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  旅の途中(14)



「僕が住んでいた国は…。この国程ではないけど、それなりに科学技術が進んでて、何処かと戦争をやっていたわけでもない、平和な国だった。
 多分、今ルルーシュさんがあの国に入国しても、きっと何もおかしいことなんて感じないと思う。平和で、歴史的な建築もそれなりにある。観光にはいいと思うよ。

 …でも、あの国で生まれた子どもにとって、あの国の法律は…決して優しくはない。

 親権者が自分の子どもを殺しても、罪にはならないんだ。逆に子どもが親権者を殺したら理由如何に関わらず銃殺刑。…まるで軍隊だよね。

 準成人…僕の国だと、満十四歳になったら準成人扱いになるんだけど…、準成人になったら何やっても死刑にはならないんだけどね。終身刑までしかない」
「十四歳までに生かしておく必要がないと思ったら、親が殺すから…というところか」
「そう。…と言っても、昔だったらいらない子どもを本当にしょちゅう殺してたらしいけど、最近は子どもの数も少ないし…、そういう法律があるからって、自分の子どもを殺すなんてそもそも思いつかない親だって多い。だから法律改正の動きもあったらしいけど、結局どうなったのかはわからない。
 でも…僕の親は…、あの人達は、子どもに対して情けのない人達だった。
 残す必要がない子どもは、容赦なく殺す。そういう人達だった。
 僕にはね、本当は兄さんが三人と姉さんが五人、弟が二人と、妹が三人いる筈なんだ。
 …でも、少なくとも僕が覚えてる限りでは…、僕には姉さんが一人しかいなかった」
「十二人とも殺……」

 ルルーシュはそこまで言ってから慌てて言葉を切った。

「いいよ。どうせ皆知らない人達だし…。
 僕と、一人だけ残った姉さん以外は、全員『処分』されたんだろうね。どういう風に殺されたのかは知らないけど。
 僕は姉さんに近づくのを禁止されてたから、姉さんがどういう人かよく知らないんだけど…。確か、小さい頃から絵の才能が認められて、色々賞を貰ってたみたい。多分それで生き残ったんだろうね。
 …でも、僕には大した才能はなかった。だからしょっちゅう言われてた。『お前なんか死んでしまえ』って。姉さんに近づくのも禁止されてたのもそのせい。凡人がうつると困るからって」
「ロロ…。ちょっといいか」
「何?」
「弟さんも、妹さんも、…その、殺されたんだよな」
「うん」
「…なら、ロロが生き残っていたのは、生かす理由があったからなんじゃないか?」
「僕も、そう思ってたんだ。
 散々『死ね』って言われても、『お前なんていらない』とか『代わりなんかいくらでもいる』って言われても…。弟も妹も殺されたのに、僕が生き残っていたのは、残すだけの理由を見出されてからだって、そう思ってた。
 …だから、努力すれば、頑張れば、いつか認めてもらえるんだと思ってた。姉さんのように、あの人達に好きになってもらえるって、信じてた。僕の頑張りが足りないから、あの人達は僕を嫌っているんだと思ってた。
でも、違ってたんだ。あの人達が僕を殺さなかったのは、別に僕を残しておきたかったからじゃない。…笑っちゃう理由なんだよ。馬鹿みたいな理由で僕は生かされてたんだ。
 僕が生まれた時、よく当たるって噂になってた旅の占い師を、あの人達は家に招いたんだって。
 そして占い師は、まだ赤ん坊だった僕を見て、こう言った。僕が十歳になる前に、僕のことを殺したら、姉さんの才能が悪魔に奪われる。ってね。
 …それだけだよ。あの人達は、姉さんの才能は絶対に守りたかったんだ。だから、占い師に言われた通り、僕を生かした。ただそれだけのこと。
 僕が、それを知ったのは十歳の誕生日の五日前だった。あの人達が、僕が十歳の誕生日を迎える瞬間に殺そう、って話をしてたのを聞いてしまったんだ。僕には生き残る価値はなかったんだ。
 でも、僕にはどうしようもなかった。助けてくれる人なんて、いるわけなかったし。
 …でも後で、僕を助けてくれる人が現れたんだ」
「…お姉さんか?」
「ハズレ。占い師だよ」
「?」
「僕は、どうすればいいのかわからなくて…。十歳の誕生日の二日前、近くの公園のベンチにただ座って空を見ていた。
 そうしたら、見た目が十代前半の、とても長いプラチナブロンドの男の子に話しかけられた。その子は、自分のことをV.V.って名乗った」
「…ブイツー…Vが二つでV.V.…。だな?」

 ルルーシュが静かに言った。

「うん。不思議な名前だよね。V.V.は僕にこう言ったんだ。

『やあ、明後日殺されるのに余裕だね。 策を考えたのかな? それとも今逃亡中?』

 って。
 僕は吃驚してV.V.に何も答えられなかった。そしたら彼は続けた。

『占いって結構皆信じるんだね。僕が、君が十歳になる前に死んだら、お姉さんの才能が全部悪魔に奪われます。って言ったら、本当に信じるんだもん。凡人だったら十歳になったら殺しましょうなんて、ご両親は言ってたけど。傑作だね』

 …V.V.は世界中を旅してる人なんだ。そして彼は、僕が生まれた年に僕のいた国に来ていた。そしてインチキ占いで暇つぶしをしてたんだって。別にインチキ呼ばわりされて怒られても、逃げればいいや、った感じだったらしい。でも、デタラメ占いだったのによく当たったらしくて、旅の占い師として僕のいた国で有名になったんだって。

 その時に、彼は僕の家に招かれた。豪華な夕飯をひたすら食べたって言ってた。…僕はあの家で大したものを食べた覚えはないんだけど。
 夕飯の後、V.V.は生まれたばかりの僕を見せられて、訊かれたんだって。

『この子にはどんな運命が待っているのですか?』

 V.V.はこう答えた。

『この子自身の運命に関してはまだ何も言えないなぁ…。でも、もしこの子の命が十歳になる前に失われたら、娘さんの才能は悪魔に奪われる』

 なんでそんなこと言ったの? って僕はV.V.に訊いたんだけど…。成長した僕がどうなるか、見てみたかったんだって。暇つぶしに。

 V.V.は、僕に関する占いをあの人達に聞かせた後、すぐ出国して旅に戻った。そして、十歳になる僕がどうなるのか…それを見に、また戻ってきたんだ。

 その話を聞いた時、最初は信じられなかった。だってどう見ても十代前半ぐらいの歳の子どもに、僕が生まれた年にそんな占いをしましたって言われても説得力がないでしょう?
 僕が信じられないっていう顔をしていると、V.V.は突然、ナイフで自分の腕に傷をつけた。そしたら…その傷がみるみるうちに治っていったんだ。
 V.V.は言った。

『こういう身体なんだよ。だから昔からこの見た目』って。

 僕がV.V.の言っていることを信じたあたりで、V.V.はこう言った。

『…で、どうなの? 何か逃げる策はあるの? まさかこのまま黙って殺されちゃつもりじゃないよね?』

 って。でも、僕にはなんの考えも無かったから、何も答えられなかった。
 そしたらV.V.はこう言った。

『ねぇ、君は死にたいの?』

 僕はよくわからなくなっていた。死にたいのか、そうでないのか。
 でも、ほんの少しだけ、死にたくなかった。
 だから首を振った。そしたらV.V.はこう言った。

『ねぇ、契約、しない?』

 契約って? 僕が訊くと、V.V.は答えた。

『君の願いを叶える力をあげる。その代わり、君は僕の願いを叶える…そんな契約』
『V.V.の願いって何?』って僕が訊いたら、
『秘密』と言って、…V.V.は笑ってた。

 僕は一言、『嫌だ』って答えた。

『どうして? 願いが叶うのに。生き延びられるのに』V.V.は不思議そうに訊いてきた。
『契約の内容がわからないのに、契約なんてしちゃいけない。…あとで魂をよこせって言ってきた話を読んだことがある』

 僕がそう言ったら、V.V.は目を丸くしてから大笑いした。

『いいね! そうだよ。怪しい契約になんて手を出しちゃ駄目。その通りだよ。でも、明後日殺される子にそんなこと言われるなんて思わなかった。…よし。いいよ。契約とは関係無しに、手助けしてあげる。自分で運命を切り開いてみせて』
 V.V.はそう言って、僕に銃を渡した」
「銃を?」
「そう。武器開発が発達した国で仕入れたって言ってた。今でも僕が使ってる銃だけど…。凄い銃だよ。反動が全くないんだ。どこで開発されたのかは、わからないんだけど…。そして僕は、その銃を、持ち帰った。
 その夜は、僕はV.V.に教わった銃の使い方を頭の中で何度も反復しながら、眠った。次の日…十歳の誕生日の前日、僕は部屋から出なかった。出れなかった。誕生日になる少し前に…、あの人達が部屋に入ってきた。ああ、殺されるんだな。って思った。…だから、僕は、…銃を…」

 ロロが言葉を止めて俯いた。ルルーシュは間を置かずに、訊く。

「その後…、どうしたんだ?」
「あの人達の死体の前で僕が何も出来ないでいたら、V.V.が家に迎えに来た。あとのことは全部V.Vが.やってくれて…。僕はV.V.の車に乗せられて出国したんだ。出国の時に、V.V.が管理官に宝石をやたらと渡してたよ。
それから、しばらくはV.V.に色々と教えてもらいながら、二人で旅をした。でも途中で別れることになって…僕は一人旅を始めた…そんなところ。
 だからね、ルルーシュさん。僕は本当は銃殺刑になってないといけない人間なんだよ。…言ったでしょう? 僕には一生、帰る所も、迎えてくれる人も、出来ないって」

 ルルーシュは考える。
 自分を殺そうとする両親を殺した。確かに、それは、ロロにとって悲惨な過去だったかもしれない。だが、何かが、何かがひっかかるのだ。
 内容が内容なだけに深く追求したくはないが、やるなら今しかない。

「ロロ……こんな言い方をしてもいいのかは、わからない。だけど俺は、ロロが今ここにいることに本当に感謝してるよ。…でもロロは、違うんだな?」
「え?」

 ここから言うことは完全にルルーシュの予想の産物でしかない。
 だが、それこそが、自分だからこそたどり着くことが出来る、ロロの真実だとルルーシュは思っっていた。

「ロロは…自分が生き残るべきではなかったと…そう、考えてるんじゃないか? だから、自分が許せない。…違うか?」

 ルルーシュの言葉に、ロロは目を見開き、

「…あ…」

 小さく震えた。

「僕は…」

 ロロはルルーシュを見ずに、自分自身に語りかけるように、思い出すように、言葉を紡ぎ出す。

「僕は引き金を引く瞬間まで、信じてた。
 ひょっとしたら、あの人達が、考えを変えてくれるかもしれないって。叩かれても、どんなに酷いことを言われても、僕はあの人達が好きだった、大好きだった。
 だから…、最後まで…あの人達が僕を好きになってくれるんじゃないかって、信じてた。
 あの時…『殺さないで』って、何度も何度も、叫んだんだ。…でも駄目だった。
 あの人達を撃ってしまってから思ったんだ。僕が死んでいたら、あの人達は僕を好きになってくれたのかなって…。僕が死ぬべきだったのかなって…。
 僕が頑張れなかったら、努力が足りなかったから、あの人達は僕を嫌っていた。
 もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと……、僕が頑張れていれば、あの人達は僕を好きになってくれて…死なずに済んだんだ。
 僕がいけなかったんだ。
 だから、僕は、幸せになれない…。なっちゃいけない…」

 やっと、たどり着いた。とルルーシュは思った。
 自分がそうだったから、よくわかる。自分で自分を赦せない。だから、自分の幸せを拒絶しそうになってしまう。
 自分で自分を赦すのが、どれほど苦しいか、ルルーシュは知っている。 だが、それを助けてくれる人間さえいれば、その苦痛を乗り越えることが可能だということを、ルルーシュはロロと出会って、知った。

「ロロ…おいで」

 ルルーシュが両腕を広げて言うと、ロロはきょとんした顔でこちらを見た。本当は自分の方からロロを抱きしめに行きたいのだが、そうすると途中で倒れそうな気がした。

「ほら」
「…行けないよ…」
「ロロ」
「行けないんだよ!」

 ロロは瞳に涙を溜めながら、激しく首を横に振った。
 ルルーシュは手を下ろしてから、壁に預けていた背をゆっくりと起こす。平衡感覚が上手く掴めない中、ルルーシュは気力を振り絞って、ロロに向かって一歩一歩、歩み寄る。

「ロロ…たった一日だったけれど、俺は幸せだった。今も幸せだよ」

 身体中が悲鳴を上げる中、ルルーシュはしっかりとした口調で言った。

「……生きていてくれて、ありがとう」

 ルルーシュはロロの前で立ち止まり、真心をこめて言った。

「…本当にありがとう。だからもう…自分で自分を嫌いになるな」
「…だよっ…」

 ロロが掠れた声で何かを言った。

「…ん?」
「嫌いだよっ…大嫌いだよっ…自分のことなんて…っ!」
「…ロロ…」

 ロロは拳を握り締めながら、泣いて叫んだ。

「…でも…」

 ロロは顔をあげて、ルルーシュの瞳を見た。

「今、生まれて初めて、自分を好きになりたいと思えたよ…」

 今日起きてから、ルルーシュは初めてロロの笑顔を見た。
 窓から、地平線から顔を覗かせた太陽の光が入り込んでくる。その中で、止め処なく流れる涙と共にある笑顔は、とても美しかった。
 これならもう、大丈夫だな、とルルーシュは思う。最後に一つだけ、言うべきことを除いては。

「俺は、ずっとこの国にいる。旅に出られる身体じゃないし…。引っ越すこともない。いや、引っ越さないよ。…だから」

 ルルーシュは、ゆっくりとロロの背中を抱き寄せた。

「いつでも、帰って来い」

*   *   *

「もう、行かなきゃ、…そろそろ行かないと、隣の国まで離れてるから野宿することになるし」

 ルルーシュの腕の中から抜け出しながら、ロロは言った。

「…そうか…。気をつけて」
「ねぇ、ルルーシュさん。…今度、ここに来る時は」
「帰ってくる時は、の間違いだろう?」

 ルルーシュが修正した。

「帰ってくる時は、ただいま、って言ってもいい?」
「俺は、『お帰り』って言わせてもらうよ。
 …そうだロロ。…おまじないをかけてやる。気休めにしからならないかもしれないが…。俺の目を見てくれ」
「…おまじない?」

 ロロは不思議そうに言いながらも、ルルーシュに言われた通り、ルルーシュの瞳を見つめた。ルルーシュは少し屈んで、両手をロロの頬にやる。

「ロロ。……ルルーシュが命じる」

 ルルーシュの左の目が、赤く輝いた。

「絶対に、幸せになれ」

 ロロの瞳に向かって赤い光が飛び込んできた。その赤い光はロロに影響を及ぼさないけれど、ロロは、ルルーシュがそのギアスをかけてくれたことが、心から嬉しかった。

「…はい」

 ロロは頷いた。そして意を決して、言う。

「行ってきます」
「…行っておいで」

 ロロはルルーシュに背を向けて、玄関のドアを開いた。
 輝く朝日が照らす中、ロロは一歩、踏み出した。
 


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 十九話を見たら上げられなくなりそう予感がするので、直前にあげました。十九話の展開がどうなってもこの後の展開は変えません。
 あとは、真相究明+エピローグで終了です。
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現在のお礼SS:ロロルルロロ一本。
効能:管理人のMP回復。感想一言頂けるととても喜びます。
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