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もう一つの、願い。
選ばれた願い.B
― TWO HANDS ―
― TWO HANDS ―
シャルル・ジ・ブリタニアを殺したことで図らずも受け継いだコード。未だその継承は完了しておらず、ルルーシュの身体の何処にもコードは発現していない。
C.C.によれば、コードは受け継いだ人間の人としての死によって、その継承を完了するという。V.V.からコードを奪った後、シャルルが一度は人としての死を迎えたように。
継承が未完了だからこそ、今はまだ、ルルーシュはギアスを使うことが出来る。
ゼロ・レクイエムを迎えるまで、ギアスの力は不可欠だ。だから、ゼロ・レクイエムと共に継承を完了するというのなら、好都合。
…いや、とルルーシュは首を振る。逆だ。自分はそれも頭に入れてゼロ・レクイエムを考えたのだから。
さて、これから出会う人間にはL.L.とでも名乗ってやるか、と悪趣味なことを考えながら、ルルーシュは自嘲気味な笑みを浮かべる。
ゼロレクイエムの準備は全て整った。その瞬間が訪れるまでに、自分のすべきことは、唯一つ。
C.C.のコードをロロに継がせるのだ。
自分がV.V.のコードを継いだことを話した時、共に生きて欲しい、とロロにルルーシュは告げようとした。その時、ルルーシュがその言葉を口にする前に、ロロは「僕も、兄さんと一緒に連れて行って欲しい」と言ってくれた。その瞬間、自分の身体を走りぬけたのは歓喜だった。
喜びに打ち震える身体をロロに悟られないように、冷静に「当たり前だろう?」と答えるのが、あの時は精一杯だった。
だが、コードを継がせる日が近づくにつれて、ルルーシュは自分の願いが間違っているのではないかと、思うようになっていった。
あのV.V.ですら、「自分は兄だから」という理由で、不老不死の運命をシャルルに背負わせずに自分で受け止めたという。比べて自分はどうだろう? 一緒にいたい、と弟が願ってくれたのをいいことに、こうして嬉々として弟にも不老不死の運命を被せようとしている。
ロロは、人として扱われてこなかった。そのロロに、人であることをやめる生を送らせることになるというのに。
それでも、傍にいてほしい、と願ってしまった。
それが正しいことではないということは、わかっている。
それでも、一緒にいてほしい、と願ってしまった。
ロロという半身が傍にない未来など、考えることすら出来ないのだから。
* * *
今まで、ずっと気を張っていたんだろうな、とロロは思う。
ゼロレクイエムが終わった後、ルルーシュはベッドに倒れこむと、ぐっすりと眠り込んでしまった。泥のように眠るとはこういうことなのか、とロロは半ば感心しながら、手をつないで傍にいた。
穏やかなルルーシュの寝顔を見ながら、ロロは思った。
これから、ずっと平穏な日々が続いていくわけではない。
ゼロという仮面を被り続けなければならないスザクを、陰ながらサポートしなければならないし、ルルーシュ自身ももう大手をふっては人前に出られないのだから。
前途洋々とはいかない。問題は、その終わりが見えない程の列をなしている。
だが、それでも。
傍にいられることを、今はただ、幸せに感じていたかった。
「…ん…」
ロロがそんなことを考えていると、ルルーシュが、うっすらと瞳を開けた。
「兄さん」
「………」
声をかけるが、ルルーシュはとろんとした瞳のまま、ロロの額に手を伸ばす。ロロの額にかかる前髪を払って、ルルーシュはロロの額にある赤いコードを静かに見つめてきた。
「…気になる? 前髪、伸ばした方がいいかな」
ロロが尋ねると、ルルーシュはロロの前髪にやっていた手を、ゆっくりと引っ込めた。繋いだ兄の手が震えているのを感じながら、ロロは兄の言葉を待つ。
「ロロ……本当に、すまない。こんなところまで、お前を連れてきてしまって」
これで、何度目だろう。兄に謝られたのは。
C.C.のコードを継いだ時、兄はずっとロロに謝り続けていた。すまない、すまない、すまない、すまない…と繰り返す兄に、ロロは自分が選んだこの道が間違っていたのではないかと思った時もある。
ゼロレクイエムの前、ゼロレクイエムが近づくにつれて、自分を見る兄の目に迷いが現れていたことに、ロロは気づいていた。それでもロロは気づかないフリをして、見つめてくる兄に向かって『兄さん、何?』と無邪気に笑って言ったのだ。『ついてきてはいけない』と、兄が口に出来ないように。
「謝らないで」
ロロはきっぱりと言った。謝らなければいけないのは自分の方なのだから。
「兄さんがこうして苦しむって、僕はわかってた。それでも、兄さんと一緒にいたいって願ったのは僕なんだから」
弟に不老不死の生を歩ませることで、この優しい兄が自責の念に苦しむことは、わかっていた。永久の命を生きる兄にその責を負わせてしまうというのなら、自分は人として生きて、兄ともう会わない方がいいのかもしれないと思ったこともある。それに、C.C.のコードを継がずに兄の傍にいる、という選択肢もあったが、その果てにある兄の悲しみ思えば、それを選ぶことは出来なかった。
不老不死の身体を得た自分が傍にいることで、兄を苦しめるかもしれなくても、兄から離れたくなかった。
「ねぇ兄さん、僕だって、兄さんのことが好きなんだよ? …わかってるよね?」
ルルーシュが願ったという理由だけで、自分がここにいるとは思ってほしくなかった。自分は、他ならない自分の意志で、愛しいルルーシュの傍にいることを選んだのだ。たとえそれがルルーシュを傷つけることになったとしても、一緒にいたいという願いを叶える為に。
「それとも、兄さんは……僕がここにいるのは、嫌?」
「そんなこと…っ…!!」
上半身を一気に起き上がらせて言おうとしたルルーシュの唇に、ロロは人差し指を当てた。
「知ってるよ」
ルルーシュがロロの存在を望んでくれていることは、痛い程にわかっていた。そして自分もルルーシュの存在を望んでいる。二人の願いが叶ったのだから、もう無用な擦れ違いで傷つけ合いたくはない。
「僕はここにいたくて、ここにいる。何があっても、この身体のことで兄さんを責めたりしない。ここにいることを…、僕が自分の意志で選んだんだから。…だから兄さん、もっと、僕のことを信じて」
握った兄の手の甲に口付ける。
今は何も考えずに、ゆっくりと兄に休んでほしい。今までずっと、兄は本当の意味で心からの安寧を得られずに生きてきた。何も気にしないようでいて、自分自身が生み出した悲しみも、憎しみも、痛みも、何もかも彼は覚えている。それを死というリセット無しに兄は積み上げ続けていかなければならない。
だからせめて、こうして何もせずに二人きりでいられる間は、ただ、心穏やかに過ごして欲しかった。
「ロロ……す……」
おそらく、すまない、と言おうとしたのだろうが、ルルーシュはその言葉をぎりぎりのところで呑み込んだ。代わりの言葉を考えるように、きつく目蓋を閉じる。
やがてゆっくりと開かれた瞳に浮かんでいたのは悲しみでも自責でもなく、優しい光だった。
「ロロ…これからも、ずっと、傍にいてくれ」
「…うん」
繋いだ手に力を込めながら、ロロは答える。
今でも覚えている。繋いでいた兄の手を離してしまったあの瞬間を。一度は触れた指先が残酷にも離れ、兄が闇の下へと落ちていった瞬間を。
もう、絶対に、自分は。
「もう、絶対に、この手を離さないよ…兄さん」
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