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旅の途中(15)
ロロは運転手のいない車に乗り込み、「W58」という番号の割り振られた出入国管理局に向かっていた。この国のゲートは全て地下に存在し、出入国管理局の建物を通らないと入国・出国が出来ないようになっている。
国境に近づくと、ロロの乗る車以外に走るもののない道路を、木々だけが囲うようなっていった。前を見れば、高さ20mを超える防壁が、国境を守っていた。
防壁は一見するとコンクリートのようだが、入国する前にロロが触ってみたら、見た目よりつるつるしていた。ずっと触っていると何故か肌が焼けるように熱くなった。一体材質は何を使っているのかと入国の時に機械に訊いた時、国家機密ですと言われたのを覚えている。
「…なんだか、すごく昔のことみたいだな…」
どんな国なのだろう、と思いながらこの国に入国したのが何年も前のことのようだ。自分の人生を決定的に変える人と出会うなんて、全く予想もしていなかった自分が、一昨日、この道を逆方向に走る車に乗っていたなんて、とても信じられない。
あの時の自分と、今の自分は、もう、違う人間だ。
「ルルーシュさん……」
そっと名を呟けば、それだけで心が癒される。窓を見れば、柔らかい表情の自分が見返してきていた。
この国に来て本当に良かったと思いながら、ロロは過ぎ去っていく風景を見つめ続けた。
ルルーシュの家を出てから二時間程経った頃、赤レンガ造りである出入国管理局の建物の前で、車が止まった。ロロが車を降りてからドアを閉じようとすると、
「是非、マタ来テクダサイ」
車の中から人口音声が言った。ロロは少し驚いた顔をしてから、音声のした方に向かって微笑み、
「…うん。また来るよ。必ず」
そう言って、車の扉を閉じた。
W58と呼ばれる出入国管理局は主に個人の旅行者向けの為、こぢんまりとしていた。地上に出ている部分だけ見ると、街の小さな郵便局のようでもある。
ロロがガラス製の自動ドアを通ると、入国の時と同じように、ガイドの人口音声が迎える…筈だった。
「やーーー! 君がロロだね? 会いたかったよーv」
人口音声の代わりにロロを迎えたのは、長い銀髪の前髪を顔にたらし、バイザーをつけた長身の青年だった。
青年は甲高い声で言うと、嬉しそうに、ひらひらとロロに手をふった。
青年が突然出てきたので、ロロは一瞬身構えたが、どうやら危険はなさそうだと判断して、すぐに警戒を解く。
何事だろうかと思いながらロロが静かに次の展開を待っていると、青年が楽しそうに喋り始めた。
「ボクは出入国管理官のマオだよー。君が入国する時はサボってたからいなかったけど。君の事は知ってる。ちゃんと記録に残ってるから。これから君の出国手続きを担当するから、よろしくー」
「…よろしくお願いします」
色々とツッコミたい所はあったが、ロロが大人しくぺこりと頭を下げると、マオと名乗った青年は上機嫌で続けた。
「って、言っても、ボクがやることはないんだけどねー。君の荷物の検査をやることぐらい。さっき君が乗ってきた車が先にこっちに情報送信してくれてたからね。前もって色々やっておいたよ。ゲートをくぐったらバイクとか荷物はすぐに出るようにしてあるし。あっちで確認して、何かなくなってたりとか、文句があったら言ってくれれば対応するよ」
そう言ってマオが手を伸ばしてきたので、ロロは青年に鞄を預けた。
「ちょっと待っててねー」
マオはロロの鞄を持ってカウンターに入り、その奥に消えた。
「………」
突然現れたマオに訊きたいことが山ほどあったが、ロロはとりあえず近くにあったソファに座る。
周りを眺めると、受け付け用のカウンターと、白い壁と床に映える赤いソファが並ぶばかりで、他には何もない。
特筆することがあるとしたら、非常用階段のマークが点灯したドアがあることと、巨大なエレベーターのドアが開いていることぐらいだろう。主な設備は全て地下にあるのだ。
しばらくすると、カウンターの奥からビィィーーーという不吉な電子音が聞こえてきた。何かまずいことがあったのだろうかとロロが訝っていると、
「ねー。 何かヤバいものが入ってるんだけど、これ、君の趣味?」
「はい?」
カウンターから顔をだしたマオの言葉に、ロロは声を裏返らせていた。
「なんか発信機っぽいものが、カバンの生地のところに入ってるみたいなんだけど」
「………」
すっかり忘れていた。
ルルーシュが、ロロが黙って出て行くのを阻止する為にロロの鞄に仕込んでいた発信機のことを。
「別にここを出国するのには問題ないんだけどさー。他の国に入る時、ひっかかるよね、これは」
マオに言われて、
「すみません、鋏か何かありますか?」
ロロは訊いた。取れるものなら今のうちに取っておいた方がいい。
「あ、やっぱり取る? …なら任せなよ。機械のやつらにやらせておけば、綺麗にやってくれるよ」
それでお願いします、とロロが言うと、マオは「任せてー」と言って再びカウンターの奥に消えた。
「終わったら持ってきてくれるってさ。ちょっと時間がかかるみたいだ」
カウンターから出てきたマオはそう言うと、ロロの向かいのソファに座った。
「それまでちょっと話がしたいんだけど、いーい?」
「……いいですよ」
この状況では断りようがないじゃないか、と思いながらロロはそう答えていた。嫌だと言ってわざわざ管理官の機嫌を損ねたくはない。
とは言うものの、マオの存在にロロは興味が全くないわけではなかった。
機械が全てやり、ギアスの関係で住民が他者と接触しないこの国で、何故人間の管理官が働いているのか、その理由を知りたかった。
それをロロが尋ねようとした時、
「この国の感想を訊きたいんだ」
マオが言った。
「いい国だと思います…とても」
「えーーー? 本当に~~~?」
「はい」
マオは腕を組んでしばらく思案するように上を見た。
「機械ばっかでだーれも出てこない国なのに?」
「素敵な人に…会えましたから」
「へぇー。誰かに会えたんだ。…じゃあ」
マオは身を乗り出し、バイザーを下にズラして、ロロにその瞳を見せながら、
「コレ、のことは訊いた?」
にやりと笑いながら訊いてきた。ルルーシュの左目にあったのと同じ赤い光が、マオの両方の目に輝いていた。
「訊きました。ギアスですよね」
「そ♪ だからボクはここで管理官をやっていたんだ」
マオはバイザーを外して言った。
ギアスと管理官の間になんの繋がりがあるのだろうか、とロロが考えていると、マオは待ってましたとばかりにテンションを上げ、一気に喋り始めた。
「ボクのギアスはさー。相手の考えていることがわかるギアスなのさ。だから、出国する時にやばいものを持ち出そうとしている連中の考えを読んで捕まえられるってわけ。旅人には効かないけど。前は結構捕まえてたんだよ、やばい連中を。もともとはこういう小さい規模の局じゃなくて、もっと大きな局でぶいぶい言わせてた。機械連中よりも有能だったんだ。でもさー。五年前から皆ひきこもりになったからね。ボク以外の管理官の連中は全員どっかに行っちゃった。出国する奴もこの五年間、全然いない。」
「…どうして、マオさんはここに残ったんですか?」
「ここにいれば、旅人に会えるだろう? ボクは旅人の考えを読むことは出来ない。だから、ここにいれば面白いと思ってね。この国の連中と一緒にいると、考えてることがしょっちゅう聞こえてうるさいのなんの。ボクのギアスは範囲が広いから街には住めないんだよ。何考えてるのかわかってしまうから、誰かと話してもつまんないし。
だから、どうせボク以外の人間はいないから、ここに住むことにしたんだ。来るのは旅人ぐらいだしね。
仕事は全部機械がやってくれるから、二階の監視ルームでやってきた旅人を見てて、面白そうな奴だったら、こうして下に降りてきて手続きの手伝いをするってわけ。色々話をしながら。
…一昨日君が入国した時は居眠りしてて気づかなかったけどさー。
一昨日、目を覚まして入国記録を見たら吃驚したよ。恐っろしい化け物銃が保管されてたから。一発撃たれたら終わりだよね。あの銃は。だからどんなヤバイ奴かと思って興味があって記録を見てみたら、君みたいな奴でまたしても驚き。
あ、でも君ってその見た目でヤバイ奴だったりするのか?」
「…さぁ…どうでしょうね…」
ヤバイ部類に入るかもしれないなぁとボンヤリと考えつつ、ロロは冷めた目で答える。ルルーシュへの対応が特殊であっただけで、普段のロロはドライそのものなのだ。
マオは気にした様子もなく、ひたすらトークを続けた。
「最近、あんまりここのゲートから入国する人がいないんだよねー。や、もともと入国する人自体少ないんだけど、ここのゲートはマイナーだからさ。ボクはここの建物が気に入ってるからここにいるんだけどねー。でも、そろそろ、もうちょっと旅人が来るゲートに引っ越そうかなって思ってる。…ちょっと退屈してきたんだよ。
今日も誰か入国したらしいんだけど、寝てて気づかなかった。惜しいなー…。朝の三時ぐらいに来たのかな? まぁ太陽が出てくる前じゃあねぇ、普通寝てるし。ああそうだ、今日入国したこいつがまた胡散臭い奴で……」
「あの」
喋り続けるマオを、ロロは制止した。どうしても訊きたいことがあったのだ。マオのマシンガントークが更に火を噴く前に。
「永住資格を得る為の資料…貰えませんか?」
* * *
朝日が差し込み始めたルルーシュの家。
ロロが行ってしまうと、ルルーシュは服の胸のあたりぎゅう、と掴んだ。倒れそうになりながらもなんとか踏み止まって、ふらつきながらソファへと向かい、仰向けにソファに倒れこむ。終わった、と思った瞬間にどっと凍りつくような冷や汗が流れ始める。我慢していた荒い呼吸の音を何度かさせながら、
「全く…格好つけるもんじゃないな…」
ルルーシュは呟いた。激しい動悸が止まらない。身体に負担がかかっていた状態で無理をしすぎたのだ。
少しここで休んで落ち着いたら、何か飲んで、ベッドで寝よう、と決めて、ルルーシュは呼吸を整えながら、瞳を閉じる。
国境に向かっているであろうロロの姿を頭に思い浮かべながら、夢への舟に乗って意識を手放そうとした瞬間、
「やっほ~」
甲高い少年の声が耳元で聞こえて、ルルーシュは飛び起きた。
声のした方をすぐに見る。
ルルーシュのいるソファのすぐ傍で、長いブロンドの髪をなびかせる少年――V.V.がしゃがんでいた。
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