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・ 同ネタがありそうな予感がしますが被ったらゴメンナサイ。
・ 読む順番は、メニューにある通り、選ばれた願い.A ― BIRTHDAY CARD ―(1)(2)(3)(4)(5) → 選ばれた願い.B ― TWO HNADS ― →選ばれた願い.A ― BIRTHDAY CARD ―(6)の順でお願いします。
同じ想いから来る真逆の願いが二つ在る時、願いは、一つしか、叶わない。
大切だからこそ、愛しているからこそ、願われた二つの願い。
どうか、忘れないでほしい。
二つの願いのどちらが選ばれた世界であっても、それを願った想いの深さも、強さも、変わりはしないのだということを。
一つしか叶わない願いを叶える為に、裂かれるような痛みがあったことを。
―― 願いは、一つしか叶わない。
選ばれた願い.A
― BIRTHDAY CARD ― (1)
おいしい水と降り注ぐ太陽の光をたっぷりと浴びたオレンジ色の果実が、たわわに実っていた。
命を漲らせた果実を重そうにぶら下げながら、雲ひとつない晴天の下で木々が整然と立ち並ぶ。その根元で、藁帽子に白いワンピース姿のアーニャが、果実の一つをじぃ、と見上げていた。アーニャを斜め後ろから眺めながら、作業着姿のジェレミアが額から流れる汗を拭う。
ハンターのように細められた赤い瞳がオレンジ色の果実を確かに狙っているのを見て取って、
「それは、明日とるといい。そうすると一番美味しい」
生真面目な新任教師のようにジェレミアは言う。
「明日?」
アーニャがジェレミアの方を振り返りながら残念そうに訊くと、
「明日だ」
それだけは譲れない、と言うようにジェレミアは腕を組んで答えた。
「ふーん」
一日違うだけで、何が変わるのだろうか、と思いながら、アーニャは首から下げたピンク色の可愛らしい薄型デジタルカメラを手にした。狙っていたオレンジの果実がカメラの液晶の枠内に入るよう、調整する。そよ風に揺れる果実が動きを止めた一瞬を狙って、アーニャは撮影ボタンを押した。
まだオレンジ畑の見回りをするらしいジェレミアと別れ、アーニャはゆっくりと歩き始める。
ピンク色のデジタルカメラは、ジェレミアに買ってもらったものだ。記憶がなかった頃は、記録の為にと写真を撮っていたが、最近は純粋に好きで写真を撮っている。パソコンに画像を取り込んで加工して遊ぶこともあるし、ただ保存しておくだけの時もある。
数日前、ここにお忍びで立ち寄っていったスザクにパソコンの中身を見せたら、パソコンに保存した写真の内一枚 ― 黄昏に包まれたオレンジの畑の写真で、端っこの方に小さくさりげなく作業着姿のジェレミアの姿が写っている ― が、スザクはいたく気にいったらしく、『この写真ならお金を払ってもいいよ』とベタ褒めだった。『アーニャ、将来は写真家になることをお勧めするよ』とスザクはにっこりと笑って言っていた。
将来、か……。とアーニャは考える。
ジェレミアも、たまに顔を見せるスザクも、将来のことはゆっくり考えればいい、と優しく言ってくれた。途切れ途切れの記憶という砂上に立っていた頃は、将来への明確な意志などアーニャは持てなかった。だが、記憶が戻ったからといって、いきなり自分が確かなものになるわけではない。目まぐるしく変化した世界の中で、これから自分がどう歩きたいのか、未だ答えはでない。
アーニャは足を止めた。
果実のなる木々の列が終わりを告げる場所に、白い家が建っていた。
ジェレミアお手製のお洒落な丸いテーブルと、椅子が庭に置いてある。
丁度木陰になっているそのテーブルに頬杖を付き、物憂げに椅子に座る少年の横顔を見ながら、アーニャは思った。悪逆皇帝として世界と歴史にその名を刻んだ男の『死』によって、新しいスタートを切った世界。その世界で、立ち位置がわからず、歩むべき方向を定められないのは、自分だけではないのだろう、と。
アーニャはデジタルカメラに手をやって、少年の姿を液晶の枠内に納める。まだ少年はアーニャに気づかない。アーニャは撮影ボタンを押すことなく、カメラを下げた。
近づくアーニャに少年は気が付かないようで、アーニャが隣に座ってもまだぼんやりとしていた。
「ロロ」
アーニャが小さく言うと、ロロと呼ばれた少年はびくりとしてから、アーニャの方へと顔を上げた。
「…いつの間に」
「今来た」
いつも通りの短すぎる会話が終わると、二人の間には風が乗せてくる葉擦れの音だけが流れていく。
アーニャが特に意味もなくロロを眺めているのはいつものことなので、ロロも隣にアーニャがいても気にすることなく再び自分の世界に戻ってしまう。
アーニャは両肘をついて、デジタルカメラを操作し始めた。先ほど撮ったオレンジの果実の画像を拡大する。よく撮れていた。
ちらり、とデジタルカメラからロロに視線を移すと、ロロはやはり何をするわけでもなく空を眺めているようだった。
アーニャはデジタルカメラの電源を切ってから、テーブルに突っ伏した。先ほどからぼーっとしているロロに倣って、自分もただぼんやりとロロを眺める。
ロロがこの家にやって来てから、どれほどの月日が経ったのだろう? 最近、時間の感覚が麻痺してしまっているせいで、よくわからない。自分がここにやってきたのがいつ頃だったか正確に思い出せればいいのだが、そんなことをあまり気にしない生活を送りすぎたせいで、最早記憶の彼方だ。あとでブログの日付を確認してみようか。そうすればわかるかもしれない、と考えながら、アーニャは自分がこの家にやってきた時のことを思い出す。
フレイアが次々と撃ち出される戦場で、アーニャはジェレミアによって記憶を取り戻した。あのおぞましい戦闘が終わった後、アーニャは一人でこの家に住み始めた。ゼロレクイエムが終わるまで、ジェレミアがルルーシュの傍を離れられなかったからだ。ルルーシュのことや、ゼロレクイエムのこと、ジェレミア自身の今までのことに関する手早い説明の後に、『必ず、ここへ戻ってくるから、それまで待っていてくれ』と、アーニャをこの場所へと連れてきたジェレミアは言った。その言葉通り、ジェレミアはゼロレクイエムが終わると、この家に戻ってきた。
アーニャがジェレミアを迎えた時、ジェレミアの隣にいたのがロロだった。
今でも、その時のロロの目をよく覚えている。死んだ魚のような、光を映さない虚ろな目。ロロのことはアッシュフォード学園にいた時、何回か見たことがあったから、アーニャは思わず「ロロ?」と口にしたが、ロロの瞳はアーニャを映さず、その言葉に返事をすることもなかった。
訊きたいことは山ほどあったが、『今は休ませてやってほしい』と深刻そうに言うジェレミアに従って、アーニャは何も訊かなかった。
アーニャがロロと会ったのは数回しかなかったが、ルルーシュを見つめるロロの瞳の輝きはよく覚えている。そのルルーシュを失い、行く所がなかった為にジェレミアが引き取ったというのが、妥当なところだろう。ロロを部屋へと案内するジェレミアを横目に見ながら、アーニャはそんな風に考えていた。
その予想が当たっていたことをアーニャはすぐに知ることになった。
ジェレミアは、自分の知るロロの全てをアーニャに話した。
ロロがかつてはルルーシュを監視し、時が来れば彼を処分する為にブリタニアから派遣された暗殺者だったこと。その為に記憶を改変されたルルーシュの傍で偽の弟を演じていたこと。そのあとの細かいことまではジェレミアも知らないらしいが、とにかく紆余曲折を経て、ルルーシュとロロが互いに想い合うになっていったこと。
だが、ゼロレクイエムを迎えるにあたって、兄の意向に最後までロロは抵抗した。ゼロレクイエム実行の為、ルルーシュはロロにギアス(ギアスの詳細は以前に教えられた。アーニャも直接的にギアスの被害に遭っていたからだ)を使わざるをえない状況に追い込まれて、ついにロロに対してギアスを使ってしまったのだという。どのようなギアスをロロに使ったのか、その詳細はジェレミアも知らないらしい。
確かなことは、ロロの記憶の大部分が欠落し、少なくともルルーシュことは全く覚えていないということだ。しかしギアスのかけ方も多種多様であって、単純にルルーシュから何かを「忘れろ」と命令されたのかもしれないし、違うかもしれない。このあたりのことはジェレミアも何か思うところがあったらしいが、憶測に過ぎないことを口には出来ないと言って話してはくれなかった。
記憶を失うことの不安を知っているアーニャは、話を訊いた時、無意識ではあったがジェレミアを責めるように睨み付けていた。自分の計画を実行するために、人の記憶に土足で踏み込み、切断すること。それがどれだけ、屈辱的なことなのか、アーニャは知っていた。アーニャの目を見たジェレミアは「ルルーシュ様も苦しんでおられたのだ」、とルルーシュの行動を庇った。
ジェレミアの言葉に納得はいかなかったが、ジェレミアを責めても仕方がなかった。ロロの記憶を刺激しないように、なるべくルルーシュの話題を避けて欲しいというジェレミアの言葉にも、アーニャは渋々頷いた。
だが、「ロロの前でルルーシュの話をしない」というのは、なんだかロロの記憶の欠落に自分も関与しているようで、嫌ではあった。だが、ルルーシュの名が、記憶が、ロロを不幸に引きずり込むことになるというのなら、それは防がなければいけない。傍にいることの出来ない過去の人間に、未来を破壊されてはならない。それだけは理解できた。
それから少し経ったある日、久しぶりに顔を見せたスザクに、アーニャは訊いた。スザクもまた、ルルーシュがロロにギアスを使うことを、事前に知っていた人間だったからだ。
『どうして、認めたの?』
静かに怒っているかのような声音で訊いたアーニャにスザクは面食らいながらも、
『何をだい? アーニャ』
慎重に尋ね返してきた。
『ルルーシュがロロを裏切って、捨てたこと』
スザクは目を見開き、視線を落としてから答えた。
『…違う。彼は捨てたわけじゃ……』
そこまで言ってから、スザクは言葉を止め、言い直した。
『いや。君の言う通りだね。彼は捨てたんだ。…ロロを』
『…やっぱり』
短くアーニャが言うと、スザクは首を振った。
『…でも、僕は、あの方法が間違っていたとは思えない。確かに最善の方法ではなかったのかもしれないけれど』
『どうして?』
『アーニャ。願いは…二つは叶わない。一つしか、叶わないんだ。』
それ以上は、スザクは何も語らなかった。
未だに、ルルーシュがロロにギアスを使った真意が理解出来ない。
だが、これからの新しい思い出がロロを変えてくれれば、とジェレミアもスザクも心から望んでいる。そんな彼らがルルーシュのしたことを支持している。自分には理解を超えたところで、ルルーシュはロロを想っていたのかもしれない。
いずれにせよ……と、アーニャは思う。
最近、少しづつロロの瞳に光が見られるようになったような気がする。ジェレミアやスザクが言うように、未来が少しでもロロの味方になってくれれば、と。心からそう願う。
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・ 読む順番は、メニューにある通り、選ばれた願い.A ― BIRTHDAY CARD ―(1)(2)(3)(4)(5) → 選ばれた願い.B ― TWO HNADS ― →選ばれた願い.A ― BIRTHDAY CARD ―(6)の順でお願いします。
同じ想いから来る真逆の願いが二つ在る時、願いは、一つしか、叶わない。
大切だからこそ、愛しているからこそ、願われた二つの願い。
どうか、忘れないでほしい。
二つの願いのどちらが選ばれた世界であっても、それを願った想いの深さも、強さも、変わりはしないのだということを。
一つしか叶わない願いを叶える為に、裂かれるような痛みがあったことを。
―― 願いは、一つしか叶わない。
選ばれた願い.A
― BIRTHDAY CARD ― (1)
おいしい水と降り注ぐ太陽の光をたっぷりと浴びたオレンジ色の果実が、たわわに実っていた。
命を漲らせた果実を重そうにぶら下げながら、雲ひとつない晴天の下で木々が整然と立ち並ぶ。その根元で、藁帽子に白いワンピース姿のアーニャが、果実の一つをじぃ、と見上げていた。アーニャを斜め後ろから眺めながら、作業着姿のジェレミアが額から流れる汗を拭う。
ハンターのように細められた赤い瞳がオレンジ色の果実を確かに狙っているのを見て取って、
「それは、明日とるといい。そうすると一番美味しい」
生真面目な新任教師のようにジェレミアは言う。
「明日?」
アーニャがジェレミアの方を振り返りながら残念そうに訊くと、
「明日だ」
それだけは譲れない、と言うようにジェレミアは腕を組んで答えた。
「ふーん」
一日違うだけで、何が変わるのだろうか、と思いながら、アーニャは首から下げたピンク色の可愛らしい薄型デジタルカメラを手にした。狙っていたオレンジの果実がカメラの液晶の枠内に入るよう、調整する。そよ風に揺れる果実が動きを止めた一瞬を狙って、アーニャは撮影ボタンを押した。
まだオレンジ畑の見回りをするらしいジェレミアと別れ、アーニャはゆっくりと歩き始める。
ピンク色のデジタルカメラは、ジェレミアに買ってもらったものだ。記憶がなかった頃は、記録の為にと写真を撮っていたが、最近は純粋に好きで写真を撮っている。パソコンに画像を取り込んで加工して遊ぶこともあるし、ただ保存しておくだけの時もある。
数日前、ここにお忍びで立ち寄っていったスザクにパソコンの中身を見せたら、パソコンに保存した写真の内一枚 ― 黄昏に包まれたオレンジの畑の写真で、端っこの方に小さくさりげなく作業着姿のジェレミアの姿が写っている ― が、スザクはいたく気にいったらしく、『この写真ならお金を払ってもいいよ』とベタ褒めだった。『アーニャ、将来は写真家になることをお勧めするよ』とスザクはにっこりと笑って言っていた。
将来、か……。とアーニャは考える。
ジェレミアも、たまに顔を見せるスザクも、将来のことはゆっくり考えればいい、と優しく言ってくれた。途切れ途切れの記憶という砂上に立っていた頃は、将来への明確な意志などアーニャは持てなかった。だが、記憶が戻ったからといって、いきなり自分が確かなものになるわけではない。目まぐるしく変化した世界の中で、これから自分がどう歩きたいのか、未だ答えはでない。
アーニャは足を止めた。
果実のなる木々の列が終わりを告げる場所に、白い家が建っていた。
ジェレミアお手製のお洒落な丸いテーブルと、椅子が庭に置いてある。
丁度木陰になっているそのテーブルに頬杖を付き、物憂げに椅子に座る少年の横顔を見ながら、アーニャは思った。悪逆皇帝として世界と歴史にその名を刻んだ男の『死』によって、新しいスタートを切った世界。その世界で、立ち位置がわからず、歩むべき方向を定められないのは、自分だけではないのだろう、と。
アーニャはデジタルカメラに手をやって、少年の姿を液晶の枠内に納める。まだ少年はアーニャに気づかない。アーニャは撮影ボタンを押すことなく、カメラを下げた。
近づくアーニャに少年は気が付かないようで、アーニャが隣に座ってもまだぼんやりとしていた。
「ロロ」
アーニャが小さく言うと、ロロと呼ばれた少年はびくりとしてから、アーニャの方へと顔を上げた。
「…いつの間に」
「今来た」
いつも通りの短すぎる会話が終わると、二人の間には風が乗せてくる葉擦れの音だけが流れていく。
アーニャが特に意味もなくロロを眺めているのはいつものことなので、ロロも隣にアーニャがいても気にすることなく再び自分の世界に戻ってしまう。
アーニャは両肘をついて、デジタルカメラを操作し始めた。先ほど撮ったオレンジの果実の画像を拡大する。よく撮れていた。
ちらり、とデジタルカメラからロロに視線を移すと、ロロはやはり何をするわけでもなく空を眺めているようだった。
アーニャはデジタルカメラの電源を切ってから、テーブルに突っ伏した。先ほどからぼーっとしているロロに倣って、自分もただぼんやりとロロを眺める。
ロロがこの家にやって来てから、どれほどの月日が経ったのだろう? 最近、時間の感覚が麻痺してしまっているせいで、よくわからない。自分がここにやってきたのがいつ頃だったか正確に思い出せればいいのだが、そんなことをあまり気にしない生活を送りすぎたせいで、最早記憶の彼方だ。あとでブログの日付を確認してみようか。そうすればわかるかもしれない、と考えながら、アーニャは自分がこの家にやってきた時のことを思い出す。
フレイアが次々と撃ち出される戦場で、アーニャはジェレミアによって記憶を取り戻した。あのおぞましい戦闘が終わった後、アーニャは一人でこの家に住み始めた。ゼロレクイエムが終わるまで、ジェレミアがルルーシュの傍を離れられなかったからだ。ルルーシュのことや、ゼロレクイエムのこと、ジェレミア自身の今までのことに関する手早い説明の後に、『必ず、ここへ戻ってくるから、それまで待っていてくれ』と、アーニャをこの場所へと連れてきたジェレミアは言った。その言葉通り、ジェレミアはゼロレクイエムが終わると、この家に戻ってきた。
アーニャがジェレミアを迎えた時、ジェレミアの隣にいたのがロロだった。
今でも、その時のロロの目をよく覚えている。死んだ魚のような、光を映さない虚ろな目。ロロのことはアッシュフォード学園にいた時、何回か見たことがあったから、アーニャは思わず「ロロ?」と口にしたが、ロロの瞳はアーニャを映さず、その言葉に返事をすることもなかった。
訊きたいことは山ほどあったが、『今は休ませてやってほしい』と深刻そうに言うジェレミアに従って、アーニャは何も訊かなかった。
アーニャがロロと会ったのは数回しかなかったが、ルルーシュを見つめるロロの瞳の輝きはよく覚えている。そのルルーシュを失い、行く所がなかった為にジェレミアが引き取ったというのが、妥当なところだろう。ロロを部屋へと案内するジェレミアを横目に見ながら、アーニャはそんな風に考えていた。
その予想が当たっていたことをアーニャはすぐに知ることになった。
ジェレミアは、自分の知るロロの全てをアーニャに話した。
ロロがかつてはルルーシュを監視し、時が来れば彼を処分する為にブリタニアから派遣された暗殺者だったこと。その為に記憶を改変されたルルーシュの傍で偽の弟を演じていたこと。そのあとの細かいことまではジェレミアも知らないらしいが、とにかく紆余曲折を経て、ルルーシュとロロが互いに想い合うになっていったこと。
だが、ゼロレクイエムを迎えるにあたって、兄の意向に最後までロロは抵抗した。ゼロレクイエム実行の為、ルルーシュはロロにギアス(ギアスの詳細は以前に教えられた。アーニャも直接的にギアスの被害に遭っていたからだ)を使わざるをえない状況に追い込まれて、ついにロロに対してギアスを使ってしまったのだという。どのようなギアスをロロに使ったのか、その詳細はジェレミアも知らないらしい。
確かなことは、ロロの記憶の大部分が欠落し、少なくともルルーシュことは全く覚えていないということだ。しかしギアスのかけ方も多種多様であって、単純にルルーシュから何かを「忘れろ」と命令されたのかもしれないし、違うかもしれない。このあたりのことはジェレミアも何か思うところがあったらしいが、憶測に過ぎないことを口には出来ないと言って話してはくれなかった。
記憶を失うことの不安を知っているアーニャは、話を訊いた時、無意識ではあったがジェレミアを責めるように睨み付けていた。自分の計画を実行するために、人の記憶に土足で踏み込み、切断すること。それがどれだけ、屈辱的なことなのか、アーニャは知っていた。アーニャの目を見たジェレミアは「ルルーシュ様も苦しんでおられたのだ」、とルルーシュの行動を庇った。
ジェレミアの言葉に納得はいかなかったが、ジェレミアを責めても仕方がなかった。ロロの記憶を刺激しないように、なるべくルルーシュの話題を避けて欲しいというジェレミアの言葉にも、アーニャは渋々頷いた。
だが、「ロロの前でルルーシュの話をしない」というのは、なんだかロロの記憶の欠落に自分も関与しているようで、嫌ではあった。だが、ルルーシュの名が、記憶が、ロロを不幸に引きずり込むことになるというのなら、それは防がなければいけない。傍にいることの出来ない過去の人間に、未来を破壊されてはならない。それだけは理解できた。
それから少し経ったある日、久しぶりに顔を見せたスザクに、アーニャは訊いた。スザクもまた、ルルーシュがロロにギアスを使うことを、事前に知っていた人間だったからだ。
『どうして、認めたの?』
静かに怒っているかのような声音で訊いたアーニャにスザクは面食らいながらも、
『何をだい? アーニャ』
慎重に尋ね返してきた。
『ルルーシュがロロを裏切って、捨てたこと』
スザクは目を見開き、視線を落としてから答えた。
『…違う。彼は捨てたわけじゃ……』
そこまで言ってから、スザクは言葉を止め、言い直した。
『いや。君の言う通りだね。彼は捨てたんだ。…ロロを』
『…やっぱり』
短くアーニャが言うと、スザクは首を振った。
『…でも、僕は、あの方法が間違っていたとは思えない。確かに最善の方法ではなかったのかもしれないけれど』
『どうして?』
『アーニャ。願いは…二つは叶わない。一つしか、叶わないんだ。』
それ以上は、スザクは何も語らなかった。
未だに、ルルーシュがロロにギアスを使った真意が理解出来ない。
だが、これからの新しい思い出がロロを変えてくれれば、とジェレミアもスザクも心から望んでいる。そんな彼らがルルーシュのしたことを支持している。自分には理解を超えたところで、ルルーシュはロロを想っていたのかもしれない。
いずれにせよ……と、アーニャは思う。
最近、少しづつロロの瞳に光が見られるようになったような気がする。ジェレミアやスザクが言うように、未来が少しでもロロの味方になってくれれば、と。心からそう願う。
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