選ばれた願い.A ― BIRTHDAY CARD ― （５）

　幸運と、心を、ありがとう。　　

選ばれた願い.A
―　BIRTHDAY　CARD　―　（５）

　隣に座るアーニャを視界の隅に捕らえながら、ロロは輝く夏の陽光を受け止めるオレンジ畑をぼんやりと眺めていた。兄のことを忘れたフリをし始めてから、大分立つ。
　兄の望みを叶える為に、ずっと、ロロは考えていた。
　「幸せ」とは、何なのだろう。
　兄は確かに信じていたのだ。兄のいない場所にこそ、ロロの幸せがあるのだと。
　だが、ロロにはそれが何なのか、未だに全く見当がつかない。
　だから、ずっとこうして考えている。
　だが、いくら考えたところで何も見えない。兄のいない世界で、どうすれば幸せになれるのか。
　寂しいと口にすることも許されず、無表情を装った下で（ゼロレクイエムの直後は無表情ではいられなかったかもしれないが）、何度も絶望に打ちひしがれ挫けそうになった。一人で眠るベッドで、何回ありもしない兄のぬくもりを求めて手を伸ばしてしまったのだろう。
　それでも、兄が自分に託した最後の願いを絶対に叶えたいという一心で、自分は生きている。
　ロロは何も遮るもののない青空を見上げながら、そっと心の中で口にした。

　兄さんには、わかっていたのかな。
　僕が、兄さんのいない世界で幸せになる方法を。
　
　　　兄さん。
　　　……まだ、僕には、その方法が全然見つからないんだ。
　　　兄さんの望みを、叶えたいのに。
　　　でもね、兄さん。安心して。
　　　絶対に諦めないから。兄さんの望みは、必ず、叶えるから。
　
　　　…兄さんは、僕に、誕生日をくれた。
　　　あの時、兄さんは僕にくれたんだ。僕自身の心＜ハート＞と、幸せ＜四葉のクローバー＞を。
　　　僕は、兄さんがくれたこの心で、自分の意志で、生きていくよ。
　　　…だから、兄さん。
　　　心配、しないでね。



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