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実は去年の切ない誕生日と、(4)
ルルーシュの誕生日当日、夜。
ミレイ・アッシュフォードが開いたルルーシュの誕生日パーティの内容は……長くなるのでここでは省略しておこう。
クラブハウスのロビーに並べられたテーブルを彩っていた料理の数々は、数時間前には見事な盛り付けがされていたが、もう殆ど姿を消している。ミレイが次々に打ち出してきた企画はもう終わっていて、後は各人がルルーシュにプレゼントを渡して終了の筈、だ(その後また騒がないとは言い切れない)。
パーティの始めから、ルルーシュはずっと楽しそうで、ロロはミレイの敏腕に内心感謝していた。それと同時に、少し寂しくもある。もし自分がパーティーの主催などやっていたら、こうはいかなかっただろう。
(僕には、……あんな風に、兄さんを楽しませるパーティーなんて、出来ないから)
お祝いモード一色の中で、自分の経歴を人生で初めて疎ましいとロロは感じた。人を本当の意味で楽しませるとか、空気を読みながら場を盛り上げていくとか、そんなものと無縁だった、自分の過去を。
もし。
(もし、もっと違う過去を生きていたら、僕は……)
「俺が後処理しなくていいパーティーならいつでも大歓迎ですよ。会長」
「今日だけよ~ルルちゃん。明日から今日の恩返し、しっかりしてもらいますからね」
アッシュフォード学園生徒会副会長と会長が互いににやりと笑う。ルルーシュが主役だということで、今回ルルーシュは本当に何もしていない。そこだけはミレイも徹底していた。
「さて、それでは! お待ちかねのプレゼント贈呈の時間よ! 誰からルルーシュに渡す?」
「プレゼント贈呈」というミレイの言葉で、ロロの中の暗い考えが吹き飛ぶ。
プレゼント。そうだ、プレゼント。パーティーをミレイに任せた方がいいのは前々からわかっていた筈。その分、プレゼントに専念出来ると納得したではないか。ここで卑屈になる必要はない。
ルルーシュは、きっと、喜んでくれる。
「俺のプレゼントを受け取れ~!!」
ついにプレゼントを渡す瞬間が……! と、ドキドキしているロロの前で、リヴァルがルルーシュの前に躍り出た。
俺のプレゼントを受け取れ~! と言う割には、リヴァルは手に何も持っていない。一体何処にプレゼントがあるというのだろう? とロロが小首を傾げていると、
「俺のプレゼントは皆とは一味違うんだぜ?」
リヴァルは自信たっぷりにウインクしながら、ルルーシュに近づく。一体何を渡すと言うのだろう? とロロがリヴァルの一挙一動に注目していると、
「ルルーシュ、耳貸してくれ」
なんだ? と、リヴァルの言う通り耳を貸すルルーシュに、何やらリヴァルが小声で言った。口の動きはリヴァルの手に遮られて読むことは出来ない。何事だろうかと周りが静まり返ると、
「何っ!? それは本当か?」
リヴァルが話し終えると、ルルーシュは目を輝かせながらリヴァルを見返す。リヴァルはルルーシュ以上に盛り上がった。
「おおお~~!!! 反応してくれると思ったぞ友よ!! また後で連絡するからよろしくな!」
「ああ、わかった!」
ルルーシュとリヴァルはお互いノリノリで拳を握り締め、ポーズを決めてから、親愛の証と言わんばかりに互いの肩をポンポンと叩いた。
(………アレ?)
「リヴァル~! またルルに何か良くないことを吹き込んだんでしょ!? 何を言ったの!?」
「男同士の秘密は語れないなぁ~」
追求するシャーリーとおどけるリヴァルの声が、とても遠く聞こえる。
嬉しそうに笑うルルーシュを見た瞬間、自分の背を冷たいものが這って行った。
リヴァルは一体何を言っただろう。どうして兄さんはあんなに嬉しそうなんだろう。
たった、数秒間、何か言われただけなのに。
ロロは自分が手にするプレゼントを見た。
ラッピングが終わった時には、とても綺麗に出来た思っていたリボンが、大したことのないものに見えてくる。選びに選び抜いた筈の上品な薄紫色も、センスのない色に思えてきた。
ちらりと自分の横にいるシャーリー窺うと、彼女は両手でエメラルドグリーンの包装紙に包まれたプレゼントを重そうに抱えていた。一体何が入っているのだろう、とその大きさに圧倒されながら、自分のプレゼントを見る。
片手で普通に持ててしまいそうな程の、円柱形の箱。
いや、大きさなんて関係ない、と増して行く不安を振り払うように、自分に言い聞かせる。
ロロが立ち竦んでいると、今度はミレイがルルーシュにプレゼントを差し出した。その手には、赤いリボンが巻かれた長方形の小さな白いシンプルな箱がある。
「はーい。ルルちゃん。ここでは開けないでね~」
「ここで開けられないようなものなんですか」
「そうよ~。でも喜んでくれるって信じてるわ。去年だってそうだってでしょ?」
去年。という言葉にロロがぴくりと反応する。
ルルーシュはミレイの言葉に苦笑しながらも、ありがとうございます、と穏やかな中にも喜びを滲ませるような声音で言った。その表情を見た時、ロロからまた一つ、何かが剥がれ落ちていった。
(そうか、この人達は、僕よりずっと兄さんと一緒にいたんだ……)
ロロは生徒会のメンバーを見渡した。このメンバーの中でなら、自分が一番ルルーシュを理解していると思っていた。
だが、リヴァルやミレイを見ていると、二人とも、どうすればルルーシュが喜ぶのかよくわかっている気がする。自分などより、遙かに。
当たり前のことなのに、ロロはちっとも気づいていなかったのだ。どんなに取り繕っても、過去で共に過ごした時間の長さを変えることは出来ないのだと。
手にした円柱形の箱が縮んだような錯覚に陥っていると、
「ロロ」
シャーリーが軽くロロの肩を叩いた。ロロがシャーリーの方に目をやると、
(ねぇねぇ、ロロは何をあげるの???)
シャーリーはロロに、声を潜めて耳打ちした。
何故すぐにわかるのにわざわざ今訊くのだろう? と思いながらも、ロロも声を落として答える。
(秘密です)
(ええ~~??)
(シャーリーさんは?)
(うーん。ロロが秘密なら私も秘密!)
ロロは、シャーリーの手にしたエメラルドグリーンの包装紙に包まれたプレゼントに、視線を落とした。両手で抱える程の大きさのそれには、黄色のリボンが結ばれている。その結び方はとても丁寧だった。
「そのリボン、シャーリーさんが自分で?」
「うん! 全部自分でやりたかったから! 結構時間、かかったんだ」
シャーリーが抱きしめるようにして持っているプレゼント。その大きさ。その包装。今すぐにでもルルーシュの元へと飛んで行きたいと、血色のいい肌を更に赤らめているその様子。
一体、彼女はいつからプレゼントの準備を始めていたのだろう?
自分がグズグズしていた間に、彼女が着々と準備を進めていたとしたら。
シャーリーの渡すプレゼントの中身を見たくない、というロロの思いを知ってか知らずか、
「ルル! 誕生日おめでとう!」
と、シャーリーはルルーシュに駆け寄って誕生日プレゼントを渡した。開けて開けて! とはしゃぎながら、シャーリーはルルーシュを急かす。
見 た く な い。
小刻みに震える手と共に心が悲鳴をあげるのに、ルルーシュの手元から視線を外すことが出来ず、ロロはシャーリーのプレゼントの中身を目の当たりにした。
まず、ルルーシュが包装紙を開けると、大きな白い箱が三つ、中から出てきた。更にその箱の内一つを開けると、中には焼き菓子の詰め合わせが入っていた。
凄いじゃないか、全部一人で? と訊くルルーシュに、そうだよ! とシャーリーが答える。こんなに沢山大変だったろう、ありがとう、とルルーシュはシャーリーに笑いかけた。
「有難く食えよ~~ルルーシュ!! 沢山の御遺体の上に出来たんだぜ?」
「リ~ヴァ~~ルゥゥゥゥゥ!!!!」
悪い悪い!! と言いながら逃げ回るリヴァルと、顔を真っ赤にしながら追いかけるシャーリーの声がまたしても遥か向こうに遠ざかる。
ロロの視線は、色とりどりの焼き菓子に縫い止められる。
ロロの目から見ても、本当に美味しそうな焼き菓子だ。
本当に、美味しそうな……。
あまりシャーリーは料理が得意でないらしいから、余程練習したのだろう。「沢山の御遺体」というのは本当の話に違いない。
ロロは自分が抱えていたプレゼントを見下ろした。その中に入っているプレゼントの姿を思い浮かべると、ロロの睫が更に下へと向く。
どうしてこんなものを作ろうと思ったんだろう。
シャーリーの作ってきた焼き菓子は数も多ければ種類も多い。
それに比べて自分の作ったものは……。
作っていた頃は、きっとルルーシュに喜んでもらえると信じていた。上手く出来たと自信も持っていた。
だが、自分が作ったプレゼントは、そんなに完成度が高かっただろうか?
完成した嬉しさのあまり、美味しいと感じただけではなかっただろうか?
色とりどりのお菓子の数々を見てしまった後では、自分のプレゼントはどうしても見劣りするような気がしてならない。
いや、シャーリーのプレゼントだけではなく、誰のプレゼントの後でも、自分のプレゼントが良く見えることなんてないだろう。
どうして、こんなもの、作ろうと思ったのだろう?
再び自分に問う。
どうして、こんなもの。
いくら残されていた時間が短かったからと言って、もっとマシなものを作ることが出来た筈なのに。
シャーリーにお礼を言っているルルーシュの姿を見ながら、ふと、ナナリーは毎年、何をあげていたのだろうと考える。きっと、ルルーシュが大喜びするような何かを渡していたに違いない。
それが何かを想像することすら出来ない自分は、所詮、ルルーシュと過ごして一年にも満たないような偽モノの家族に過ぎないのだ。まともな誕生日プレゼント一つ、考えることの出来ない、偽モノの。
自分が作ったものは。自分が作ったものは。自分が作ったものは。
自分が作ったものは、ただの……。
「ロロ、どうした? 具合でも悪いのか?」
ルルーシュの声に、ロロは息を呑んだ。いつの間にか傍へと来ていたルルーシュが、心配そうにロロを見詰めていたのだ。ロロが大好きな、透き通った紫の瞳で。
「えっと…あの…」
ロロは慌てて、プレゼントをルルーシュから見えないように背後に隠す。
コンナ物ジャ、キット兄サンハ喜ンデナンテクレナイ。
プレゼントの包装が完成した瞬間の感情が、乾いた風に儚くもさらわれて行く。ルルーシュの優しく美しい紫の瞳に映されるべきなのは、愛情を享受してもよい存在であるのは、本来自分ではない。
結局、このプレゼントも、自分と同じなのだ。ルルーシュの瞳に映し出される資格が、本当は無いのだという点で。
コンナ物、兄サンニ見ラレタクナイ。
コンナ、物……。
ロロ? と、黙り込んだロロを気遣うように声をかけながら、ルルーシュはロロの肩に手を伸ばすが、ロロはびくりとしてから思わず身を引いた。
コンナ物、兄サンニ見ラレタクナイ!!
「ゴメン。ちょっと調子悪いみたいで……。先に休んでるね。 ……少し横になってれば治るから、兄さんは楽しんで。せっかくのパーティーなんだからっ!」
まくしたてるようにロロは早口で言うと、一気に階段を駆け上がった。
ロロっ!? と叫ぶルルーシュの言葉を振り切って、走る。
どうして。
どうして。
どうして。
どうして僕は、大切な人にまともなプレゼント一つ渡せない人生を歩んでこなければいけなかったのだろう。
まともなプレゼント、一つ。
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