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旅の途中(13)
ルルーシュの姿に気付いてしまった辺りから、何かが狂い始めていた。
黙って出て行くことへの罪悪感があった所へ、ルルーシュに「俺のこと、置いて行ったりしないって言ってたよな」と責められて、ロロの頭の中は大混乱状態に陥っていた。
ルルーシュに憎まれたくない。その為に黙って出て行こうとしていたのに、
それなのに、ルルーシュは、ロロが一番ルルーシュに見せたくないものを見せろと迫る。
憎まれたくなかったから、黙って行こうとしたのに。
憎まれたくなかったから、今まで何も言わなかったのに。
それなのに。
ドウシテ、来テシマッタノ?
ドウシテ、僕ノ中ヲ覗コウトスルノ?
誰にも立ち入って欲しくない所にルルーシュが近付いたことで、ロロの防衛本能が過剰に反応していた。ルルーシュに責められることへの悲しみと、見せたくない所へ踏み込まれることへの恐れが、激しい怒りへと変化するのに、対して時間はかからなかった。
何モ知ラナイノニ 愛シテイル ナンテ 言ワナイデ
ドウセ、貴方ダッテ 僕ノ存在ヲ望マナクナルノデショウ?
自分は必死に逃げようとしているのに、それでも追いかけてくる追尾者が何をしようとしているのか、それを考えるだけでも恐ろしい。
「愛シテイル」。昨日ルルーシュ言われて、嬉しかった筈のその言葉が、混乱をきたしたロロには、自分への攻撃に見えた。
そんな中、自分が犯罪者だったらどう思うのか、というロロの問に対して、ルルーシュは「どうってことない」と答えた。荒れ狂うロロの心はその返答に、嘘つき! と叫んだ。
本当ノ僕ヲ知ッタラ 捨テルクセニ
そして、ルルーシュは言った。
「『一回、死んで来い』と親友に下したのは俺だ」
その言葉に、一瞬だけロロの心が静まり返った。
波一つ立たない静けさの中、投げられたルルーシュの言葉が、波紋を広げる。幾重にも広がった波紋が消えた時、
何モ分カッテナイ コノ人ハ何モ分カッテナイ
凪いでいた湖面の底から、怒りの赤が湧き出でてきた。しかしそれはすぐに赤を通り越して、どす黒い色へと変わる。湧き上がるものは、再びロロの喉から、相手を見下す笑い声となって姿を現した。
「アハハハ、アハハハハハハハ………!!」
いつからだったかはわからない。一度誰かに攻撃を始めると、止まらなくなるようになってしまったのが。仕掛けている自分の方が、傷つく相手を見てボロボロになるまで、止められなくなってしまうのだ。
「だから? だから何? 親友に『一回死んで来い』って言ってそれで親友が死んだことが何? だって…それは事故だったんでしょう?」
止めたいと思うのに、黒く染め上げられた言葉が身体の底から溢れ出て来る。
「それでも、たとえ冗談で言ったつもりでも…。俺が命じたことで、人が死んだ。…俺が殺したのと同じことだ」
ロロは挑発するように言っだが、ルルーシュは冷静に答えた。
「違うね。…だってルルーシュさんは、本当に相手を殺したくてやったわけじゃない。…罰されることはなかったでしょう? …国のシステムの欠陥の問題だもの」
「確かに、…俺は罰されなかった。最初は、勝手にギアスが発動したと言っても信じてもらえなくて、一度殺人の罪に問われて警察に捕まったが…すぐに他の暴走事故が多発したから、起訴されることはなかった。騒ぎが収まるまでは、家に戻れなかったよ」
「…ほら。やっぱり。…だってそれは、ルルーシュさんの責任じゃないもの。ルルーシュさんが、僕が犯罪者でもどうでもいいって理由にはならないよ。寧ろそういうことで罪の意識を感じるなら、ルルーシュさんは本当に悪いことをした人間になんて耐えられない筈だよ」
アハハハハハハハ………!!! と、侮蔑するような高笑いを気が済むまであげてしまってから、
(何、やってるんだろう、僕は…)
津波がやってくる前のように、さぁ、と音を立てて昂ぶっていた感情が引いていった。次にやってきた感情は自己嫌悪だ。自分が支離滅裂なことをやっているという自覚はある。
こういう姿を、ルルーシュにだけは見られたくなかったのに。
ロロは顔を蒼白にして、ルルーシュの瞳を見た。
ルルーシュの表情は、先程から全く変わらない。ルルーシュは、ただ、静かにロロを見ているだけだ。
不快な顔をしてくれた方が、怒鳴ってくれた方が、楽なのに。
謝りたい。謝りたい。本当は謝りたい。
それでもまだ、攻撃を開始したロロの防衛本能は、矛を収めるつもりはないようだった。
「ルルーシュさん…。ルルーシュさんが愛しているなんて言ってたのは、僕の虚像。僕のいい所だけ見て、勝手に作り上げた「僕」を好きでいてくれているだけなんだ。…本当の僕を知ったら、誰も僕を好きになるわけなんてない。『愛してる』なんて言ってる時点で、僕を間違って認識してるってことだよ」
今、自分は本当に醜い顔をしてるんだと思う。過去を知らずとも、ロロのこんな姿を見たら、ルルーシュは何を思うのだろうか。顔に出さずとも、もう既にロロのことを憎いと思っているかもしれない。一緒に生きたいと言ったことを撤回したいと思っているかもしれない。
「…ねぇ、後悔した? 僕と寝たコト、…出会ったコト」
ロロは満面の笑みを浮かべて訊いた。辛い時こそ笑うのだ。
ルルーシュはその問には答えず、目を閉じた。
ロロはその沈黙にいたたまれなくなりながらも、ルルーシュの反応を待つしかなかった。
やがて、ルルーシュがゆっくりと瞳を開いた。全てを悟ったような眼差しを向けられて、ロロは後退りしそうになる。
「…そうか。…それが、理由か」
「…え?」
「本当のロロを、俺が知ったら…。俺がロロへの愛情を捨てると思ったのか。…それが、恐かったのか。そして、過去に何かをやらかして、それを俺に知られるのが」
確信した、という静かな口調に、ロロは射すくめられた。
* * *
「…過去のことは…。話したくないなら、話さなくていいんだ。ロロ」
ルルーシュは言った。これは嘘だ。
ロロには、過去のことを話させなければならない。これはルルーシュがロロの過去を知る為ではなく、それがロロにとって必要だからだ。
いくら過去は関係ない、と言った所で今のロロには届かない。
「本当の自分」なんてものが存在するとは、ルルーシュは思えない。 昔、怒りのあまり人を口汚く罵った自分も、友人達と笑っていた自分も、孤独に震えていた自分も、まるで別人のようだが、どれも自分だ。どれかが、他より優先する「本当の自分」だ、ということはない。
だがロロ本人が、過去にやったことこそが「本当の自分」の姿だと思っているのならば、ロロにとっての「本当の自分」の姿を語らせなければいけない。その上で、ロロを愛する自分の心に変わりがないことを示さなければならない。そうすることでしか、ロロはルルーシュの言葉を信じはしないだろう。
だがその前にもう一度、過去など関係ないのだと言う必要があった。ルルーシュの方から過去を聞き出そうとすれば、それはルルーシュがロロの過去に拘るという姿勢を見せることになってしまう。そして、一度引くことで、ロロが自分から話せるようにしてやる必要があった。
「さっき、言っただろう? ロロが過去に何をやったかはどうでもいい。…俺はロロと一緒にいたい。その為に、黙って出て行こうとした理由を聞きたかった。その答えが、過去に何をしたか俺に知られるのが恐かったということなら…。
俺はもう一度言うよ。俺はロロが何をしたかなんて全く気にしない。一緒に生きていたい。
……ほら、これで何も問題ないだろう?」
ロロを安心させるように、笑う。可能性は極めて低いが、ここでロロが「そうだね」とでも言って納得してしまえば、全てが簡単に丸く収まる。ルルーシュとしては、ロロが過去に何をやったかなど、本当にどうでもいいのだ。
だがロロが、過去をルルーシュに話さない事で本当の自分を隠している、と苦しんでいるのなら、ルルーシュはその過去を知らなければならない。
ロロの返答を待つ。
ロロは迷っているようだった。
おそらくこれまでも、ロロはこうやって近づく人間を遠ざけてきたのだろう。例え好かれても、好かれた「自分」は虚像に過ぎないと思うことで。
だから、ロロの旅は未だに終わっていないのだ。
去りたいと思えば、旅人であるロロはすぐにその場を去る移動手段を持っている。自分のような人間でなくても、去ろうとするロロを留めておくことは出来なかったのだろう。
過去を、「本当の自分」を知られれば捨てられる。それがロロにとっては動かし難い真実だったのだ。
ロロが何をやったのか、予想はつかない。だが、他人から見ればどんなに下らないことであれ、それが本人を永遠に縛りつける呪いとなることを、ルルーシュは知っている。
ロロはルルーシュのギアスの暴走を、ただの事故だと切って捨てた。
だがルルーシュにとってそれは、五年前の自分の誓いを、自分の停滞した時間を破壊し淀みない流れへと変える「何か」を絶対に放しはしないという誓いを、蝕み続けていた元凶だった。
ロロと出会った時、想いを告げられなかったのはそのせいだ。
いくら頭では事故だとわかっていても、自分の命令で奪われた親友の命に対する罪悪感は、ルルーシュを縛り付けていた。停滞した時間の中の孤独こそが罪の贖いで、孤独を終わらせることは許されない行為だと思い込むようになっていた。
だが、ロロと出会うことで、自分は自分を赦すことが出来た。ロロと一緒に幸せになりたい、という想いが、罪悪感に打ち勝ったからだ。
今度は、自分がロロを助ける番。
ロロが何故過去に囚われ、自分から孤独を選ぼうとするのか、その行動がどこから来ているのか。見極めなければならない。
おそらくは本人ですら気付いていない、その呪いの本当の元凶を。
* * *
「さっき、言っただろう? ロロが過去に何をやったかはどうでもいい。…俺はロロと一緒にいたい。その為に、黙って出て行こうとした理由を聞きたかった。その答えが、過去に何をしたか俺に知られるのが恐かったということなら…。
俺はもう一度言うよ。俺はロロが何をしたかなんて全く気にしない。一緒に生きていたい。ほら、これで何も問題ないだろう?」
ルルーシュが、ロロに笑いかけた。ロロはルルーシュの微笑がそこにあることを、信じられなかった。
先程から自分はルルーシュに向かって酷いことばかり言っている。それなのにルルーシュは目の前で、ロロを安心させるように優しく笑っているのだ。
「本当に…いいの…? 僕が…何をした人間でも」
「誰かを断罪する職に就いた覚えはないよ。ロロが傍で笑っていてくれれば、俺はそれでいい」
揺れる。
幸せな記憶と共に死ぬことこそが、最高の幸せなのだと、信じた心が。
もしかしたら。
ひょっとしたら。
本当にルルーシュの手を取った先に、自分の望む未来があるのかもしれない。
「…ゴメンナサイ…。さっきから、僕、酷いことばかり言ってて…」
「気にするな、俺も勝手に鞄に細工したんだから、これでおあいこにしよう」
あれだけ醜い姿を見せても尚、ルルーシュは自分を受け入れてくれている。
何もかも知った上で、それでも、それでもロロの生を望んでくれること。それが、ロロの欲しいもの。
ならば今こそが、賭ける時なのかもしれない。
広大な空の中にある瑣末な星屑程ではあるれど、それでもルルーシュを信じたいと、今確かに自分は思っている。ほんの少し前まで、そんな賭けの成功を信じる力は何処を探しても無かったのに。
「ルルーシュさん」
「…ん?」
「聞いてください。…僕の、過去を」
ロロが、語り始めた。
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