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今度帰って来る時は、ただ、貴方のことだけを考えさせてください。
旅の途中(17)
出入国管理局を後にし、国境を守る防壁を背にしたロロの目の前に、一本の白い道が走る緑の草原が広がる。目を閉じて、風の音を聴き、風の香りをかぎ、風の感触を確かめる。目を開けば怪しげな雲は空に欠片もなく、今日は天気を敵に回さずに済みそうだとロロは思う。一応天気予報も確認はしたが、変わり行く空気の流れを自分の身体で感じることでわかることも多かった。
ロロの傍らにあるバイクは、どうやらロロのことを気に入ったらしいマオの手によって、ピカピカに磨き上げられていた。荷造りまで手伝ってくれたマオに、またこの場所に戻ってくる時に、何か渡した方がいいのだろうか、と考えてから、場所を移りたいとマオが言っていたことを思い出す。自分が戻ってくる時には違う管理局にいるかもしれない。
ロロは首を横に振った。それよりも前に、考えなければいけないことがある。
ロロは腰に吊っていた銃を手に取った。マオに「化け物」と呼ばれた銃だ。
幾度もこの銃の引き金を引いてきた。自分の手によって発射された銃弾が奪った命の数など、もう数えようと望むことすら愚かな程だ。そして自分はほんの数時間前まで、この銃で、自分の命を終わらせたいと願っていた。
ルルーシュと出会ってわかったのは、これまで自分が戦ってきたのは、旅を続けてきたのは、死に場所を探す為だったということだ。幸せな思い出を頭に焼き付けて死ぬ為に戦い、旅をしてきたのだ。ルルーシュの家でそのことに気づいた時、ロロは自分がこの世界からいなくなる瞬間を想像してその夢想に酔わされた。ルルーシュとの眩しいほどの幸せな思い出を抱いたまま、自分の発射した弾丸に撃ち抜かれて死ぬ瞬間を。
だが当時の自分にとって、辛くても蕩けそうなほどに甘いその夢を現実にすることを、愛しい人は許してはくれなかった。
幸せになれと大好きな人は言った。
その為に、自分が生き残る為に、どれだけ戦わなければいけないか、あの人は理解していただろうか? この手が、この身体が、この魂が、更なる血潮を浴びて汚れなければならないことを、わかっていてくれていただろうか?
「国」という守りと「国民」という名の両方がなければ、すぐにでも死に襲い掛かられるこの世界。旅人が生き残る為には、自分の命を狙う者に慈悲など与えることは出来ない。死神の鎌が自分に振り下ろされる前に、自らが黒い翼を広げた死神となって死を相手の体内に撃ち込まなければならない。躊躇えば、一瞬にして自分の身体は荒野で、見知らぬ国で腐り果てていくことになる。
それでも、たとえ全身に返り血を浴びてでも、ロロに生きていて欲しい、とルルーシュは願ってくれたのだろうか?
わからない。
自分とルルーシュが過ごしたのは、たった一日だけなのだ。
ルルーシュの全てを理解することなんて、到底不可能だ。
でも。いや、だからこそ。
もっと、もっと、ルルーシュと同じ時間を過ごしたい。
もっと、もっと、ルルーシュのことを知りたい。
もっと、もっと、ルルーシュのことを好きになりたい。
その為に。そして、「生きていてくれて、ありがとう」と告げてくれた人の願いを、叶える為に。たとえ死神と蔑まれ、無慈悲と罵られても。自分に死をもたらすものは、全てこの手で薙ぎ倒す。
生きて、ルルーシュの元へと戻りたい。
ルルーシュと共に迎える未来の先に何があるかはわからない。そこにはひょっとしたら、自分の人生で最も悲しい瞬間が待ち受けているかもしれない。
それでも、この心は貪欲にルルーシュとの時間を欲している。
ずっと、死ぬ為に生きてきた。元々捨てようとしていた命なら、自分の全てをルルーシュとの時間の為に燃やし尽くしても構わないと、今は思える。
ロロは銃を両手で持ったまま、手の甲を額に当てて、念ずるように瞳を閉じた。
絶対に、再びこの国へと戻る。そして愛しいあの人の元へと必ず帰る。
その為に、絶対に、生き残る。
生き残る為の旅が終わるまで、絶対に、戦い抜く。
「生き残る…絶対に」
手の内にある冷たく硬い感触を、握り締める。
「戦い抜いてみせる」
決意の声は、か細い身体からは想像し得ないような、力強いものだった。
自分の行く先を見据える薄紫の瞳にある情念は、ルルーシュを見つめる時のそれとは全く別のものだ。そこにあるのはありとあらゆる敵に対して、自分が隙を見せることを決して許可しない真の旅人の双眸であり、最終決戦に向かう戦士の面差しだった。
ロロは静かに銃を腰に下げた。バイクに跨り、一眼ゴーグルを装着する。ズレを修正してから、手袋をつける。防壁を振り返り、ゆっくりと口を開いた。
「必ず、帰ってくるから」
ほんの一時だけ、ロロは愛する人の顔を思い浮かべて破顔する。
―― 今度帰って来る時は、ただ、貴方のことだけを考えさせてください。
再びロロの表情が旅人のありうべきそれに戻った時、ロロのバイクが、新たな旅路へと、走り出した。
もうちょっと続きます。
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