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旅の途中(3)
ロロが泊まっていくことが、ルルーシュは余程嬉しかったらしい。ロロの返答を聞いて喜びの表情を浮かべた後、キッチンとリビングを分ける壁に掛かっていた電話を手にしながら、
「何か食べられないものとか、嫌いなものは?」
と、うきうきした様子でロロに訊いてきた。
「…カニを食べると痒くなる」
昼食を準備していた時以上に幸せそうな顔のルルーシュに、ロロは面食らいながらも答えた。
「他には?」
「特にないよ」
「了解」
ルルーシュは目にも止まらぬ早さで、電話の番号キーを打った。そして電話を耳に当てながら、キッチンへと入っていく。
冷蔵庫を開ける音がした後、キッチンからルルーシュの声が聞こえた。 何やら電話の相手に、食材を注文しているようだった。
「これで夕飯はよしっ、と」
「…いつも、食材は電話で注文してるの?」
キッチンから出てきたルルーシュに訊くと、
「いや。普段は前もってパソコンから、注文するんだ。俺の場合は面倒だから、調味料類以外は「おまかせ」にしてあるけどな。そうすると、栄養バランスを考えて、色々な食材が送られてくる。たまに、酷い組み合わせのが来る時があるが…。その時はどんな料理が出来るから考えて楽しんでるよ。でも、…今みたいに、すぐ欲しいものがある場合は電話した方が早いからさ」
ルルーシュは答えながら、ソファに座った。
「そうだロロ。…他の国の話、聞かせてくれないか?」
「いいよ。じゃあ…」
* * *
ロロの旅の話を、ルルーシュは興味深そうに聞いていた。
先程のことを反省して、ロロはなるべく凄惨な話は避けながら、ルルーシュが興味を持ちそうな話を選んでいた。
そうやって話を続ける内に、おやつに丁度いい時間になると、ルルーシュがクッキーでも焼くよ、と言って席を立って、キッチンでこれまた楽しそうに材料を並べ始めた。
「何か、手伝うこと、ある?」
ロロは覗き窓から訊いた。
「悪い。全部やらせてくれないか。…本当に好きなんだ。こういうの。誰かの為にクッキー焼くことが出来るなんて、もうないと思ってたし」
心から幸せそうにそう微笑まれては、ロロは引き下がるしかない。
「少しかかるから、時間潰しててくれないか。見られて困るものもないから、どの部屋も好きに使っていいよ」
この人大丈夫なのか、とロロは若干心配しながら、
「…何か持ち逃げする人かもしれないよ、僕。何処かの国で、窃盗犯で逮捕状がでてるかも。人のパソコンで悪いことをする奴かもしれない」
呆れたように言った。
「そうじゃないと信じてるよ。…ああ、そうだ。二階はクーラーがついてないから、二階に行ったらすぐにつけた方がいい」
流された…と思いながらロロは頷くと、しばらくリビングで熱帯魚を眺めてから、二階への階段を上った。
二階に行くと、そこには部屋が三つあった。
やっぱり、一人で住むには大きい家だなぁ…と思いながらも、部屋を覗いてみる。
一つ目の部屋は、小さなソファが一つと、パソコンと周辺機器、黒い机がある以外は、全て本棚に占拠されている広い書斎だった。棚には、本やディスクが整然と並んでいる。本の保存の為か、窓には分厚いカーテンがかけられていた。
二つ目の部屋は寝室で、クローゼットと、腰の高さぐらいまである幅の広い棚、一人で寝るにはかなり大きなベッド、その脇には照明器具とオーディオ機器が置いてあった。レースのカーテンの向こうにベランダが見え、花が植えられた植木鉢がその端に並んでいた。
三つ目の部屋を見た時、
「?」
ロロはしばらく考えた。
そこにはスチールラックが並び、用途のよくわからない機器や、これまた用途がわからないプラスチック製の容器が置かれていた。
機器には一つ一つメモ用紙が張られていて、それを見てみると、
「血圧用・データ提出は第二月曜と第四月曜」
とか、
「心音計測・データ提出は月曜と木曜」
などと貼られていた。検査機器か…と思いながら、壁にあるホワイトボードに張られたメモをロロは見た。書いてあったのは、ルルーシュの服用している薬で、その種類の多さに、ロロは驚いた。
屋根裏部屋に行くと、そこにもベッドが一つあり、部屋の中央には、丸いテーブルが置いてあって、その上には写真立てがあった。
(二つ目のベッド……?)
部屋半分は、物置になっていた。半透明のプラスチックのケースが沢山、重ねて置いてある。
テーブルの上の写真立てを見てみると、妙齢の女性が二人と、ルルーシュらしき子ども、茶色の髪で緑の瞳の男の子、ピンク色の髪に紫色の瞳の女の子、ふわふわしたアッシュブロンドの女の子が映っていた。おそらく母親二人と、その子ども達だろう。
ロロが半透明のプラスチックケースの方を見ると、玩具、アルバム、メダルなどが、透けて見えた。
(多分、ここには、思い出が詰まってるんだね…)
なんとなく息苦しい感じがして、ロロは階段をおり、書斎へ向かった。
書斎でパソコンを開いて、裁判記録が見られないか検索したが、ロロの見たかったものは見つからなかった。ギアスの暴走事故、特に最初の事故がどう処理されたのか、見たかったのだ。
(やっぱり記録がない…。人は死んでるけど、国のシステムから起こった事故だから、最初にギアスが暴走した人も、それ以降の人も起訴されていない…そんなところかな。裁判してる場合じゃなかったのかもしれないけど)
しばらくギアスと関係ない他の事件の記録を見てから、ロロはパソコンをシャットダウンし、刑法の本を本棚からとって、寝室のベッドで横になって読み始めた。
パラパラとめくり、殺人罪のあたりで手を止める。旅人を殺しても罪にならない国もあるので、入国する前に必ず法律関係は確認しているが、じっくりと読むと印象が違う。
(有罪か無罪か…その判断が被害者の属性には依存していない。それとさっきの裁判記録を見る限りだと、被害者が幼さなかったり、弱者だったりすることで、ジャッジの心証に影響して、刑が重くなってる…。僕の国とは大違いだ)
ロロはかつて自分が住んでいた国の法律を思い浮かべた。どんなに幼い子どもでも、その国では親から何度も叩き込まれる法律のとある部分――この国と真逆である、殺人罪の定義を。
『ロロ。刑法を見てるとね、色々わかるんだよ。その国がどういう国なのか。国によっては即死刑になるようなことでも、国によっては刑法上にない場合すらある。そこにどんな考えの違いあるのか、考えてみないとね。…人間の中で生きていくって難しいことだからさ。特に、考えの基盤が違う人間同士だと、つまんないことで喧嘩始めるしね。
旅人はその辺り分かってないとまずいよ。…そうでなくなって、『知りませんでした』で銃殺刑だの、電気椅子だの、絞首刑だの、嫌だろう? …まぁ、国によっては城壁だけあって文字通り無法地帯なんてトコもあるけど』
一人で旅を始める前に出会った少年の言葉を思い出しながら、ロロは書斎に本を戻しにいった。
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