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 約束、だよ



  もう一度、桜の下で



「…わぁ…」
 ロロは、ライトアップされて艶やかに咲き誇る桜の木々を見て、感嘆の息をもらした。橋から下を見下ろせば、揺らぎのない湖面に欠ける所の無い月が浮かび、桜の色が溢れ返っている。戯れに吹くそよ風に湖面が揺れると、はらりはらり、と花びらが宙を舞ってから、小さな波紋をつくって水面に落ちた。
 ブリタニア本国でも桜が咲き乱れる道があるという。しかし、ロロはこの日まで本物の桜を見たことは無かった。この夜桜が、ロロにとって二度目の花見になる。一度目は、この日の昼。昼の桜を目の当たりした時も、任務が頭の片隅に行ってしまうぐらいに見蕩れたが、その時は夜桜の美しさを想像することは出来なかった。陽光の中に佇む美しさだけで満足していた。
「まるで初めて観たみたいだな…毎年来ているのに」
 後ろにいるルルーシュが何気なくそう言って、ロロは内心びくりとしたが、すぐに、
「だって…本当に、綺麗だから」
 と、返す。
「そうだな…此処の桜は、本当に見事だよ」
 ルルーシュは、ロロの真横に来てから、言った。
「兄さん、いい所見つけたよね」
 この場所はルルーシュが見つけた穴場の一つである。(穴場と言うより、実は立ち入り禁止の場所なのだが)
 ロロは再び、黒い水面、黒い空に描かれた花々の姿を、視界に迎え入れた。
 夜桜はどこか不気味さを内包しながらも、いや、それこそが見る者を魅了する。人の奥底を震わせるような、暗い美。ロロはそっと、ルルーシュを盗み見た。

 優しい、兄さん。
 その奥に隠れた、魔性。

 ずっと、自分は、優しく柔らかな時間が続けばいいと思っていた。
 だが、綻んだ花弁から解き離れた魔性が、自分を捕らえた時、自分はその美に魅せられはしないだろうか。最初は囚われまいとしても、やがては絡めとられ、二度と逃げられなくなるのではないだろうか。
 実際に、自分は今、硬く閉じられた扉が開かないようにと願いながらも、開くその瞬間をどこかで心待ちにしている。
 なんて、酷い恋をしているんだろう、と嘆きながらも、何故か後悔はしていない。本当に重症だ。
「兄さん、こっち」
 ロロはルルーシュの手を引いて言った。
「…ん? もう、いいのか?」
「ちょっと、行きたい所があって」

 橋を渡り、桜の木々に囲まれながら、石の階段を登る。その途中で、ロロは振り返った。
 ルルーシュはロロより一段下にいる。ここなら大丈夫、とロロは微笑を隠さない。ルルーシュはその意味を汲み取って、苦笑した。
「また、来年も、来ようね」
「ああ」
「約束だよ」
 そう言ってから、花びらがそっと触れるような、優しいキスをした。
 四季が一回りした時、目の前にいる愛しい人の咲かせている華が、陽だまりの中の華か、月と共に魔性を内包する華かは、わからない。
どちらであってもいい。
 どちらであっても、どうか、その時、自分の姿が、その傍らにありますように、と願う。
 大好きなこの人の、すぐ傍に。
「来年は、段差を利用しなくてもいいように、なっているかな?」
 ルルーシュは、ロロの頭に手をぽん、と乗せた。
「うわぁ…。兄さん、意地悪だっ…」
 笑いながら、夜桜の下を、二人は歩いていく。
 役目を終えた花びらが、ひらひらと、ロロの横を落ちていった。





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現在のお礼SS:ロロルルロロ一本。
効能:管理人のMP回復。感想一言頂けるととても喜びます。
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