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 馬鹿だ。と何度も叫んだ。
 それでも、何をしてでも大切な人に笑っていてほしいと、そう願ってしまう君の願いを否定することは、僕には出来なかったんだ。



選ばれた願い.A
― BIRTHDAY CARD ― (2)





 「君のそういう所が、どれだけ人を傷つけるか、君は理解してないんだな。…どうしようもなく馬鹿だよ、君は」

 スザクは目の前にいる皇帝ルルーシュに吐き捨てるように言った。
 騎士であるスザクに、ブリタニア皇帝へのこんな言葉遣いが許されるわけがなかったが、それを咎める人間は誰もいない。スザクの声が届く範囲にいるのはルルーシュだけだ。
 ロロを連れては行けない、と口にしたルルーシュを、スザクの暗く冷たい視線が容赦なく貫く。
 王者の白い服に身を包んだルルーシュは、紫の瞳を達観したように鷹揚に開きながら、口元を歪める。

 「……わかっているさ。どれだけ俺が馬鹿なのか、愚かなのか。…あの時、お前が俺に、銃口を向けたのもそれが理由だろう?」

 ルルーシュが余裕すら持ってそう言うと、スザクの双眸はより険しくなった。自分の痛みも、何もかも一人で抱え込み、それを誰にも分けて持たせようとしないルルーシュに、スザクはかつて、銃口を向けながら「傲慢だ」と叫んだ。誰にも助けを求めず、身体を潰されそうな程の重荷を背負っている者を、周囲の人間が見ればどれ程傷つくのか理解しようとすらしなかったルルーシュに。そして親友の抱えたものの重さに気づくことの出来なかった自分自身に。

 「わかっているのなら……っ!!!」

 自分の傲慢さがどれ程の痛みを人にもたらすのか、理解すら出来ないというなら、馬鹿以外の何者でもない。
 そして、それをわかっていて尚、それでもその傲慢さに基づいて行動しようとするなら、もっと馬鹿だ。

 「君は本当に馬鹿な男だ……っ!」
 「あまり馬鹿馬鹿言うな。さすがの俺も言い返したくなってくる」
 
 既に何処かの高みに達してしまったかのような微笑がルルーシュに浮かぶ。その笑みに、スザクは毒気を抜かれた。ルルーシュは、もう、心を決めてしまったのだ。

 「あいつには…生きていてほしいんだ。人として」

 ルルーシュの穏やかな表情の何処にも、嘘の陰はなかった。

 「あいつは…誰もいない世界で生きてきた。そしてその後生きたのは、俺しかいない世界だ。だからあいつには、俺以外の世界があるって、知ってほしいんだ。…それに、俺の方に来てはいけないんだ。あいつが…ロロが、幸せになる為には」
 
 心からロロを想っているのだということを思い知らされて、反論の言葉をスザクは一度飲み込んでしまう。だが、スザクは必死に言葉を搾り出した。

 「もう一度言おう。君のそういう所が、どれだけ人を傷つけるか、君は理解してないんだ。…どうしようもなく、君は馬鹿だ!!!」

 本当は何処までもロロと一緒にいたい筈だ。傍にいて欲しいとロロに告げたい筈だ。それなのに、「ロロの幸せの為」と言って、ルルーシュ自身の心を、そして共に在りたいと望むであろうロロの意志をも否定するなんて。
 そんなスザクの考えを読んだのか、ルルーシュは静かに言った。

 「…スザク。俺の願いは、一つしか叶わないんだ。どちらかが叶えば、どちらかは捨てざるをえない。…だから俺は、選んだんだ。この願いを」
 「決めてしまったんだな。……ロロに、ギアスを使うのか」

 ゼロレクイエム。その全容を、一度ルルーシュはロロに話した。その時のロロの恐ろしい反応をスザクは覚えている。
 あの時、ルルーシュがロロのだした条件を呑むフリをしなかったら、逆上したロロが何をしたかわからない。今にも飛び掛らんばかりだったロロを、スザクは全力で止めはしたが、いつロロがギアスを発動するかと気が気ではなかった。
 今のところ、ロロは落ち着いている。だが、ゼロレクイエムの果てに、ルルーシュの行く所へとロロを連れて行かないとなれば、ロロは再び、必ず抵抗するだろう。ルルーシュがどんな策を弄そうとも、ロロの意志を変えることだけは出来ない筈だ。ロロの持つギアスの力を思えば、ロロが本気でルルーシュの意志に反発しようとすれば、ゼロレクイエム実行を不可能にする事態を引き起こしかねない。それならば、ルルーシュの願い ―― 自分と違う場所でロロが幸せになる ―― を叶える為には、ルルーシュがギアスを使うしかない。
 頷くルルーシュに、スザクは問う。

 「…どんなギアスをかけるつもりだ」
 「『言うことを聞け』と言ってから指示を出す。…そして、俺のことを忘れてもらうのさ」
 「……傷つけない為に?」
 「そうだ。…そして幸せになってもらう為に。…俺のことを覚えていたら、無理だろう?」

 確かに、悪逆皇帝の結末の記憶を、そしてルルーシュに同行することを許されなかった記憶を持ったままでは、ロロが幸せになることなど出来ないだろう。
 
 「俺は傍にいてやれないから…。だからスザク。あいつが幸せになれるように…。支えてやってほしい」
 「…本当にそれでいいのか? 君の本当の望みは…彼も一緒に連れて行くことじゃないのか?」
 「…そうだスザク。俺の本当の望みは、あいつを道連れにすることだ。…だが、スザク。訊いてもいいか?」
 「何をだ」
 「そんな望みを抱くことが…兄として、正しいことか?」
 「『正しいか正しくないか』を君が判断基準に使うとは夢にも思わなかったよ」

 皮肉を込めて言いながらも、スザクは続ける。

 「兄としてなら…ロロを道連れにするのは間違ってる。…だが」
 「いいんだ。スザク。…それだけで十分だ」

 続けようとするスザクを、ルルーシュは制止した。

 「だが、君は、彼を…」
 「俺は、あいつの、兄なんだよ」

 スザクが厳粛に言えば、ルルーシュは哀しげに微笑みながら言った。
 
 「弟の幸せを願うのが、兄として、正しいこと、だろう?」



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効能:管理人のMP回復。感想一言頂けるととても喜びます。
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