕の瞳で見た。ロロもまた青年の瞳を見て驚く。青年の右の瞳は美しいアメジストだったが、左の目には赤い模様が浮かび、光っていたのだ。
不気味な赤い光に晒されながらも、ロロは黒髪の青年の瞳に魅入られていた。おそらくは、その瞳の奥にある魂に。
青年の奥底にある何かに引きずり込まれるような感覚を覚えながら、ロロは青年の瞳から目を反らすことが出来なかった。
「…何故…」
青年はそう口にしてしばらくロロを見詰めてから、何かに気付いたように息を呑み、
「離せ!!」
叫んだ。青年の左目にある赤い模様が輝きを増す。
ロロは、青年の声で我に返った。
「嫌です」
ロロは反射的にそう言っていた。いつものロロであれば、「離せ!!」などと言われたら、その場から離れていたかもしれない。助けを拒む相手に無理に手を貸そうとして、逆に銃殺された…という話は旅人の間ではよく聞く話なのだ。
そうしなかったのは、青年が、この国で始めて会った人間、ということもあったのかもしれない。この先、道を歩き続けた所で他に人間に会えるとは限らないということもある。
だが、ロロが反射的に青年の叫びを拒否した理由はそれだけではなかった。青年の中にある何かが、ロロを捕らえて離さなかったのだ。
「……え?」
青年は呆けた顔をした。
「俺のギアスが利かない……?」
「…? そこの木陰に行きましょう。歩けますか?」
「…あ…悪い…肩を貸してくれないか」
ロロは青年に肩を貸して木陰に移動し、青年を座らせて、水の入ったペットボトルを差し出した。
「多分、ぬるくなってると思いますけど」
「いや…ありがとう」
青年は胸のポケットに手を入れて、ピルケースを出し、そこから数粒錠剤を手のひらに出してから、ペットボトルの水で飲んだ。
「しばらく休めば大丈夫だ。…さっきは悪かった。声をかけてくれたのに」
「いえ……」
青年は空になったペットボトルをロロに渡してから、木の幹に背を預けて、目を閉じた。
青年の苦しげな呼吸が静かな道に響き、共に肩が上下する。
青年の額から汗が流れ落ちるのを見て、ロロが汗を拭いてやると、青年はびくりとしながら目を見開いた。
「あ…すみません…。声をかけた方がよかったですね」
青年は小さく、気にするな、と言って再び目を閉じた。
「失礼します」
ロロは汗を拭いてやりながら、青年の肌の美しさを目の当たりにしていた。肌理が細かすぎて、汗を拭くハンカチがすべってしまう。下手をすると薄い皮膚を傷つけてしまいそうで、ロロは慎重にハンカチを青年の肌に当てた。
肌に貼り付いた黒髪をはらってやってから、ロロはしばらく、街のパンフレットで青年を扇いでやる。
何故自分はこんなことをしているのだろう、と思った。ロロは決して親切な人間ではない。過ぎた『親切』で身を滅ぼしてしまった旅人達を沢山見てきたせいか、進んで他人に何かをしようと思えなくなっていた。
何故だろう、何故その自分がこんなことをしているんだろう、と思いながらも、ロロは風を青年に送り続けた。
青年の呼吸が落ち着くころになると、二人に味方をするように涼やかな風が抜けていった。
ふいに、ゆっくりと青年の紫の瞳が開かれ、ロロを見た。
「扇いでくれていたのか…悪いな。ところで…」
まだ喋るのは辛そうな様子で、青年は続ける。
「君は…この国の人間ではないな…?」
「はい。僕は、旅人です」
「そうか…旅人か…ははっ…はははっ…!」
そこで何故笑い声をあげるのだろう、と疑問顔のロロの前で、青年はひとしきり笑ってから、ロロが思わずどきりとしてしまうような柔らかい微笑を浮かべた。
「よかったら、俺の家に来てくれないか? ここから歩いて二分ぐらいの所なんだ。お礼もしたい」
「…いいんですか?」
「是非」
「じゃあ、お邪魔させて頂きます」
「…ありがとう」
青年は立ち上がろうと、木の幹に手をやったが、なかなか立ち上がることが出来なかった。
ロロが先に立って、青年に手を伸ばす。
青年はロロの手をとって立ち上がった。
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・タイトルは『狼と香辛料』のOPテーマより。
・エルメスはいません(笑)
・13話でロロがなんと言われようと、ロロとルルーシュを応援するSSです。
旅の途中(1)
「本当に誰もいないな……」
高層ビルの展望台で、ロロは一人、ため息をついた。
一人旅を始めて数年経つが、入国し、都市部に入って二日目だというのに、人間に全く会えないなんて体験は今までしたことがない。入国審査もホテルの予約もレストランの注文を訊くのも、全て機械がやっていた。道を走る車は清掃専門車で、無人だった。
一体この国はどうなっているのだと質問しようにも、答えてくれる人間はいない。他の質問にはいくらでも答えてくれる機械達も、「何故人がいないの?」という問いには答えてくれなかった。
ロロは設置してある高倍率の双眼鏡にコインを入れて、家らしき建物が連なる場所を覗いた。
(手入れが行き届いてる庭があるんだけどなぁ…)
花に囲まれた一軒家や、洗濯物が干してある家が、ロロの目に映った。確かに人がいる筈なのだが、人の姿は全く見えない。
(でも、行ってみる価値はあるかもしれない…行ってみよう。あの辺りへ)
干してある洗濯物が、まさか機械の為のものではないだろうと判断し、ロロは展望室にあるインフォメーションパネルを操作して、住宅地と思われる場所の住所番号を確認した。
住所番号を頭に入れて、ロロはエレベーターで一階まで降りた。
広大なロビーには、やはりロロ以外の人間は誰もいない。掃除用の機械が、歩くのが申し訳ないぐらいにぴかぴかに磨き上げられているというのに、床に汚れが無いかどうかのチェックを数台で行っていた。
「オ客様」
掃除用の機械に長い首と頭をつけたような機械が、ロロに近づきながら、エントランスへと進むロロを呼び止める。
ロロが立ち止まると、
「今日ハ最高気温36℃トイウ予想ガデテイマス。ヨロシケレバオ飲ミ物ヲドウゾ」
機械はペットボトルに入った水を差し出してきた。
「…ご親切にどうも」
ロロがよく冷えたペットボトルを受け取ると、機械は「良イ一日ヲ」と言って去っていた。
貰ったペットボトルを肩から掛けた鞄に入れながらエントランスに立つと、ガラス製の自動ドアが開く。入ってきた熱気にロロは顔をしかめた。
午前中だというのに、容赦なく太陽の光が街を突き刺していた。照り返しに思わず目を細めてしまうような中、ロロはエントランス前の階段を下っていた。
階段を下り終えると、車道に停まっていた車から、すかさず人口音声が響く。
「ゴ利用ナサイマスカ?」
「…うん、乗らせて貰うよ」
ロロが車に近づきながら言うと、車のドアが勝手に開いて、
「行キ先ハドチラデスカ?」
訊いてきた。ロロが住所番号を告げながら車に乗り込むと、やはりドアが自動的に閉まった。外の地獄のような気温とはうって変わって、車内はひんやりとした空気が保たれていた。
「クーラーノ温度ハ今ノ状態デヨロシイデスカ?」
車が発進したとほぼ同時に、人口音声が訊いてきた。
「今の温度でいいよ」
* * *
住宅地に着き、車を降りると、外の空気はビルを出た時よりも遙かに上がっていた。その暑さに一瞬、ホテルに戻ろうか、とロロは考えたが、なんとか踏み止まる。
住宅地といっても家同士の距離はかなり離れていて、どんなに近くても五十メートルは離れていた。間には必ず沢山の木が互いの家を隠すように植えられている。
(…誰もいない…)
道は、人が一人通れるぐらいの幅には舗装されていたが、周りは草だらけだった。道の脇には木が等間隔に植えられている。
三十分ほど住宅地の道を歩いたが、ロロが人間の姿を見ることはなかった。
なるべく木陰を歩こうとしているのだが、それでもあまりの暑さに頭がおかしくなりそうだ。
ひょっとしたら、あまりに暑いから人が出てこないだけなのでは、という考えが暑さにやられた頭に浮かぶが、夜でも人が殆どいなかったのを思い出して、ロロはその考えを否定した。
(もう少し歩いたら休もうか…アレ?)
右に大きく曲がった道を曲がりきると、道の真ん中で黒髪の青年が地面に膝を着き、苦しそうに胸を押さえていた。
「大丈夫ですか」
「―――!?」
ロロが走り寄り、しゃがんで青年の肩に手をやると、青年は瞬時に顔をあげてロロを驚愕の瞳で見た。ロロもまた青年の瞳を見て驚く。青年の右の瞳は美しいアメジストだったが、左の目には赤い模様が浮かび、光っていたのだ。
不気味な赤い光に晒されながらも、ロロは黒髪の青年の瞳に魅入られていた。おそらくは、その瞳の奥にある魂に。
青年の奥底にある何かに引きずり込まれるような感覚を覚えながら、ロロは青年の瞳から目を反らすことが出来なかった。
「…何故…」
青年はそう口にしてしばらくロロを見詰めてから、何かに気付いたように息を呑み、
「離せ!!」
叫んだ。青年の左目にある赤い模様が輝きを増す。
ロロは、青年の声で我に返った。
「嫌です」
ロロは反射的にそう言っていた。いつものロロであれば、「離せ!!」などと言われたら、その場から離れていたかもしれない。助けを拒む相手に無理に手を貸そうとして、逆に銃殺された…という話は旅人の間ではよく聞く話なのだ。
そうしなかったのは、青年が、この国で始めて会った人間、ということもあったのかもしれない。この先、道を歩き続けた所で他に人間に会えるとは限らないということもある。
だが、ロロが反射的に青年の叫びを拒否した理由はそれだけではなかった。青年の中にある何かが、ロロを捕らえて離さなかったのだ。
「……え?」
青年は呆けた顔をした。
「俺のギアスが利かない……?」
「…? そこの木陰に行きましょう。歩けますか?」
「…あ…悪い…肩を貸してくれないか」
ロロは青年に肩を貸して木陰に移動し、青年を座らせて、水の入ったペットボトルを差し出した。
「多分、ぬるくなってると思いますけど」
「いや…ありがとう」
青年は胸のポケットに手を入れて、ピルケースを出し、そこから数粒錠剤を手のひらに出してから、ペットボトルの水で飲んだ。
「しばらく休めば大丈夫だ。…さっきは悪かった。声をかけてくれたのに」
「いえ……」
青年は空になったペットボトルをロロに渡してから、木の幹に背を預けて、目を閉じた。
青年の苦しげな呼吸が静かな道に響き、共に肩が上下する。
青年の額から汗が流れ落ちるのを見て、ロロが汗を拭いてやると、青年はびくりとしながら目を見開いた。
「あ…すみません…。声をかけた方がよかったですね」
青年は小さく、気にするな、と言って再び目を閉じた。
「失礼します」
ロロは汗を拭いてやりながら、青年の肌の美しさを目の当たりにしていた。肌理が細かすぎて、汗を拭くハンカチがすべってしまう。下手をすると薄い皮膚を傷つけてしまいそうで、ロロは慎重にハンカチを青年の肌に当てた。
肌に貼り付いた黒髪をはらってやってから、ロロはしばらく、街のパンフレットで青年を扇いでやる。
何故自分はこんなことをしているのだろう、と思った。ロロは決して親切な人間ではない。過ぎた『親切』で身を滅ぼしてしまった旅人達を沢山見てきたせいか、進んで他人に何かをしようと思えなくなっていた。
何故だろう、何故その自分がこんなことをしているんだろう、と思いながらも、ロロは風を青年に送り続けた。
青年の呼吸が落ち着くころになると、二人に味方をするように涼やかな風が抜けていった。
ふいに、ゆっくりと青年の紫の瞳が開かれ、ロロを見た。
「扇いでくれていたのか…悪いな。ところで…」
まだ喋るのは辛そうな様子で、青年は続ける。
「君は…この国の人間ではないな…?」
「はい。僕は、旅人です」
「そうか…旅人か…ははっ…はははっ…!」
そこで何故笑い声をあげるのだろう、と疑問顔のロロの前で、青年はひとしきり笑ってから、ロロが思わずどきりとしてしまうような柔らかい微笑を浮かべた。
「よかったら、俺の家に来てくれないか? ここから歩いて二分ぐらいの所なんだ。お礼もしたい」
「…いいんですか?」
「是非」
「じゃあ、お邪魔させて頂きます」
「…ありがとう」
青年は立ち上がろうと、木の幹に手をやったが、なかなか立ち上がることが出来なかった。
ロロが先に立って、青年に手を伸ばす。
青年はロロの手をとって立ち上がった。
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