旅の途中6.5

　　　

　
　　　旅の途中（6.5）



『駄目だよ。ロロ。そんな顔しても。
　ここで、お別れ。君は今から一人で生きていくんだ。…どうしてそんな顔してるの？ 僕は君に一度だって優しくした覚えは全然ないんだけどね。
　どうしてお別れかって？　つまらなくなったからだよ。最初に言ったよね？　君を僕の車に乗せてあげたのは暇つぶし。生きる術を教えてあげたのも、暇つぶし。
　まぁでも、結構楽しかったけどね。でももう、君は一人で生きていけるし、僕が教えることもないし…退屈しのぎにもならないのに、一緒にいたら面倒なだけだよ。
　君だって、僕しかいなかったから、僕のことが好きだと勘違いしてるだけだよ。僕は君のこと、別に嫌いじゃないけど、特に好きでもないしね。

そうだな。今まで楽しませてくれたお礼に、少し教えてあげようか。

　ロロ。忘れないで。君が呪われてるってこと。
　そして改めて、僕が呪ってあげるよ。

　　君は一生、誰かと幸せになることは出来ない。

　勘違いしないで。この呪いは祝福だよ。

　君が生まれてからあの国で過ごした時間も、君があの国でやったことも、僕と過ごした時間も、絶対に君の中から消えはしない。こいつらは全部、君を呪ってる。

　自分が呪いにかかってるって、知らずにいたら、一生君は幸せになんてなれないから。呪いにかかってるって、絶対に忘れちゃいけないんだよ。だから僕が改めて呪ってあげた。
　
　そしてもう一つ。覚えておいて。
　呪いを解くのが遅くなればなるほど、君はきっと、呪いを解く気力も失うんだよ。もちろん、一人で生きることが本当に幸せだって人間も世界にはいるさ。でも、君はどう見てもそういう種類の人間じゃない。
　誰かを好きになりたいんだろう？　誰かに好きになってほしいんだろう？　だったら、早く呪いを解かないとダメ。…手遅れになる。

　さぁ、行くんだ。応援ぐらいはしてあげるよ。

　この狂った世界で、幸せになってみせて。
　呪いを解いてみせて』

『V.V.』

『何？』

『…今まで、ありがとう』

『……』

『ありがとう』

『お礼を言われる筋合いはないね。…言ったよね。暇つぶしだったって』

『そんなことないよ。あるんだ。お礼を言う理由が。呪いを解く方法はわかってる。それは、僕が欲しいものを手に入れればいい。…でも』

『でも？』

『そんなの、無理』

『諦めてるんだ？』

『うん。…だって、V.V。…いると思う？　僕が欲しいもの…呪いを解くために必要なものをくれる人が、この世界に』

『…可能性は低いだろうね』

『だったら、最初から希望なんて持ちたくない。…誰かと一緒に幸せになれるかもしれないなんて、考えない方がいい』

『それが、君の答えなんだ？』

『だって。僕は信じてたんだよ。V.V.が僕を好きになってくれるんじゃないかって。…でも、V.V.にとって僕は暇つぶしでしかなかった。そうなんでしょう？』

『そうやって同情させて、僕を引き止めるつもり？　無駄だよ』

『違うよ。そんなことしたって無駄だって、わかってる。…知っておいて欲しかっただけ。一生呪いが解けないような、そんな僕と、今まで一緒にいてくれて、本当に感謝してるって。たとえV.V.が僕を玩具か何かだと思ってたとしても、僕の傍にいてくれたのは、V.V.だけだった。そしてもう一つ、せっかく祝福してくれたのに、僕に呪いを解く気がないことを、謝りたかった』

『いいの、それで。呪いにかかったままで』

『本当は、嫌だよ。…本当は、出来るなら、誰かと笑っていたい。でも、もう誰も、何も信じたくない。もう誰にも『死ね』って言われたくない。…一生、何も、信じない』

『じゃあ、君の旅は、君が死ぬまで終わらないんだね』

『…旅の途中で、信じたいと思える誰かに、出会わなければ。ね。でもね。それでもいいと思うんだ。一緒に幸せになんてなれなくていい。
　
　でも…。
　一度でいい。一度でいいんだ。
　一度でいいから、死ぬ前に誰かに愛されたい。そして僕もその人を愛せたら、それだけで、十分だよ』

『…その誰かと出会った時、ほんの少しでも、信じる力が残っているといいね。…そしたら、君の旅は終わるかもしれない』

『そんな風に言ってくれるなんて、思わなかった』

『言っただろう？　応援ぐらいはしてあげるって。別に君を嫌ってるわけじゃない。ただ僕は飽き性だからね。…さて、いい加減この辺にしておこうか。じゃあ…頑張ってね。良い旅を』


＊　　＊　　＊


『やっと行ったか…。あーあ。話し相手がいるのに慣れちゃうと、一人って退屈。どうするかな、これから。
　さて、ロロは、うまくやるかな。こんな狂った世界に放り出されて…いつまで頑張れるかな？
　でももし、あの子が欲しいものを手に入れることが出来たなら…、この世界も、少しはいい世界なのかもしれないね』




続きます
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