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実は去年の切ない誕生日と、
監視カメラから送られてくる数々の画像には、寒そうに身を縮める学生や、暖を求めて教室の中で陽光を求めて窓側に移動する学生が映っていた。画像の一つでは、枯葉が華麗に、しかし目を丸くする学生達を小馬鹿にするように風に舞っている。枯葉を集めていたらしい学生達の慌てた顔が、いくつかカメラの前を通っていった。
ちなみにルルーシュは、図書室で大人しく本を読んでいるようだ。一体何を読んでいるのだろう? と、本のタイトルまでは確認できない画像を横目でちらりと見ながらも、ロロはソファに座るヴィレッタの返答を待っていた。自分とヴィレッタ以外には他の機情の人間はいない。下手に探られるのも嫌だったから、他の人間がいない時を狙えて良かったとロロは内心安堵していた。
「ルルーシュが喜ぶ誕生日プレゼント……か?」
「そうです。対象は妹と大変仲が良かったようですから。毎年工夫されたプレゼントを受け取っていた筈です。たかが誕生日プレゼント一つで何か疑われたくはありませんから、それ相応のものを渡さないと。……けれど、誕生日を祝うという習慣は僕にはなかったので、対象に何を渡せばいいのか見当もつきません。ですから何かアドバイスを頂ければと思って」
怪訝な顔をしたヴィレッタに対して、ロロはあくまでビジネスライクに言った。ルルーシュに入れ込んでいる…と思われて、任務から外されるのはなんとしてでも避けたい。
(おかしいな。最初はこの任務、嫌で嫌で仕方なかったのに…)
一体いつからなのだろう? ルルーシュとの時間を終わらせたくないと思い始めたのは。それは分からないけれど、今自分がこうして、ルルーシュの誕生日を心から祝いたいと望むようになったのは、ロロが人生で初めて誕生日を祝われた時だった。
「誕生日おめでとう」というルルーシュの言葉と一緒にプレゼントを渡された瞬間、一体何が起こっているのか、全く理解出来なかった。真っ白になった頭の中で、そうか、十月二十五日はナナリーの誕生日だから……とぎこちなく把握しながらも、慈しむようにロロを見つめてくるルルーシュの瞳に映っているのが、他ならない自分であることが、たまらなく嬉しかった。
何処かから、
本当ハ、ナナリーニ渡シタカッタンダヨネ。
という自分の声が聴こえてくる中、「ありがとう。……大切にするよ」と、声が震えていると気づかれないように告げるのがその時は精一杯だった。たまらなく嬉しくて、たまらなく悲しくてけれど、やはり嬉しい…という奇妙な感情に心は震わされていた。
「誕生日おめでとう」なんて言葉が、あくまで知識として頭の片隅で埃を被っている代物でしかなかった自分に、心から誕生を祝う言葉と視線をルルーシュがくれたあの瞬間、自分も、ルルーシュの誕生日を祝いたいと、心の底から望んだのだ。「ロロ」という一人の人間として、「誕生日おめでとう」と、兄に告げたい、と。
ルルーシュから白いハートのロケットを渡されたあの瞬間にこそ、本当に自分という人間は生まれたのかもしれない。だから、自分に人としての命を与えてくれた人の生まれた日を、祝福したかった。
しかしそう思い始めた瞬間から、兄が微笑むたびに、兄に優しく触れられるたびに、自分がナナリーの代替物でしかないのだと強く意識するようになった。ロロ、と形作る唇で、ルルーシュが幾度もナナリー、と呼んできたのだというコトを。
不安になりながらロケットを目にすれば、そこにはどう見ても女の子向きの愛らしい白いハートがあった。それが何を意味するのか、わからない程愚かではない。
それでも、これは、自分が貰ったのだ。自分のものなのだ。それだけは、誰にも譲りたくなかった。
だから自分も、ナナリーの代替物としてではなくて、ロロ個人として、兄の誕生日を祝いたかった。決して言葉にはしてはいけないことだけれど、人生で初めて誕生日を貰い、祝ってもらえたことがどれだけ嬉しかったか、その想いを兄に受け取って欲しかった。ロロが自分自身で考え、自分自身でこれだと決めたプレゼントと共に。
しかし、「誕生日」なんて言葉がただの中身のない知識のひとかけらだったロロにとって、「兄に何をプレゼントすればいいのか?」という問は難問だった。考えれば考える程、何をプレゼントすればいいのかわからなくなっていった。
きっと何を渡しても、ルルーシュは喜んでくれるだろう。だがそれだけでは、駄目だ。ロロが自分で考え、自分で決めたもので喜んでもらえなければ。そうでなければ、ルルーシュが自分にくれたものの大きさに、自分は報いられない。
「ロロ」として考えて行動して、その結果をルルーシュに渡せないならば、いつまでも自分は、ナナリーの代替物以上のものにはなれなくて、手にしたロケットも自分のモノとは思えなくなってしまう。
そんな考え方が非論理的で、ただの意地でしかないことは頭の何処かでわかっていた。けれど、たとえ、ナナリーが本物で、自分が偽者だという関係を打ち破ることは出来なくても、せめて、このロケットだけは、自分のものだと信じられるようになりたかった。
ルルーシュに、喜んでほしい。
出来ることなら、自分で考えた、プレゼントで。
そうしたら、自分は、少しは自分を信じることが出来る。
ルルーシュに喜んでほしいと願う自分自身を。
だが、ルルーシュに何を贈ればいいのかどうやっても思いつかなくて、ただただ焦りだけが増す中、無情にも音をたててルルーシュの誕生日は近づいてきた。自分だけで考えていたら、ルルーシュの誕生日に間に合わなくなるだろうと判断して、ロロはこうしてヴィレッタに相談しにきたのだ。表面上は、あくまでも「対象」が平穏に誕生日を迎え、ロロが任務を続けられるように、という理由で。
「今のあいつなら……お前が何を贈っても喜ぶと思うが」
ヴィレッタの返答に、ロロは内心落胆した。確かに、最悪、何のプレゼントも準備出来なかったとしても、ロロが心を込めて「誕生日おめでとう」と告げれば、ルルーシュは喜んでくれるだろう。優しいあの兄は、暖かな声音で「ありがとう」、と言葉を返してくれる筈だ。
それでは、駄目なのだ。それでは…。
「…まぁ。一般的に言って、手作りのものが喜ばれる傾向にはあるのかもしれないな」
黙りこんだロロの表情から不満を見て取ったのか、ヴィレッタが続けた。
「手作り…ですか」
手作り。手作りと言っても幅が広すぎる。
そう不安を口にしそうになりながらも、全く収穫がなかったわけではない、と自分を説得しながら、ロロは納得したという表情をヴィレッタに向けた。
* * *
一人で自室に篭りながら、ひたすらに考える。
手作り、というヒントだけを頼りに、どうしたらルルーシュが喜んでくれるのか、考える。
ひたすらに、考える………。
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