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*ロロ覚醒



 ギアスを何度も使った日には、よく同じ夢を見た。



  独リノ世界



 世界中の人間達が、皆、動きを止めていた。あくまで体感時間が止まっただけだから、生命維持活動は続いている。だが、水分も栄養も摂取できないから、時間が経てば皆死んでいく。
 ロロが通常ギアスを使うのは暗殺任務の時だけだ。だからギアスをそんなに長い時間使ったりしないし、そもそも本来、ロロのギアスの効果範囲も持続時間も、無限ではない。
 だが、何度も見るこの夢の中では、ロロのギアスは暴走して、世界中の人間の体感時間を永遠に止めてしまう。
 自分だけが、世界と同じ時間を生きている。
 風はいつもどおりに吹き、太陽は東から昇って空を通って沈んでいく。それなのに、自分以外の人間は誰も動かない。
 鏡を見れば、自分の瞳の中で、赤い翼を広げた鳥が輝き続けている。もう、これを自分の意志で止める事は叶わない。
 誰も動かない。
 誰も。
 だがロロは何も感じなかった。
 初めてその夢を見たのは確か六歳の時だったが、幼い心は目の前の光景になんの震えも感じなかった。
 自分以外の誰もいない世界。
 誰も、自分に影響を及ぼさない世界。
 誰にも、自分が影響を及ぼさない世界。
 だって、それは、自分が生きる現実の世界と、大して変わらないではないか。
 自分が、誰かに影響を持つのは、その対象を世界から抹消する瞬間だけだ。
 誰かの人生に関わった瞬間に、相手は死んでいく。

 夢から覚めて、元の世界に戻り、いつも、思う。

   ほら、やっぱり、変わらない。
   大して、変わらない。
   僕の世界には、最初から誰もいなかったんだ。
   これまでも、これからも、きっと、ずっと、こうなんだ。
   何も、変わりはしない。
   僕の過去にも、現在にも、未来にも、何の差異もない。

*   *   *

 知らない天井、知らないベッド、知らない部屋。
 嗚呼。また、これは、夢だ。
 ロロは自分が夢の中にいると認識しながら、傍にあった鏡を見た。まだ赤い鳥は瞳の中にいない。
 なんだろう。ギアスが暴走する夢以外で、あまり「これは夢だ」と認識したことはない。そう思いながら、ロロはベッドから降りる。
 何をすればいいのだろう。部屋から出るべきだろうか、だが、嫌な予感がする。夢が覚めるまでベッドで寝ていようか。なんて考えていると、ノックの音がした。
「誰?」
 ロロがドアの方に振り向いて訊くと、
「ロロ」
 ドアの向こう側からルルーシュの声がした。
「兄さん?」
「入るぞ」
「……どうぞ」
 ロロは警戒した。ロロは自分の夢を信用していない。警告めいたメッセージを送り続ける自分の夢のことだ。またろくでもないものがでてくるに違いない。胸元に手をやって、内ポケットに入っているナイフの感触を確かめ、指先を内ポケットに差し入れ、身構える。
 ドアノブがゆっくりと回る。開かれる。
「どうした、ロロ? 怖い顔だな」
 部屋に入ってきたルルーシュの浮かべる穏やかな表情に、ロロは胸にやっていた手をゆっくりと降ろす。
「なんでもないよ。それより、何?」
 ロロが訊くと、ルルーシュは満面の笑みを浮かべた。
「お前が、殺してやりたいぐらいに憎くてさ」
「…え?」
 当たり前のようにさらりと言われて、ロロの思考は止まる。
 ルルーシュは、優しい笑みを浮かべたまま、続ける。
「だってそうだろう。お前は……」
 優しい笑みが、一瞬で変わる。
 口元が大きく歪んで、目には血まみれの鳥が翼を広げる。
「本来、妹がいるべき居場所にそ知らぬ顔で座り続けた。そこに座っていいのは…ただ一人。俺の妹だけだ」
 ロロは再び身構えた。
 この夢は何を見せようとしている?
 ルルーシュに憎まれろと? ルルーシュに拷問でも受けろと?
 それともルルーシュからの言葉の刃を受けて、傷つけと?
 そうやって現実の世界に返ってから、罪悪感でも覚えろと?
 上等だ。その挑戦、受けて立とうじゃないか。
 誰にも断罪なんて許さない。
 兄に憎まれるなら、こちらだって、それこそ死ぬほど憎んでやる。
「お前の顔が絶望に歪む所を、見たいんだ」
「僕もだよ、…兄さん」
「気が合うな」
「当たり前じゃないか…だって、兄弟だもの」
 ロロが無垢な微笑を浮かべると、
「…兄弟、か。ははっ!あははははははは……っ!!」
 今までロロが見たことないような、凄まじい憎しみがルルーシュの顔に浮かぶ。全身に憎悪の暴風を受けながらも、ロロの心もまた、憎しみで荒れ狂った。
 残虐な悪魔に対抗するのに、無垢な天使である必要はない。
 受け止めたルルーシュの激情が、ロロを高揚させる。
 憎い、憎い、憎い、絶対に生きては返さない。
 これが夢であることなど、ルルーシュの高笑いを聞いた瞬間にロロは忘れていた。
「そうだよ。…僕達、兄弟だもの。兄さん」
 それは、ルルーシュにも己にも向いた言葉の刃だ。ルルーシュの笑みと共に深くなっていくその顔の陰影を見ながら、ルルーシュと全く同じ表情をロロは浮かべた。
 壮絶などす黒い笑みが、双璧を作る。
 生きて返さない。絶対に、生きて返すものか。絶対に。
 ロロはナイフと取り出し、構えた。
 今すぐにでも、襲い掛かりたい。
(……?……)
 だが、殺してやりたい、という思いとは裏腹に、自分の身体は動かなかった。
 まだ、何かが足りなかった。
 何が?
 目の前の悪魔をナイフの餌食にするのに、何が足りない?
 今まで、誰かを殺す時は、命令されてやっていた。
 任務の為に。誰かの目的の為に。
 なら、今は?
 今、殺したいと思っているのは自分。
 そう。自分で自分に命じるのだ。
 自分で、自分に。
 その為に必要なものは、何か。
 自分を駆り立てるもの。
 憎しみ。
 そうか。
 もっと、もっと、もっと、もっと、モット、モット………。
 己ヲ解放シタイノナラバ、モット憎シミヲ。
「……兄さん……」
 兄さんと呼ばれて、ルルーシュの殺気が増すのが分かる。そう、それでいい。それで、いい。自分の心の弦を弾いてくれるのは目の前の悪魔だけだ。
 一度も音を奏でることの無かった弦の旋律を、ロロはルルーシュと出会って、初めて聴いた。それは時に優しい音色だったり、悲しい音色だったりしたが、どんな音色であれ、ロロは自分の中で響く音楽に酔いしれた。
 自分の中に、こんな音楽を奏でるものが、あったなんて。ルルーシュに出会うまで、知らなかった。
 さぁ、悪魔よ。あまりの激しさに千切れる程に、僕の弦を弾くがいい。
 もう二度と音を奏でることが出来なくなっても構わない。
 最高の音楽が起こす炎にこの身も心も焦がし、共にお前の命が終わるなら、本望だ。
 さぁ!!弾け!!
「兄さん!! 僕が憎い!?」
 ロロは叫んだ。YESという言葉を得る為だけに。その答えで、最高のフィナーレを聴く為に。
 だが、ロロがその答えを得る前に聴こえた音は、自分が手にしていたナイフが床に落ちる音だった。
 右目から走った強烈な痛みが脳を貫通する。刺し抜かれた所から、脳全体に痛みが広がっていく。叫ぶことも出来ず、ロロはその場で床に手をつき、蹲った。
 何が起こったのかわからないまま、視界に光るものが見えて、ロロは目を見開いた。
 床に転がる研ぎ澄まされたナイフに、己の瞳が映っていた。赤い輝きを放つ、呪われた血の鳥の姿。
「ヤメ…ロ…」
 ロロは赤い鳥を追いやろうとするが、鳥は羽ばたきをやめなかった。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 ロロの絶叫をあざ笑うかのように、鳥は赤い輝きを増した。
 その輝きに、ロロはルルーシュの存在が頭から消えていたことに気づいて、頭を上げた。
「…兄…さん…」
 ロロは力なく立ち上がった。
「…ああっ…」
 ルルーシュの身体が時を止めていた。顔に、憎しみの表情浮かべたまま。
「兄さん…」
 ロロはふらつきながらルルーシュに歩み寄る。
「嘘だろう……?」
 ルルーシュの目の前に立ち止まる。
「こんな…こんな中途半端なところで…」
 ルルーシュは動かない。その瞳はロロの姿を映さない。
「…兄さん…」
 ロロは手をルルーシュの両肩にやった。
「…憎んでよ…」
 ロロが涙を浮かべても、ルルーシュはなんの反応も示さない。
「お願いだから…。お願いだから…」
   一度でいい。たった一度でいい。
   自分の魂を、至高の旋律で震わせたかった。
   それすら叶うのならば、この身がどうなっても構わなかった。
「…ずるいよ…」
   自分の心が音を奏でられること。
   それさえ知らなければ、こんな思い。しなくてすんだのに。
「教えてくれたのは兄さんじゃないかっ!!!」
 兄さん、兄さん、と繰り返しながら、ロロはルルーシュに縋る。
「兄さん!!」
『ロロっ!!』
 絶叫した瞬間、ロロの頭にルルーシュの声が響いた。



「ロロっ!!」
 ルルーシュの声に、ロロは自室のベッドの上で目を覚ました。部屋の明かりがついている。机の上にある時計を見れば、短針が2と3の間を指していた。
「…兄さん……?」
ロロが弱々しく言うと、
「拭かないと」
 ルルーシュはハンカチを取り出して、ロロの頬を伝っていた涙を拭いた。
「一体どんな夢を見ていたんだ? 隣の部屋まで叫び声が聞こえてた」
「わ、わからない…。怖い夢だった気がするんだけど…。覚えてない」
 ロロは嘘をついた。
「そうか…。でもその方がいいかもしれないな。叫ぶ程怖い夢なんて、覚えてない方がいい」
「そうかな。…忘れていた方が、いいことって、あるのかな…」
 ロロは自分の手を見た、抑えようとするのだが、震えが止まらない。
「余程、怖かったんだな」
 ルルーシュは震えるロロの手を包み込むように握った。
「落ち着くまで、傍にいるよ」
「ありがとう…」
 兄さん、と続けようとして、ロロは口篭った。
 それはつい先程まで、何も反応を返してくれないルルーシュを呼ぶ、己の悲痛な叫びだった。
 目を閉じて、頭の中で、「兄さん」とつぶやく。
 大丈夫だ。
 もう、大丈夫。
 そして、まだ、大丈夫。
「ありがとう、兄さん…」
 
 今僕がいる世界は、独りの世界じゃない。



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 きっと、初めて心を震わせてくれた人だったのです。

BGM:EXEC HARMONIUS(志方あきこ)←この曲が無いと多分書けなかったと思います。
   Blind Justice (Zektbach) 

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現在のお礼SS:ロロルルロロ一本。
効能:管理人のMP回復。感想一言頂けるととても喜びます。
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