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…引き摺りだしてやる。全てを。
旅の途中(12)
昨夜の行為のせいで、自分にかかる重力が相当増したような心地がする。壁に背を預けていないと倒れてしまいそうだった。
身体中から休息を求められ、一度でも目を閉じてしまえばそのまま夢の底に引きずりこまれそうになる。もう少し休息を取れれば回復したかもしれないが、服越しに二の腕に爪を食いこませ、なんとか自分の意識を捕まえおくのがやっと、というのが現状だった。
「…おはよう。やっと気付いたな…だいぶ前からここにいたのに。集中してたみたいだから、邪魔しちゃいけないと思ってさ。待ってたんだ」
引き攣った顔でこちらを見るロロに、なんとかして作り出した笑みを浮かべる。喋り方も、余裕を見せたつもりだ。決して、身体中が悲鳴を上げているような、そんな状態には聞こえなかった筈だ。
「…どうし、て…?」
ロロが、声を裏返らせながら、訊いてくる。ルルーシュによる揺さぶりが上手く効いている。こちらから声をかけるのではなく、向こうが気付くのを待ったのは、ロロが動揺している間に、ルルーシュとの会話に引き込まむ為だ。余裕たっぷりに、だが威圧するような笑みを浮かべることが出来たのも、揺さぶりが効いた要因だろう。本当は、今にも気を失ってしまいそうなのだが。
「ロロ…。これ、何だかわかるか?」
ルルーシュは右手に持っていた携帯電話を、おもむろにロロに見せた。
まだ呆然状態から抜け切っていないロロに、一気に説明しても理解出来ないだろうから、一つ一つ、ゆっくりと、しかし追い詰めるように話す。
「…携帯、電話…」
「そうだ。…これ、五年ぶりに使ったんだ。もう動かないかと思って昨日実験してみたら、ちゃんと動いた。こいつが丈夫だったことに感謝しないとな」
ルルーシュの言葉が何を意味しているのか、必死に理解しようとしているロロを見ながら、ルルーシュは携帯電話を操作した。ディスプレイに「Volume」と表示され、ルルーシュは六段階ある内、下から三つ目のレベルに設定してから、決定ボタンを押した。
ロロの鞄の中から、大きな電子音と振動音が響いた。
ロロがびくりとして、鞄の中を見たあたりで、ルルーシュは電子音と振動音の鳴動を解除する。
「中を見ても見つからないよ。…悪いな、昨日、勝手に鞄の生地の間に入れさせてもらった。…だからいくら中を見た所で、音の正体は見つけられないよ。生地の部分を切り開かないと」
怯えたような眼差しをロロから向けられて心が痛むが、仕方ない。こちらとてあまりの疲労で意識が飛びそうな中、ロロを逃がさない為に必死なのだ。なんとかして、こちらの術中にはまってもらわなければいけない。
「その鞄に入ってるのは…。発信機の一種みたいなものだ。大きさはシャツのボタンぐらい。今みたいに、こちらから設定して音を鳴らすこと以外にも、色々と使えるんだ。…元々は、イベントとかで人が大勢集まる所で、子どもが迷子になるのを防止する為のものなんだ。だから、メインの機能はこちらから音を鳴らすことじゃない。
…親にとっては、子どもは自分の後についてきてるものだろう? だけど小さな子どもにとっては、自分が大人についていってるんじゃないんだ。大人が、自分についてきていると考える。だから、何か興味があるものがあれば、大人がついてきてると、信じて疑わずに、そちらに行ってしまう…。だから、手をつないでいないと、すぐにいなくなったりするわけだ。
子どもの服とかに…ロロの鞄に仕込んだものと同じものをつけておく。そうすれば、設定した半径以上に子どもが離れれば、すぐに携帯電話が鳴るんだ。そしてすぐにこちらから、あちらの音を鳴らせば、親も子どもを見つけやすいし、子どもも、自分が親から離れすぎてしまったことに気付く…。そういう、機能だ」
ルルーシュは一度そこで言葉を切った。理解したか? と、問うように間をあければ、ロロはまだ呆然としながらも、
「僕が……鞄を持って寝室からある程度離れたら、わかるように、してたって、コト?」
確認するように言った。
「そう。…携帯は昨日の内に、ベッドの柵の裏に、貼り付けておいた。…俺の耳元で振動するように」
ルルーシュはロロの目を見ながらも、近くにあった棚に手を伸ばして、携帯を置いた。そして再び腕を組んで壁に背を預ける。とにかく、こちらが主導権を握り続けなければいけない。ゆっくりと、じわりと、一見負けているようで、しかし確実にチェックメイトを狙う時のように、言葉でロロを追い詰めていく。
何故、ロロが出て行くことにルルーシュが気付いたのか、その理由を最初に言わなかったのも、その為だ。――ロロをこちらの話に食いつかせる為の。
「どうして、気付いたの? 僕が、黙って出て行こうとしてるって」
思惑通り、ロロが恐る恐る訊いてきた。
「簡単なことだ。大したことはしてないよ。ロロ、言ってただろう?『一緒にいられたら、いいのにね』とか。『別れる方法は一つしかない、か…』って。…そこからなんとなく予想できた」
ロロは力なく、その場にへたりこんだ。
「…僕が一人で庭にいた時…見てたの…?」
「シャワーから出た時、庭にいるロロに見惚れてて良かったよ。…そうでなければ、本当に置いて行かれる所だった」
昨夜のディナーの後。
シャワーを終えた後、窓の外に、夜空を見上げるロロの姿が見えた。ルルーシュはその哀しげな、しかしどこか神秘的な表情に目を奪われたのだ。そして、見てしまった。ロロの唇が天の方を向いたまま、言葉を紡ぐのを。読唇術をやっておいて良かった、とその瞬間、人生で初めてそう思った。
実際は、ロロが黙って出て行く可能性を、それほど確実性のあるものとして見ていたわけではないが、それを今ここで言う必要はない。昨夜の内からルルーシュが全てを把握していたとロロに思わせた方が、こちらの有利になる。
昨日ロロに天使の話をしたのも、ロロが黙って出て行く可能性を考えて、今日への布石にする為だ。昨夜、ロロと話しに庭へと出た時には、ここまでの構想は出来ていた。
「だから言っただろう? 『空に還ってしまうんじゃないかと思ったよ』って。…そういえば、あの時…俺のことを置いて行ったりしない、って言ったな。ロロは」
ルルーシュは、わざと責めるような口調で言った。ロロの瞳が戸惑うように揺れる。
本当は責めたいわけではない。ロロの行動の裏に、何かやむにやまれぬ事情があっただろう、ということは想像がつく。だが、今はロロに圧力をかけなければいけない。
今、ロロの頭の中では、昨夜の、庭でのルルーシュとの会話が再生されているだろう。あの時に既にルルーシュがロロの行動を完全に予測していた、とロロが思うことで、昨夜のルルーシュとの会話が、ロロが思っていたのと全く違う意味を持つことになる。――共に過ごした、夜の、意味も。確実にロロの心は揺さ振られる。
ロロが何故黙って出て行こうとしていたのか――その理由を訊く為に、ルルーシュは昨日から策を練っていた。何故、ロロが黙って出て行こうとしたのか――そればかりは、ルルーシュが予想出来る範囲の外にあって、ロロ自身から聞かないことにはわからない。黙って出て行こうとしたからには、口にしたくない理由がある筈なのだ。
ルルーシュが共に生きたいとアプローチしても、ロロははぐらかすか、ただ辛そうな目をするばかりだった。おそらくその理由は、ロロが黙って出て行こうとした理由と同一か、または近いものだろう。
ならば、互いに交わした想いは本物だと想うからこそ、ロロが黙って出て行こうとした理由を、ルルーシュは知らなければならなかった。そうでなくては、ロロと共に生きることは不可能なのだと確信したからだ。
「…ロロ。教えてくれ。何故…嘘をついてまで、黙って出て行こうとした?」
「…別れが、辛くなるから」
「それだけじゃないだろう」
間髪入れずに、ルルーシュは低い声で言った。
「入国する時に滞在期間を三日間にしたんだ…今日出国しないと捕まる。それに、再入国までは間を空けないといけないし…バイクも預けてあるから」
「嘘だな。…いや、そこまでは言わない。それが事実か嘘どうかと言われれば、多分それは事実だろう。…だが、俺の質問に、完全に答えてるわけじゃないだろう?」
「どうして、そう思うの?」
ロロが警戒するように訊いてきた。おそらくかまかけの可能性を考えているのだろう。
「…その理由だけなら、また再入国出来る。…黙って出て行く理由にはならない。俺と二度と会わないと決めてたからこそ、黙って出ていこうとしたんだろう? その理由が知りたいんだ。……ロロ」
「…そっか…」
ロロが、ゆらりと立ち上がった。
何故かルルーシュは、夜の底無し沼から表れた幽霊の話を思い出した。
「ねぇ、ルルーシュさん。それを知ッテ、ドウスルノ?」
別人のような瞳でルルーシュを見詰めながら、背筋を這い上がるような声で訊いてきたロロに対して、ルルーシュは表情を変えないようにするのが精一杯だった。
「俺は、ロロと一緒に生きたい。…その為なら、なんでもする。だから、理由が知りたいんだ。何故、黙って出て行こうとしたのか。…そして、何故ロロがここにいられないと思うのか」
「どうして? どうしてそこまでするの?」
「昨日言っただろ? …愛してる。それ以外の理由がいるのか?」
「……誰、ヲ?」
ロロの声音が、明らかに先程より感情を悪化させたような声に変わった。
底冷えしてしまいそうなその声に、ルルーシュは確かな手応えを感じた。ロロが隠している何かを得る為の確かな手ごたえを。
一瞬、眩暈がして、ルルーシュは左手で右の腕を渾身の力で握った。今、倒れるわけにはいかない。
「お前以外にいないだろう」
「違うよ、ルルーシュさん。ルルーシュさんが好きなのは、僕じゃない」
「どういう意味だ?」
「だって…僕はルルーシュさんが思っているような人間じゃない」
尻尾が見えた。ルルーシュはそう確信した。あとは、掴んで引き摺り出さなければいけない。
「…誰かを完全に理解するなんて不可能だ。…だから、理解しようと努力する。…それじゃいけないのか?」
「普通の人なら、それでもいいかもね。…でもね、ルルーシュさん。僕が言ったの、覚えてる? …僕は犯罪者かもしれないって。もしそうなら、どうする?」
「…そうなのか、ロロ」
「…僕の質問に、先に答えて」
ロロの声に怒気がこもっていた。
間違いない。ロロが黙って出て行こうとした理由…そこに近づいているのだ。触れられたくない場所が近いからこそ、ロロの反応が過敏なものになってきている。
「…どうもしないさ」
「軽く言うね。…ちゃんと、考えてくれてないでしょう」
「そんなことはない。ちゃんと…」
ぐらり、とルルーシュの視界が歪んだ。だが、なんとか踏み止まる。
「…ルルーシュさん?」
「俺にとっては、そんなこと、どうでもいいんだよ。俺だって、人に言えないようなことはやってる」
「ルルーシュさんが? アハ、アハハハハ……!!」
ロロが笑った。人を見下すような笑い方だ。
ロロが何を隠しているのかはわからない。だがここまで反応するからには、ロロにとって余程触れられたくないことなのだ。
チャンスは一度。今それを、引き摺りださなければ、ロロは二度と自分の元へと戻ってこようとはしないだろう。そうなれば、自分はロロの未来を永遠に失うことになる。自分にはロロを追う術はない。家をまともに出ることすら出来ない身体の人間が、旅人に追いつけるわけがないのだ。
それを回避するためなら、何でもする。もとよりリスクは覚悟の上だ。
ロロが感情を剥き出しにし始めている今だからこそ、こちらのカードで大きく揺さ振るしかない。
「何かおかしいこと、言ったか?」
「だって…ルルーシュさん、悪いことなんて出来ないでしょう?」
「どうかな…。覚えてるか? ロロ……。昨日話した、五年前の…、ギアスの最初の暴走事件」
ロロと過ごした時間を信じている。
だからこそ、自分はロロに警戒されながらも、ロロの内へと近づくことを躊躇わない。そうすることでしか、共にいられる未来を掴み取れないからだ。
ルルーシュにとっては、ロロこそが、五年間止まり続けた時計の針を動かす存在に他ならない。ならば、五年前に誓った通りに行動するだけだ。
何があっても、絶対に、どんな手を、使っても、ロロを放しはしない。
「…覚えてるよ。『一回、死んで来い』って言ったら、友達が本当に自殺したっていう……」
ロロが途中で言葉を止めて、ルルーシュの左目を見た。
何故今、この話をルルーシュが出してきたのか、理解したのだろう。
「そうだ、ロロ…」
怯むな、とルルーシュは自分を叱咤する。ここからは何が起こるかわからない。それでも、自分は、ロロとの未来を手に入れるために、言葉を操るしかない。それが自分に出来る唯一のこと。ならばこそ、怯まずに、力ある言葉を紡ぐだけだ。
「その命令を…。『一回、死んで来い』と親友に下したのは俺だ」
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↓ FFT的な二人の状況 ↓
ロロ(ジョブ:忍者) HP:満タン(短時間睡眠で完全回復) MP:ルルーシュに吸われた。 状態:混乱
ルルーシュ(ジョブ:黒魔導師(算術習得済み)) HP:瀕死(回復出来なかった) MP:満タン 状態:ヘイスト バーサクの詠唱中
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現在のお礼SS:ロロルルロロ一本。
効能:管理人のMP回復。感想一言頂けるととても喜びます。