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旅の途中(8)
二度目のキスを終えて、二人は静かに抱き合っていた。
ロロの背にやっていた手を、ルルーシュはゆっくりとアッシュブロンドの髪にやる。思っていた以上に柔らかく細い髪に触れていると、想像するしかなかった感触が本当に指先にある幸福が、触れた所から湧き上がってきた。
髪をゆっくりと梳いてやると、ルルーシュの手に摺り寄せるようにしてロロが頭を傾ける。ロロが自分に甘えているのが嬉しくて、気付けばルルーシュはロロの額にそっとキスを落としていた。
何度でもキスを落としてしまいたいと思うと同時に、今はまだこの穏やかな時間の中にいたかった。散々一人で空回りしたが、自分は確かに今、愛しい人と抱き合っている。その事実を、ただ静かに感じていたかった。
再びロロを抱き寄せて、手をロロの髪に埋める。
ロロの柔らかい髪。ロロの身体。ロロの体温。ロロの鼓動。腕の中に感じる全てが愛しい。
互いに言葉を発することなく、音もなく時間が流れていく。時折ルルーシュの手が、ロロの手が、互いの背や肩、首筋、髪をそっと撫でていく以外は、動くものは何もなかった。
どれほどそうやって抱き合っていたのか、ルルーシュが分からなくなった頃。ロロが頭をルルーシュの肩に乗せながら、ルルーシュの耳元で言った。
「ルルーシュさん…僕、ルルーシュさんと、…もっと、もっと仲良くなりたい。…駄目、かな…」
ルルーシュの背にやられたロロの手が、シャツをきつく掴む。
囁くように紡がれたロロの言葉の意味が、しっかりと頭に浸透するのを待つ。奥底に艶を内包した、その言葉の意味を。
こういう状況から遠い所にいたので気の利いたことは思い浮かばないから、ルルーシュは正直に事実を答える。
「ディナーの後でいいなら。…そうしないと、今夜のディナーがなくなるよ。作る人間が復活できないから」
ルルーシュが答えると、耳元でくすっ、と笑い声が聞こえた。
「そうだね。せっかく準備してくれてたのに、食べられないのは嫌だし」
「そうすると、俺のディナーがオードブルになってしまうな」
「メインディッシュはベッドってこと?」
「…そうだ」
ルルーシュが言うと、再びロロの、くすっ、という笑い声が聞こえた。
* * *
ルルーシュが食事の準備をしている間、ロロはシャワーを浴びていた。
ぼんやりと自分の身体を眺めながら、少し前に医療技術の発達した国に入国しておいて良かったと思った。以前は身体のあちこちに痛々しい傷跡が残っていたのだが、その国で消してもらったのだ。ルルーシュにあの無数の傷跡を見られたら、さぞ驚かせてしまっただろう、と傷跡のない身体に安堵の息を漏らす。
ルルーシュであれば、ロロの身体に傷があるからといって蔑むことは絶対にないだろうが、それでも好きな相手に傷だらけの身体など見せたいわけがない。
傷跡を消した時は、傷跡が多すぎて、0の数を数えたくなくなるような金額がロロの懐から逃げていったが、どうせやるなら全ての傷を完全に消してしまおう、と決意して本当に良かったと思う。
治療が終わって傷跡の無い自分の身体を初めて見た時は、まるで自分の身体でないような心地がした。幼い頃から刻み付けられ続けた傷跡が、短い間にあっさりと消えてしまったのだ。こんなにも簡単に消えてしまうものなのか、と唖然としたことを今でも覚えている。
「ロロー」
ルルーシュの声がカーテン越しに聞こえて、ロロはシャワーを止めた。
「何?」
「着替え、籠の所に置いておくから」
「わかった、ありがとう」
ルルーシュが出て行ったことを確認してから、ロロはカーテンを開けた。
籠にはルルーシュが言った通り、ダークグレーのシャツが畳んで置いてあった。
入国する時、寝巻きはホテルで借りられるということだったので、寝巻き用のシャツは、この国へ持ち込めない荷物と一緒に国境で預けてしまっていた。最低限必要な着替えだけを持って入国する為だ。それをルルーシュに言ったところ、ルルーシュのシャツを貸してもらえることになったのだ。
タオルで身体を拭き、服を着始める。
ルルーシュのシャツに袖を通すと、腕の部分がだいぶ余った。
「……。背、まだ伸びるかな……」
袖を軽くまくりながら、ロロが呻くように言った。
* * *
「らしくないな…全く」
ロロが、自分の身長がまだ伸びるのか考え込んでいた頃、ルルーシュは苦笑しながら、キッチンで呟いていた。
気合が入りすぎたせいか、明らかに夕飯を作りすぎた。種類の面でも料理の面でも。よく食べる人間が三人程入れば完食するかもしれないが、自分が殆ど戦力にならないことを考えれば、ロロと自分ではどう考えても相当残る。本当に今日は空回りしてばかりだなと思いながらも、その空回りぶりがどこか心地よい。一人きりの生活では空回りしようにも出来なかった。
既に、ロロがシャワーを終えたらすぐに食べられるように大体の準備はしてある。
テーブルを占拠している皿の群れを見たら、ロロはさぞ驚くだろうな、とルルーシュは苦笑いを続けるしかなかった。
数分後。
「………」
椅子に座るロロの顔を、テーブルの上にあるキャンドルの火が照らしていた。
キャンドルまで準備していたことに対するロロの反応を楽しみながら、ルルーシュは料理をテーブルに並べる。テーブルを見下ろすロロの目が、ルルーシュの思った通り、驚愕で見開かれていた。だが、テーブルにある皿が増えていくごとに、ロロの目の輝きが増していた気がするのは気のせいだろうか?
作りすぎたんだ。…残すのは構わないから。とルルーシュが言おうとした瞬間、
「ルルーシュさん、これ、全部食べていいの……?」
感極まったようにロロが言った。
「あ? ああ、勿論…」
明らかに自分が予想していたのと違う反応に驚きながら、ルルーシュは答える。
「はわぁ………」
感嘆の息を漏らしながら、ロロの視線がテーブルの皿の上を行き来した。輝く目が、次々と料理を目に映していく。
(…まさか、全部食べる気か…)
いやそんなまさか、とルルーシュが考え込んでいると、ロロのうるうるとした目が自分をじぃ、と見詰めていることに気付いた。
(…はっ! お預けを食らわせていた!?)
おそらく早く食べたいのだろうが、ロロはルルーシュが何か言うのを待っているのだろう。これではまるで自分がロロを苛めているようだ。
ルルーシュは飲み物をグラスに注いでロロに渡し、自分のグラスにも注いだ。
「…二人の出会いを祝して」
「乾杯」「乾杯」
グラスの触れ合う高い音が響いた。
乾杯、と言葉を交わしてから数分の間に、ルルーシュは気合を入れて夕飯を作って良かったとしみじみと思った。
期待に目を輝かせながら、料理を口に運び、ひと口食べるごとに、とろけそうな程に幸せそうな顔をして、ロロは感嘆の息をもらした。作った側としては嬉しいことこの上ない反応だ。
こんなにおいしい料理食べたことない、と言うロロに褒め過ぎだよと笑って返せば、ロロは本当だよ、と言いながら、心からおいしそうに料理を口にした。
やがて、ロロの周りの皿が空になってくると、
「ルルーシュさん、それ、食べないの?」
ロロが表面上は心配そうに訊いてきた。だがロロの瞳は明らかに、それ食べてもいい? と訴えていた。
「俺はあまり食べないから。この皿以外のは全部食べていいよ」
「…本当に?」
何やら危険な香りさえするほど真剣な目で訊かれ、ルルーシュもまた真剣な目で頷く。
「じゃあ、遠慮しません」
ロロは一度厳粛に言ってから、すぐにまたとろけそうな顔をしながら、食事を再開した。
食事が終わった後。
残ると思っていただけに、皿が全て綺麗になっていることにルルーシュは半ば呆然としながら、食器洗い機に皿を並べていた。
デザートのレモンシャーベットは多分明日食べることになるんだろうな、と思っていたが、結局ロロのお腹の中に納まってしまった。もう一つあるんだけど、食べるか? と訊いたら、でもそれルルーシュさんのでしょう…? と返されたが、明らかに食べたそうな顔をしていたので、冷蔵庫から自分の分を出したら、やはりロロに食された。
あの身体の何処に、あれだけの質量が入ってしまったのだろう? と、その謎を懸命に考えながら、覗き窓からちらりとリビングを見ると、ロロが幸せそうにソファでノビていた。
「…幸せぇ…」
耳をすませば、ソファから小さくロロの声が聞こえた。
「美味しく食べてもらえてなによりだ」
ルルーシュは穏やかな表情を浮かべ、言った。
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・ロロの設定にある「空腹状態が嫌」という記述が妙に記憶に残ってます。結構食べる子みたいですね。
・二人が何を食べていたか&飲んでいたかはご想像にお任せします。お好きなものをお皿に乗せてください。
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現在のお礼SS:ロロルルロロ一本。
効能:管理人のMP回復。感想一言頂けるととても喜びます。