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「誓イ」ノ行方 (4)
あと少しで年が暮れるという日。
赤く空が染まる時間、枢木道場から少し離れた森の奥に、スザクはいた。
そこは大きな切り株を中心に少し開けている所で、切り株を円形に囲む木々には、チョークで書かれた丸い印が書かれ、枝からは紙やら布やら、さまざまなものが吊り下げられている。切り株の上にはどこから集めてきたのか、無数のナイフが置かれていた。
スザクの前で、児童達を騒がせていた幽霊本人が、スザクに背を向け、木の幹に刺さったナイフを引き抜いていた。
幽霊は先程まで、後ろにスザクがいるのを無視して、何度も何度もナイフを木に向かって投げていた。この数ヶ月の間に相当練習したのだろう。幽霊が投げたナイフはチョークで書かれた丸い印に見事に吸い込まれていった。
それから、ゆっくりと幽霊はスザクの方を振りむいた。
血に染まったような色の帽子に、肩を覆う同色。そして冷たい薄紫色の瞳。
これでは幽霊と間違われても仕方がないだろうな、とスザクは思った。
「なんの、ようですか?」
幽霊 ―― ロロは、静かに言った。
敬語は、本来相手に対する敬意を表する為のものだ。だがロロが使うそれは、明らかにスザクに対して作られた絶対不可侵の氷の壁だった。
「…なんだ、ちゃんと喋れるんじゃないか」
スザクは、わざと軽々しく言った。
ルルーシュとロロの話をしてから、スザクは一人で何回かロロを追跡したのだが、失敗していた。撒かれたのが十二回目ぐらいになってから少しだけ諦めそうになったが、どうやらロロはスザクを撒くのが面倒になったらしく、今回はスザクを撒く素振りすら見せなかった。スザクの粘りの勝利だ。
「なんで兄貴と喋ってやらないんだ? お前の兄貴、死ぬほど心配してるぞ。お前がシカトするから」
なんの遠慮もなく、スザクはロロに訊いた。
自分にはこれしか方法が思い浮かばない。ただ、単刀直入に本人に理由を訊く。この方法しか。
あのルルーシュが、弱みをスザクに見せたがらないあのルルーシュが、自分の前で、今にも倒れるのではないかという血の気のない顔で、ロロを失うことに怯えていた。
これまでどれだけルルーシュが悩み続けてきたのか、それが自分の想像力を遙かに超えることぐらい、スザクにだってわかっていた。
だから今、自分はここにいる。
「…しんぱい?」
「ああ、そうだよ! あのもやしのくせに強がりなお前の兄貴が、泣きそうな顔してたんだ。それがどれだけやばいことか、お前ならわかるだろ」
「にいさんが……」
ナイフを持ったままのロロの瞳に、ほんの少しだけ何かがよぎっていたのを、スザクは見た。それが何だったのかはよくわからなかった。
「兄貴とそんなに話したくないんだったら…せめて、なんで夜起きて朝寝てるのかだけでも説明してやれよ。じゃないと、お前の兄貴、そのうち本当に漂白されたもやしみたいに真っ白になって倒れるぞ」
「散々兄さんに酷いことを言っておいて、今更兄さんの味方気取りですか」
「悪いかよ。心配してる兄貴放っぽってる弟よりは、あいつの味方だって自信はあるぜ」
言い切った瞬間、普通の子どもなら泣いて逃げ出してしまいそうな殺気に、スザクは晒された。だが、あの藤堂鏡志朗に一目置かれる存在である枢木スザクが、怯む訳がない。
沈む太陽と共に下がり続ける気温を、一気に氷点下まで押し下げてしまいそうな視線でスザクを刺してくるロロに、スザクもまた、そんな目になんて負けない、と知らしめるように一歩前にでて、思い切り胸を張った。
「オ前ニ何ガワカル…」
負の感情を隠そうともしないロロの瞳を見て、スザクは初めてロロに会った時、頭に響いた声を思い出した。
絶対ニ オ前ヲ 許サナイ
剥き出しの敵意がどこから来るのか、その理由が合理的なものであるなら、答えはひとつしかない。
自分はルルーシュと出会った時、掴み合いの喧嘩をした。その声は外まで響いていただろう。そしてちょうどルルーシュが部屋の床に倒れていた所にロロは入ってきた。スザクが一方的にルルーシュを苛めていた、とロロにはそう映っただろう。それがロロからスザクへの敵意の正体だ。
だがもし、その予想が当たっているなら、それはいいことだろうとスザクは思っていた。ルルーシュが虐げられたと判断したことでロロがスザクを恨んでいるのあれば、それ程ロロはルルーシュを強く想っているということなのだから。
「ああ、わからないさ。でもそれは俺だけじゃない。お前の兄貴だってそうさ。だから心配してるんだよ。『お前になにがわかる』なんて言うなら、教えろよ。俺達が、何をわかっていないのか」
ロロはしばらくスザクを見てから、興味を失ったようにスザクに背を向け、ナイフを木の幹に向けて投げた。
ナイフは真っ直ぐ無駄のない軌道を描いて、木の幹に深々と刺さる。
スザクは、切り株に置かれていたナイフを一本、手に取った。
ロロがちらり、とスザクの方を振り返る。
スザクは渾身の力をこめて、木の幹に書かれた的のほうに向かってナイフを投げた。
ナイフは的には当たったものの、刺さらずに地面に落ちていった。
スザクは自分の投げたナイフを拾ってから、ロロの投げたナイフが刺さった木に向かう。
「お前が、どんだけ練習したのかは、わかる。…軽々しい気持ちで、こんなことやってるんじゃない、ってことも」
スザクは立ち止まって、深々と木の幹に刺さったロロのナイフを見た。
柄に手をかけて引き抜こうとするものの、軽々と抜けると思っていたそれは、まるで木と一体化してしまったようになっていた。
スザクは力を込めて、ナイフを引き抜く。
「兄貴の為に、やってるんじゃないのか? コレ」
二本のナイフを持ったスザクがそう言った時、ざぁぁぁ…と冷たい風が不気味な音を立てて、木々を揺らした。
瞳孔が一気に開いたロロの目が、スザクを警戒し始めたのが、わかる。スザクの問いにロロは何も答えないが、その反応が既に、答えを言っているようなものだった。
「理由なんて説明できないけどさ。俺の勘…昔からよく当たるんだよ。だからわかるんだ。今俺が言ったことも、外れてなかったって」
わかるのだ。ルルーシュがロロを想っているのと同じように、ロロがルルーシュを想っていることが。そしてその想いが、ロロにこんな行動を起こさせているということも。おそらくは昼夜が逆転しているロロの生活もそこに理由があるのだろうということも。
だが、自分はただ「わかる」だけで、そこに辿り着くまでの理由だとか、論理だとか、そんなものを説明することは出来ない。
だから自分がいくらルルーシュに、「ロロだってルルーシュを想っている」と言ったところで、ルルーシュは納得しないだろう。ただの慰めとしか取らないはずだ。
だって相手はあのルルーシュなのだ。理の通らないことを聞いて、首を縦に振るわけがない。自分の勘はよく当たるから、などと言って説明したら、こちらが一生懸命になればなるほどに、ルルーシュは逆ギレしかねない。
これ以上ない程までに弱りきっているルルーシュとわざわざ正面きって喧嘩しようとは、さすがのスザクも思わなかった。今やりあえば、それは喧嘩にすらならない。それはスザクがこの世で最も忌み嫌う、ただの「弱いものいじめ」だ。
「でもさ……。お前がコレを兄貴の為にやっているにしても…。こうしてる間にも、兄貴がどんな思いしてるか、お前少しでも考えてやったのかよ」
スザクが二本のナイフを切り株に置くところを、ロロは静かに見ていた。
スザクはロロの正面に立って、何を考えているのか全く読めないロロを、じっと見据える。
するとロロは、スザクのすぐ前まで歩くと、立ち止まって、スザクを見上げた。
なんのつもりだろう、とロロに隙を見せないようにしながらもスザクがそう思っていると、ロロはしばらくスザクをただ見上げてから、
「大っ嫌い」
突然、言った。
「…あ?」
「僕のことも、兄さんのことも何も知らないくせに、知ったような口をきくな。お前に何がわかる」
ロロはそう言うと、スザクの横を通り過ぎていった。
「お、おいちょっと待てよ!!」
スザクはロロを追いかけた。
この日あったことを、スザクはルルーシュに伝えようとした。が……、枢木首相の息子としての年末年始のあまりの忙しさに、このことを伝える機会を逸してしまった。
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