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ちょっと多めの注意事項。
・「誓イ」ノ行方(6)のすぐ後の話ですが単品でも読めると思います(多分)
・ロロとルルとナナリーが血縁だったら…!? という話。
・というわけでロロは皇族です。
・マリアンヌの事件の後、三人で日本に送られた頃の話です。
・ロロルルロロ+ナナリーです。
・ナナリー超元気
・ナナリー出番多いです。
・ロロとナナリーは双子にして百戦錬磨の戦友。
・↑でよろしければ、お読みください。
ちょっとした謎。
ばさぁ、と耳元で音がした気がする。
すぐ近くで聞こえた筈なのに、それがとても遠いところで起こった音のような気がして、ロロはその音を無視する。
なんだろう、急に寒くなってきた気がする。でも、眠いからいいや…。
そうやって自分の周りで起きた変化に関心を全く払わずにいると、左耳、右耳それぞれに別々の声が飛び込んできた。
「ロロ、起きろー」
「ロロ、起きてくださいー」
ステレオで耳の奥まで響いてきた声に、ロロはとても重い目蓋をやっとの思いで開けた。するとそこには二つの顔があった。一つは兄ルルーシュのもの、一つは車椅子から自分を見下ろすナナリーの顔。
「おはよう、ロロ」
「おはようございます、ロロ」
ロロはしばらくぼんやりと二人の顔を見てから…。
(…眠い…)
再び、目を閉じた。
いつの間にか毛布がなくなってるけれど、いいや……と鈍りきった頭はまともなことを考えずにすぐに休もうとしてしまう。
「…お兄様…」
「うん…。これは強敵だ、ナナリー」
やっぱりちょっと寒いな、毛布は何処に行ったのかな。と、ロロの頭はそれしか考えず、聞こえている筈の声を素通りさせていた。
「お兄様、いい作戦を思いつきまして?」
「んー。どの作戦も一長一短なんだ。どれにするべきか」
「では、今回はわたくしに任せてください」
「ん? 何をするんだい? ナナリー」
「秘密です。お兄様はわたくしが言うまで、見守っていてください」
「うん、わかったよ。ナナリー」
「はい! では、お兄様、私の隣にいてくださいますか?」
「そうか、僕の配置が重要な作戦なんだね?」
「その通りです。さすがお兄様」
目を閉じたまま、ロロの手は無意識に毛布を探していた。暖かく柔らかい毛布にくるまって、ぐっすりと眠っていたい…という貪欲な睡眠欲に動かされて、ロロは一度寝返りをうってから、まだ自分の手が探していない場所で再び探索を開始する。
目を開けてしまえば、ルルーシュがロロから剥ぎ取った毛布が足元にあるのがすぐわかった筈だが、生憎、まぶたがあまりに重すぎて、目を毛布探索に使うという選択肢がロロにはなかった。
「ロロ、聞いてください。とても重大な、とても大切なことをこれから言います」
毛布…毛布…毛布…。
ナナリーの声が聞こえてきたが、ロロはひたすら毛布を求めていた。
毛布…何処だろう…。
「よく聞いてください。ロロ」
仕方ない…諦めて寝ようかな…と、ついにロロが毛布探索を打ち切ろうとした時、ナナリーが巨大な爆弾を落としてきた。
「お兄様がチュー♪ でモーニングコーヒーを飲ませてくださるそうです」
なんだって?
「ナナナナナナナナナナナナナナナナナナナナナナナナ……ッ!!」
再生途中にバグを起こしたパソコンのスピーカーのように、ルルーシュが「ナ」を口から連発している中、
「兄さん、本当?」
ロロは目をぱっちり開けて起き上がると、先程までの鈍さが嘘のように素早く兄の方へと近づく。
「え!? いや、あの…、そ、そういうことは、お、大人になってから…」
顔を真っ赤にして、ルルーシュがナナリーの車椅子の後ろへと隠れるように退却すると、ロロが追い詰めるようにじりじりとルルーシュに歩を進める。
その時、視界の隅でナナリーが動いたのがロロには見えていたが、目の前にいるルルーシュに集中していて、反応が遅れた。
「捕まえましたっ!」
伸びてくるナナリーの手に途中で気づき、避けようとしたが、ナナリーの両手がしっかりとロロのパジャマを掴んだ。
しまった……!! と思うものの、下手に振り払うと、車椅子から上半身を乗り出している形のナナリーが危ない。
まさか、自分がこの体勢では反撃出来ないことまで見越していて…。
ロロは戦慄した。
「お兄様っ!! 早く!!」
呆然としていたルルーシュはナナリーの声にはっとして、すぐにロロが使っていた布団、毛布、枕を片付けてしまう。
さようなら僕の毛布……。
ナナリーにしっかりとパジャマを掴まれながら、ロロはその光景を、何かを諦めた瞳で見ていた。
「よし! これでもうロロも寝ないだろう。ナナリー、放していいよ」
「はい♪」
ルルーシュが言うと、ナナリーはにっこりと笑ってロロのパジャマから手を放した。ロロは観念した顔をしていたが、何かを求める子犬のような目をしながら、
「チューは、嘘、なの?」
ルルーシュに請うように聞いてきた。
「いや…それは…」
「嘘、なの?」
ひょっとして、期待していたんだろうか…と、ルルーシュが戸惑いながら答えられずにいると、
「はい! 嘘です!」
ナナリーが快活に言った。
ロロの鋭く刺すような視線がナナリーに向かう。ナナリーはやはりにっこりと笑っている。
ルルーシュはひやひやとしながらも、下手に刺激すると火がつきかねない冷戦の行方を見守った。この双子の導火線が何処にあるのか、未だにわからないところがある。
緊迫した空気が漂う中、最初に口火を切ったのはナナリーだった。
「嘘をついたのはわたくしです。全責任はわたくしにあります。ですからわたくしが…わたくしがロロにチューします!」
「いらない」
ロロが即答した。
ナナリーがどこか不自然な程穢れのない笑みを満面に浮かべる。
「それは宣戦布告ですか?」
「だったらどうする? 白旗でもあげる? やる気なら車椅子から降りてみなよ。出来るならね」
言いすぎだロロ。ルルーシュがそう言って割って入ろうとした時、
「いいでしょう。受けて立ちます。ロロとこうして戦うのも数ヶ月ぶりです。徹底抗戦します!」
どこか楽しげに言うナナリーに、ルルーシュは言葉を飲み込んでしまった。
母が殺される前、ナナリーとロロの間では数え切れないぐらいの戦いが勃発していた。双子ゆえなのか、どちらも互いに対して遠慮というものを知らず、ルルーシュが慌てて止めに入った回数もまた、数え切れない。しかし二人の戦いが終了した時は大抵疲れているのはルルーシュだけで、当の二人はあっけらかんとしていた。むしろすっきり爽快という感じだった。
そういえば、母のことがあってから、この二人も話をしていなかったんだな…と思う。
ロロは日本に来てから今までずっと昼夜逆転生活を送っていたし、ナナリーは精神的に相当弱っていた時期があった。「戦友」達は互いに戦うことが出来ず、これまで零距離同然だったのに、急に互いの距離があいてしまって、どのように距離をとればいいのか分からずにいたのだろう。
その二人が、またこうして(内容は物騒でも)話をして、向かい合っている。母の死でバラバラになっていったものが少しづつ、少しづつ、戻ってきている気がした。
「兄さん? どうして、泣いてるの?」
「…え? お兄様、泣いていらっしゃるのですか?」
二人に訊かれて、ルルーシュはなんでもないよ、と言った。
よかった、また三人で、話せるようになって…とルルーシュが安堵した瞬間、
「ナナリー」
ロロが不吉な声で言った。
「はい、なんでしょう」
「君が兄さんを泣かせたんだ」
「まぁ、違います。お兄様を泣かせたのはロロです」
「ナナリーだよ」
「ロロです」
「……表に出ようか?」
「望むところです。表に出る勇気がロロにおありなら」
一度沈火した赤い炎が再び燃え上がっているのを見て、
(どうやって…消せばいいんだっけ…)
数ヶ月ぶりの消火作業の手順を、ルルーシュは必死に思い出そうとしていた。
* * *
「あいつら元気にしてるかな」
年末年始の行事やら何やらであちこちを連れ回されていた日々が、ようやく終わった。学校は明日から。今日は稽古もない。スザクは解放感に身を任せながら、「土蔵」へと向かっていた。
そういえば、ロロの件はどうなったのだろう。進展はあったのだろうか。またルルーシュが辛気臭い顔をしていたら何て言ってやろうか…と思いながら「土蔵」に近づいた時、まだ朝早いというのに、珍しくロロが「土蔵」の前に立っていた。そしてロロに向かい合うようにしてナナリーが車椅子に座っている。
なんだなんだ? と思いながらスザクが近づくと、
―― 車輪の錆にして差し上げます。
―― やってみなよ。**女。
「へ?」
スザクは思わず間の抜けた声をだした。今、お二人はなんと仰ったのですか? と思わず敬語で聞きそうになった時、ルルーシュが玄関前で眉間に皺を寄せているのが見えた。
「おーい! ルルーシュ!」
スザクが言うと、ロロとナナリーの視線がずぶりと突き刺さった。俺は何かまずいことをしただろうか、とスザクが自分のしたことを省みた時、
「興がそがれました」
ナナリーがロロに向かって厳粛に言った。
ん? 何? キョウガソガレマシタ? 何語だ?
ナナリーからそんな言葉が飛び出すと思っていなかった為、理解が遅れているスザクを横目にしながら、
「…そうだね」
ロロもまた厳粛に言った。
* * *
日記 一月八日 (割と晴れ)
今日、ルルーシュに会いに行ったら、ルルーシュにやたらと歓迎された。そして始めてまともに兄貴と喋っている弟を見た。ナナリーとロロが喋っているところも始めて見た。
なんかくやしい。俺がいない間に仲良くなってる。
でも、三人で笑ってるところを見てたら、なにがあったのか今日訊くのはヤボな気がした。
なにがあったのか、明日学校から帰ったらルルーシュに訊いてみよう。
で、今日は四人で色々遊んだ。
途中で、ナナリーが本気で手動で動かす車椅子と、ロロの足のどっちが速いか、二人で対決しようとして、俺とルルーシュが全力で止めた。危なすぎるだろう!
あと、なぜか、帰ろうとしたらルルーシュに「いつでも来い」と肩に手を置かれて、言われた。元々俺の家だっての!!! 嬉しそうに言われたのがなんかムカつく。
でも「よかったな」ってルルーシュには言ってやった。
俺はエライと思う。
* * *
ルルーシュは部屋の電気を消した。
寝るには、まだ早い時間。しかし、毛布に包まって、ナナリーはぐっすりと眠っていた。今日、余程楽しかったのだろう。とても幸せそうな寝顔だった。
ルルーシュは寝室の戸を閉め、一階に降りる。
「ロロ」
ルルーシュが呼ぶと、一階にいたロロが顔を上げた。少し、眠そうだった。
「今日は疲れただろう? 先に寝てていいよ。片付けとかは僕がやっておくから」
ロロは今、とても眠い筈だ。
今朝、なかなか起きられなかったロロを思い出す。つい昨日まで昼夜逆転生活を送っていたものだから、おそらく殆ど眠れずに、朝方寝入ったのだろう。それはわかっていたけれど、それで遅くまで寝かせてしまうと、また昼夜逆転生活に戻ってしまう。昨夜、ロロを必死に説得して、「夜に寝て、朝起きる」ことを約束させたのが無駄になる。
「ううん。兄さんと一緒に寝たいから、手伝う」
「…ありがとう」
眠そうにしながらも、懸命に言うロロにルルーシュは頷いた。
帰ってくる。バラバラになったものが。完全に元通りにはならないかもしれないけれど、取り戻したかった大切なものは形を変えて帰ってきてくれた。
今日は、とても楽しかった。けれど、これで終わりたくはない。今日より、明日、明日より、明後日…と、笑顔が増えていけばいいと思う。いや、増やすのだ。この数ヶ月間、散々辛い思いをしてきたのだから、そうでなければ割りに合わない。
弟と妹のパワーに負けないようにしないとな、とルルーシュは内心、思った。二人の兄は自分なんだから。
* * *
ルルーシュと二人、同じ布団で横になりながら、ロロは大きな目を開けて天井を見上げていた。ルルーシュはとっくに寝入ってしまっているのに、自分はとても眠い筈なのに何故か眠れない。
ここ数ヶ月の癖がついてしまっているのだろう。
思わず布団から出てしまいたくなるが、昨夜、兄と「夜は寝る」と約束したので、兄の寝顔を見てなんとか踏み止まる。
「兄さん…」
ロロは小さく言った。
日本に来てから、こうして枕を並べて眠るのは初めてだ。
昨夜は、ルルーシュとの約束を果たすために、早く寝なきゃ…と気持ちだけが焦ってしまい、ルルーシュと同じ布団で寝ようなんて考えることも出来なかった。
以前はよく「お泊り」をしていたのに、それがずっと昔のことみたいな気がする。
大好きな、大好きな、兄さん。
ずっと、傍にいてもいいと、いてほしいと言ってくれた兄さん。
ルルーシュの寝顔を見ながら、思う。
なんだろう。この数ヶ月の間に、兄さんに対する「大好き」の感じが変わってしまった気がする。前よりもっと好きになったのか、それとも……。
ロロが考えこんでいると、
「ロロ…? 眠れないのか?」
ルルーシュが目を覚ましながら、言った。
「うん…。ゴメンなさい。眠れない…」
ロロがしゅんとして謝ると、
「いや。謝らなくていいよ」
ルルーシュはそう言ってロロに向かって腕を広げた。
…アレ?
ロロがルルーシュの行動に何か違和感を覚えていると、
「ロロ?」
ルルーシュが不思議そうな顔をした。
ああ、そうだ。とロロは思い出した。今よりもっと小さい頃、眠れない時、ルルーシュと二人で抱き合って眠っていたこと。ルルーシュは当然のように覚えていたのに、何故自分は忘れていたのだろう?
ロロはルルーシュの腕の中に入って、自分の手を、ルルーシュの背中に回した。
「おやすみ、ロロ」
「おやすみなさい、兄さん」
抱き合いながら、目を閉じ、考える。
どうして、今日の朝、ナナリーが嘘をついた時、とても眠かったのに、あんなに一瞬で起きることが出来たのだろう。ナナリーなら答えを知っているのだろうか?
そんなちょっとした謎のことを考えつつ…。
ルルーシュのぬくもりの中で、ロロは眠った。
終
戻る
スザクの今年の目標:文章が下手すぎると教師に真顔で言われ、そんなことない! と思って作文を藤堂に読んでもらった所、読み終わった藤堂がしばらく沈黙してから、神妙な面持ちで「個性的でいいと思う」と言ったことにショックを受けたので、練習の為毎日日記をつけるコト。が目標(でも一月八日時点で一回しか書いてない)*しかも殴り書き
真相:教師も藤堂も、本当はスザクの文章云々ではなく、本当は綺麗に書けるのに解読不能な字をスザクが書く為辟易しただけだった。
BGM Plenty of grit by 林原めぐみ
Revolution vocal by 林原めぐみ
・「誓イ」ノ行方(6)のすぐ後の話ですが単品でも読めると思います(多分)
・ロロとルルとナナリーが血縁だったら…!? という話。
・というわけでロロは皇族です。
・マリアンヌの事件の後、三人で日本に送られた頃の話です。
・ロロルルロロ+ナナリーです。
・ナナリー超元気
・ナナリー出番多いです。
・ロロとナナリーは双子にして百戦錬磨の戦友。
・↑でよろしければ、お読みください。
ちょっとした謎。
ばさぁ、と耳元で音がした気がする。
すぐ近くで聞こえた筈なのに、それがとても遠いところで起こった音のような気がして、ロロはその音を無視する。
なんだろう、急に寒くなってきた気がする。でも、眠いからいいや…。
そうやって自分の周りで起きた変化に関心を全く払わずにいると、左耳、右耳それぞれに別々の声が飛び込んできた。
「ロロ、起きろー」
「ロロ、起きてくださいー」
ステレオで耳の奥まで響いてきた声に、ロロはとても重い目蓋をやっとの思いで開けた。するとそこには二つの顔があった。一つは兄ルルーシュのもの、一つは車椅子から自分を見下ろすナナリーの顔。
「おはよう、ロロ」
「おはようございます、ロロ」
ロロはしばらくぼんやりと二人の顔を見てから…。
(…眠い…)
再び、目を閉じた。
いつの間にか毛布がなくなってるけれど、いいや……と鈍りきった頭はまともなことを考えずにすぐに休もうとしてしまう。
「…お兄様…」
「うん…。これは強敵だ、ナナリー」
やっぱりちょっと寒いな、毛布は何処に行ったのかな。と、ロロの頭はそれしか考えず、聞こえている筈の声を素通りさせていた。
「お兄様、いい作戦を思いつきまして?」
「んー。どの作戦も一長一短なんだ。どれにするべきか」
「では、今回はわたくしに任せてください」
「ん? 何をするんだい? ナナリー」
「秘密です。お兄様はわたくしが言うまで、見守っていてください」
「うん、わかったよ。ナナリー」
「はい! では、お兄様、私の隣にいてくださいますか?」
「そうか、僕の配置が重要な作戦なんだね?」
「その通りです。さすがお兄様」
目を閉じたまま、ロロの手は無意識に毛布を探していた。暖かく柔らかい毛布にくるまって、ぐっすりと眠っていたい…という貪欲な睡眠欲に動かされて、ロロは一度寝返りをうってから、まだ自分の手が探していない場所で再び探索を開始する。
目を開けてしまえば、ルルーシュがロロから剥ぎ取った毛布が足元にあるのがすぐわかった筈だが、生憎、まぶたがあまりに重すぎて、目を毛布探索に使うという選択肢がロロにはなかった。
「ロロ、聞いてください。とても重大な、とても大切なことをこれから言います」
毛布…毛布…毛布…。
ナナリーの声が聞こえてきたが、ロロはひたすら毛布を求めていた。
毛布…何処だろう…。
「よく聞いてください。ロロ」
仕方ない…諦めて寝ようかな…と、ついにロロが毛布探索を打ち切ろうとした時、ナナリーが巨大な爆弾を落としてきた。
「お兄様がチュー♪ でモーニングコーヒーを飲ませてくださるそうです」
なんだって?
「ナナナナナナナナナナナナナナナナナナナナナナナナ……ッ!!」
再生途中にバグを起こしたパソコンのスピーカーのように、ルルーシュが「ナ」を口から連発している中、
「兄さん、本当?」
ロロは目をぱっちり開けて起き上がると、先程までの鈍さが嘘のように素早く兄の方へと近づく。
「え!? いや、あの…、そ、そういうことは、お、大人になってから…」
顔を真っ赤にして、ルルーシュがナナリーの車椅子の後ろへと隠れるように退却すると、ロロが追い詰めるようにじりじりとルルーシュに歩を進める。
その時、視界の隅でナナリーが動いたのがロロには見えていたが、目の前にいるルルーシュに集中していて、反応が遅れた。
「捕まえましたっ!」
伸びてくるナナリーの手に途中で気づき、避けようとしたが、ナナリーの両手がしっかりとロロのパジャマを掴んだ。
しまった……!! と思うものの、下手に振り払うと、車椅子から上半身を乗り出している形のナナリーが危ない。
まさか、自分がこの体勢では反撃出来ないことまで見越していて…。
ロロは戦慄した。
「お兄様っ!! 早く!!」
呆然としていたルルーシュはナナリーの声にはっとして、すぐにロロが使っていた布団、毛布、枕を片付けてしまう。
さようなら僕の毛布……。
ナナリーにしっかりとパジャマを掴まれながら、ロロはその光景を、何かを諦めた瞳で見ていた。
「よし! これでもうロロも寝ないだろう。ナナリー、放していいよ」
「はい♪」
ルルーシュが言うと、ナナリーはにっこりと笑ってロロのパジャマから手を放した。ロロは観念した顔をしていたが、何かを求める子犬のような目をしながら、
「チューは、嘘、なの?」
ルルーシュに請うように聞いてきた。
「いや…それは…」
「嘘、なの?」
ひょっとして、期待していたんだろうか…と、ルルーシュが戸惑いながら答えられずにいると、
「はい! 嘘です!」
ナナリーが快活に言った。
ロロの鋭く刺すような視線がナナリーに向かう。ナナリーはやはりにっこりと笑っている。
ルルーシュはひやひやとしながらも、下手に刺激すると火がつきかねない冷戦の行方を見守った。この双子の導火線が何処にあるのか、未だにわからないところがある。
緊迫した空気が漂う中、最初に口火を切ったのはナナリーだった。
「嘘をついたのはわたくしです。全責任はわたくしにあります。ですからわたくしが…わたくしがロロにチューします!」
「いらない」
ロロが即答した。
ナナリーがどこか不自然な程穢れのない笑みを満面に浮かべる。
「それは宣戦布告ですか?」
「だったらどうする? 白旗でもあげる? やる気なら車椅子から降りてみなよ。出来るならね」
言いすぎだロロ。ルルーシュがそう言って割って入ろうとした時、
「いいでしょう。受けて立ちます。ロロとこうして戦うのも数ヶ月ぶりです。徹底抗戦します!」
どこか楽しげに言うナナリーに、ルルーシュは言葉を飲み込んでしまった。
母が殺される前、ナナリーとロロの間では数え切れないぐらいの戦いが勃発していた。双子ゆえなのか、どちらも互いに対して遠慮というものを知らず、ルルーシュが慌てて止めに入った回数もまた、数え切れない。しかし二人の戦いが終了した時は大抵疲れているのはルルーシュだけで、当の二人はあっけらかんとしていた。むしろすっきり爽快という感じだった。
そういえば、母のことがあってから、この二人も話をしていなかったんだな…と思う。
ロロは日本に来てから今までずっと昼夜逆転生活を送っていたし、ナナリーは精神的に相当弱っていた時期があった。「戦友」達は互いに戦うことが出来ず、これまで零距離同然だったのに、急に互いの距離があいてしまって、どのように距離をとればいいのか分からずにいたのだろう。
その二人が、またこうして(内容は物騒でも)話をして、向かい合っている。母の死でバラバラになっていったものが少しづつ、少しづつ、戻ってきている気がした。
「兄さん? どうして、泣いてるの?」
「…え? お兄様、泣いていらっしゃるのですか?」
二人に訊かれて、ルルーシュはなんでもないよ、と言った。
よかった、また三人で、話せるようになって…とルルーシュが安堵した瞬間、
「ナナリー」
ロロが不吉な声で言った。
「はい、なんでしょう」
「君が兄さんを泣かせたんだ」
「まぁ、違います。お兄様を泣かせたのはロロです」
「ナナリーだよ」
「ロロです」
「……表に出ようか?」
「望むところです。表に出る勇気がロロにおありなら」
一度沈火した赤い炎が再び燃え上がっているのを見て、
(どうやって…消せばいいんだっけ…)
数ヶ月ぶりの消火作業の手順を、ルルーシュは必死に思い出そうとしていた。
* * *
「あいつら元気にしてるかな」
年末年始の行事やら何やらであちこちを連れ回されていた日々が、ようやく終わった。学校は明日から。今日は稽古もない。スザクは解放感に身を任せながら、「土蔵」へと向かっていた。
そういえば、ロロの件はどうなったのだろう。進展はあったのだろうか。またルルーシュが辛気臭い顔をしていたら何て言ってやろうか…と思いながら「土蔵」に近づいた時、まだ朝早いというのに、珍しくロロが「土蔵」の前に立っていた。そしてロロに向かい合うようにしてナナリーが車椅子に座っている。
なんだなんだ? と思いながらスザクが近づくと、
―― 車輪の錆にして差し上げます。
―― やってみなよ。**女。
「へ?」
スザクは思わず間の抜けた声をだした。今、お二人はなんと仰ったのですか? と思わず敬語で聞きそうになった時、ルルーシュが玄関前で眉間に皺を寄せているのが見えた。
「おーい! ルルーシュ!」
スザクが言うと、ロロとナナリーの視線がずぶりと突き刺さった。俺は何かまずいことをしただろうか、とスザクが自分のしたことを省みた時、
「興がそがれました」
ナナリーがロロに向かって厳粛に言った。
ん? 何? キョウガソガレマシタ? 何語だ?
ナナリーからそんな言葉が飛び出すと思っていなかった為、理解が遅れているスザクを横目にしながら、
「…そうだね」
ロロもまた厳粛に言った。
* * *
日記 一月八日 (割と晴れ)
今日、ルルーシュに会いに行ったら、ルルーシュにやたらと歓迎された。そして始めてまともに兄貴と喋っている弟を見た。ナナリーとロロが喋っているところも始めて見た。
なんかくやしい。俺がいない間に仲良くなってる。
でも、三人で笑ってるところを見てたら、なにがあったのか今日訊くのはヤボな気がした。
なにがあったのか、明日学校から帰ったらルルーシュに訊いてみよう。
で、今日は四人で色々遊んだ。
途中で、ナナリーが本気で手動で動かす車椅子と、ロロの足のどっちが速いか、二人で対決しようとして、俺とルルーシュが全力で止めた。危なすぎるだろう!
あと、なぜか、帰ろうとしたらルルーシュに「いつでも来い」と肩に手を置かれて、言われた。元々俺の家だっての!!! 嬉しそうに言われたのがなんかムカつく。
でも「よかったな」ってルルーシュには言ってやった。
俺はエライと思う。
* * *
ルルーシュは部屋の電気を消した。
寝るには、まだ早い時間。しかし、毛布に包まって、ナナリーはぐっすりと眠っていた。今日、余程楽しかったのだろう。とても幸せそうな寝顔だった。
ルルーシュは寝室の戸を閉め、一階に降りる。
「ロロ」
ルルーシュが呼ぶと、一階にいたロロが顔を上げた。少し、眠そうだった。
「今日は疲れただろう? 先に寝てていいよ。片付けとかは僕がやっておくから」
ロロは今、とても眠い筈だ。
今朝、なかなか起きられなかったロロを思い出す。つい昨日まで昼夜逆転生活を送っていたものだから、おそらく殆ど眠れずに、朝方寝入ったのだろう。それはわかっていたけれど、それで遅くまで寝かせてしまうと、また昼夜逆転生活に戻ってしまう。昨夜、ロロを必死に説得して、「夜に寝て、朝起きる」ことを約束させたのが無駄になる。
「ううん。兄さんと一緒に寝たいから、手伝う」
「…ありがとう」
眠そうにしながらも、懸命に言うロロにルルーシュは頷いた。
帰ってくる。バラバラになったものが。完全に元通りにはならないかもしれないけれど、取り戻したかった大切なものは形を変えて帰ってきてくれた。
今日は、とても楽しかった。けれど、これで終わりたくはない。今日より、明日、明日より、明後日…と、笑顔が増えていけばいいと思う。いや、増やすのだ。この数ヶ月間、散々辛い思いをしてきたのだから、そうでなければ割りに合わない。
弟と妹のパワーに負けないようにしないとな、とルルーシュは内心、思った。二人の兄は自分なんだから。
* * *
ルルーシュと二人、同じ布団で横になりながら、ロロは大きな目を開けて天井を見上げていた。ルルーシュはとっくに寝入ってしまっているのに、自分はとても眠い筈なのに何故か眠れない。
ここ数ヶ月の癖がついてしまっているのだろう。
思わず布団から出てしまいたくなるが、昨夜、兄と「夜は寝る」と約束したので、兄の寝顔を見てなんとか踏み止まる。
「兄さん…」
ロロは小さく言った。
日本に来てから、こうして枕を並べて眠るのは初めてだ。
昨夜は、ルルーシュとの約束を果たすために、早く寝なきゃ…と気持ちだけが焦ってしまい、ルルーシュと同じ布団で寝ようなんて考えることも出来なかった。
以前はよく「お泊り」をしていたのに、それがずっと昔のことみたいな気がする。
大好きな、大好きな、兄さん。
ずっと、傍にいてもいいと、いてほしいと言ってくれた兄さん。
ルルーシュの寝顔を見ながら、思う。
なんだろう。この数ヶ月の間に、兄さんに対する「大好き」の感じが変わってしまった気がする。前よりもっと好きになったのか、それとも……。
ロロが考えこんでいると、
「ロロ…? 眠れないのか?」
ルルーシュが目を覚ましながら、言った。
「うん…。ゴメンなさい。眠れない…」
ロロがしゅんとして謝ると、
「いや。謝らなくていいよ」
ルルーシュはそう言ってロロに向かって腕を広げた。
…アレ?
ロロがルルーシュの行動に何か違和感を覚えていると、
「ロロ?」
ルルーシュが不思議そうな顔をした。
ああ、そうだ。とロロは思い出した。今よりもっと小さい頃、眠れない時、ルルーシュと二人で抱き合って眠っていたこと。ルルーシュは当然のように覚えていたのに、何故自分は忘れていたのだろう?
ロロはルルーシュの腕の中に入って、自分の手を、ルルーシュの背中に回した。
「おやすみ、ロロ」
「おやすみなさい、兄さん」
抱き合いながら、目を閉じ、考える。
どうして、今日の朝、ナナリーが嘘をついた時、とても眠かったのに、あんなに一瞬で起きることが出来たのだろう。ナナリーなら答えを知っているのだろうか?
そんなちょっとした謎のことを考えつつ…。
ルルーシュのぬくもりの中で、ロロは眠った。
終
戻る
スザクの今年の目標:文章が下手すぎると教師に真顔で言われ、そんなことない! と思って作文を藤堂に読んでもらった所、読み終わった藤堂がしばらく沈黙してから、神妙な面持ちで「個性的でいいと思う」と言ったことにショックを受けたので、練習の為毎日日記をつけるコト。が目標(でも一月八日時点で一回しか書いてない)*しかも殴り書き
真相:教師も藤堂も、本当はスザクの文章云々ではなく、本当は綺麗に書けるのに解読不能な字をスザクが書く為辟易しただけだった。
BGM Plenty of grit by 林原めぐみ
Revolution vocal by 林原めぐみ
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癒し系ボタン
現在のお礼SS:ロロルルロロ一本。
効能:管理人のMP回復。感想一言頂けるととても喜びます。