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* ここからパラレル色、強いです。
あの時の、とても優しかった兄さんにはもう永遠に会えない。
そして、あの時の僕も、もう何処にもいない。
あの時よりも、辛かったり、悲しかったり、怒ったりすることが増えたけれど、
それでも僕は、今の兄さんが、一番好きです。
実は去年の切ない誕生日と、
今年のとても愛しいキセキ。(6)
そのルルーシュの部屋には、窓がなかった。地上より遥か下にあるのだから当たり前なのだが、なんだか息苦しいな、と、ルルーシュはよく弟に愚痴を零していた。
ゼロであった時は、作戦行動中に窓の無い部屋にずっといる、というのはよくあることでなんとも思わなかったが、ただのルルーシュである今、全く空を見ることが出来ない閉鎖空間で生活するというのは、なんだか監禁でもされているような気分になる。
否。実際、閉じ込められているも同然だな、とルルーシュは弟が困った顔をすることもわかっていながらも、よく首を振った。
世界に名を馳せた独裁者は、死した後も必ず数多の生存説が残るものだ。歴史を紐解いて見れば、トンデモ話でしかないようなオカルト的な話から、信憑性が高いと誰でも思ってしまいそうなもので、独裁者の生存説がよりどりみどりで揃っている。
あれだけ派手に皆の前で“刺し殺されて”見せたというのに、悪逆皇帝ルルーシュ生存説は未だに根強く残っていて、中には必ず探し出して見せると息巻いている者もいる。
実際にこうして生きているわけだから、生存説が全くもって正しいだけに厄介だ。見つかれば何が起こるか、ルルーシュも完全には把握できない。
時が過ぎれば、例え姿を見られても「そっくりさん」で済む時代も来るだろうが、今はまだそうもいかない。
だからこうしてルルーシュの生活空間は地下深く潜っているわけだが、いくら誰にも見つかってはいけないとは言え、ずっと地下に潜って自分の目で空を見ることが出来ないというのは、どうにも息苦しい。(いつでも出られると思えばどれほど長くいても平気なのに、外に出られないと思うと息苦しくなるのだから、自分の感覚なんて本当にいい加減なものだ)
しかし、ルルーシュの安全の為に、ルルーシュの生活する遥か頭上で、オレンジ畑を耕しながらも警戒を怠らないジェレミアやアーニャに、空が見えないから地下は嫌だというような駄々っ子のような真似をルルーシュがするわけがない。
ロロには、「閉じ込められてるみたいだ」なんて愚痴ることはあるけれど、本気で「外に出たい」なんて言った事はない。ルルーシュが誰かに見つかることを、ロロは死ぬほど心配しているのだから。
* * *
十二月四日、夜。
「まだ、寝ないの?」
数日ぶりにルルーシュの部屋に「お泊り」に来ているロロが、自分の部屋から持ってきた枕に頭を乗せて言った。ルルーシュは頷きながら、ベッドの上に座ったまま、リモコンを手に取る。
「『悪逆皇帝』の番組を見ないと」
「悪逆皇帝」という言葉をロロが嫌っているのはわかっているのが、つい意地悪くそれを強調して言う。直さなければとは思っているのだが、まだこの悪癖がどうしても抜けない。
「意地悪」
案の定、ロロは不機嫌に言って、毛布を頭から被ってしまった。
ルルーシュはベッドの正面の壁にかかっている薄型テレビに向かってリモコンを操作し、電源をONにする。丁度、『ニュース特集 ~悪逆皇帝ルルーシュ失墜の軌跡~』という番組が始まるところで、特集の名前がニュースキャスターによって読み上げられると、ロロが毛布の下で不愉快なのを主張するかのように寝返りをうったのが、視界の隅で見えた。
クラブハウスにいた頃は、ロロもよくルルーシュと一緒にニュース番組を見ていたが、最近は絶対に見ない。“悪逆皇帝刺殺”のシーンがよく流れるからだ。
ロロは、ルルーシュが刺されるシーンなど見たくないという。そしてテレビの中でルルーシュのことを悪く言われるのが耐えられない、と。
お前が本当のことを知っていてくれれば、俺はそれでいい、と何度もルルーシュはロロには言ってきたが、ロロはそういう問題じゃないとルルーシュの言葉をばっさりと切り捨て、ニュースは一切見なくなってしまった。
普段であれば、ルルーシュがこういう番組を見始めたら、ルルーシュの部屋とリビングを挟む形になっている自分の部屋に、ロロはすぐに戻ってしまう。だが、そうしたいのを、おそらく久しぶりの“お泊り”だから今は我慢しているのだろう。ひょっとしたら今、毛布の下で耳を塞いでいるかもしれない。
特番をルルーシュは最初、真面目な顔で見ていたが、やがて退屈そうに首を傾け始めたあたりで、ルルーシュはチャンネルを変えてしまった。
チャンネルを変えた先ではインスタントカレーのCMが流れていた。
「つまらなかった」
間延びしたBGMを聞き流して、ルルーシュが欠伸をしながら言えば、
「そうだろうね」
毛布の下からは完全に機嫌を損ねた声音の返事が返ってきた。
CMが終わると、今度もなんと『悪逆皇帝ルルーシュ』に関する特番だった。番組の内容は、ルルーシュ刺殺の場面を垂れ流すようにメディアが報道したことへの是非を問うものだった。いくら悪逆皇帝とはいえ、人間が腹を刺され大量に血を流しながら死ぬ瞬間を、報道機関が時間帯を問わずに流し続けてきたことへの疑問の投げかけである。
「……ロロが作ったんじゃないよな?」
冗談のつもりで言ったのだが、毛布の下から一切返事は返ってこなかった。寝てしまったのか、そうでない理由で返事が返ってこないのかと考えながら、おそらくは後者だろうな、と予想して、若干肝が冷えた。
ルルーシュはしばらくその番組を見てから、リモコンで画面を消した。
「……ああいうことが議論出来る余裕が出てきたんだな」
言っている本人ですら、本心か皮肉かわからないような口調で言えば、
「そうだね」
感情の籠もっていない、素っ気無い返事が返ってきた。
「…悪かったよ」
ルルーシュは毛布越しにロロの肩の辺りに手を置いた。
「知らない」
冷たい「知らない」という声を聞きながら、ルルーシュは電気を消してから、毛布に潜りこむ。
「ロロ」
「知らないってば」
ルルーシュは背を向けるロロと、背中を合わせになる形で横になる。それから手探りで、毛布の中で弟の右手を探すと、握り締めた。
「本当に悪かった。そんなに怒ると思わなかったんだよ。…謝る」
ルルーシュが言えば、しばらく返事はなかった。
繋いだ手が振りほどかれることはないけれど、まだ怒っているのだろうかと思い始めた頃、
「……うん」
間をおいてからロロはそう答え、ルルーシュの手を握り返した。
「…もう、さっきみたいなことはしない」
「出来ない約束はしなくていいよ?」
言っている内容は厳しいが、ロロの口調は柔らかで、その口からはクスクスという笑い声すら聞こえた。
ルルーシュはロロに聞こえないように安堵の息を吐いた。
今、二人の間には、ルルーシュの記憶が変えられていた頃とも、ルルーシュがロロを利用しようとしていた時とも違う距離感がある。
ルルーシュの記憶が改変されていた頃は、ロロが仮面をつけていた。
ルルーシュが記憶を取り戻してからは、ルルーシュが仮面をつけていた。
一度ロロの命が喪われかけた時、二人はやっと、お互いに人として、仮面をつけずに向き合うことが出来たのだ。監視者としてでもなく、搾取する者としてでもなく、道具としててもなく。
ロロはこんなにはっきりとモノを言っただろうか?
ロロはこういう言動で怒っていただろうか?
ロロはこんな風に笑っていただろうか?
仮面を外した毎日の中で、そんな風に思うこともあるけれど、きっとそれはお互い様なのだろう。
ルルーシュがロロとしっかり向き合おうとすればするほどに、ロロは違う顔を見せる。毎日毎日、そうやって、色々なロロの表情と出会うたびに、自分もまた、これまでに知らなかったような感情が呼び覚まされて、戸惑う時もあるのだ。
ロロはこんな人間だったろうか? という疑問をルルーシュが口にするより先に、
『兄さん、そんな人だと思わなかった!!』
とロロに言われて心に重傷を負ったことがある。
――なぁロロ、お前は、記憶を改変されていた頃の俺が良かったのか?
そんな問いが喉元まで何度もせり上がって来たけれど、ルルーシュはその度に、言葉を飲み込んだ。
前の方が良かった、と言われたところで、もうあの頃の自分には戻れないのだ。
今の自分にとってロロは、庇護するだけの存在ではなく、対等の存在になっている。前と同じようにロロを見る瞳を、もう自分は持っていない。だからと言って、今更ロロを手放すつもりは毛頭ない。
『兄さんは最近、本当に意地悪だよ』
と、ロロはよく言う。
ただその言葉は、怒りと共に発せられることもあるが、笑顔と共に口にされることも決して少なくない。「意地悪」になった兄を、ロロが決して否定的にだけ捉えているわけではないのだ、とそんな時にルルーシュは胸を撫で下ろす。
毎日毎日ロロと顔を合わせていれば、衝突することもあるが、それでも今という時間は光り輝いている。ぶつかっている時は辛いのだけれど、後で振り返ればその痛みすら愛しいと思えるのだから。
「おやすみ」
「…おやすみ」
試行錯誤の日々の中で、こうして眠るたびに、思うのだ。
明日、ロロはどんな顔を見せてくれるのだろう、と。
* * *
ルルーシュが穏やかな寝息を立て始めた頃、隣で寝たフリを続けていたロロがぱちりと大きな目を開けた。
規則正しいルルーシュの呼吸の音だとか、傍にあるルルーシュの体温に誘惑されながらも、ロロはルルーシュが寝ていることを確認してから、
(よしっ、行動開始)
パジャマの胸ポケットに入れておいた小さなペンライトを取り出して点けてから、ルルーシュを起こさないようにゆっくりと毛布の中から出ようとする。しかし、ずっと握られたままだったルルーシュの手が、どうやってもロロの手から離れない。
嘘、と焦りながらロロは握られていない方の手で、ルルーシュの指を一本一本なんとかしようとするが、あまり力をこめるとルルーシュが起きてしまいそうで、なかなかルルーシュの手から自分の手を解放することが出来なかった。
一瞬、ギアスという言葉が頭を過ぎっていったが、ギアスの連発で死に掛けた後、命の危険でもない限りギアスは絶対に使わないと、ルルーシュと(半ば強制的に)約束させられたのを思い出して、ロロは首を横に振った。
(兄さん、こんな時まで意地悪なんだから!!)
別にルルーシュがロロの邪魔しようと思っているわけではないとはわかっているが、それでも思わず毒づきそうになってしまうぐらい、ルルーシュの細くて長い指が、巧みにロロの指に絡み付いている。
本気でギアスを使おうかと思った時に、ようやくロロの指はルルーシュの指から逃げることに成功した。
なんとかベッドから抜け出して、ロロは眠るルルーシュの方を振り返る。
(まさかこんなところで手間取るなんて)
これからが大変なのに、と思いながら、ロロは音を立てないようにして、ルルーシュの部屋から抜け出した。
作戦、開始。
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あの時の、とても優しかった兄さんにはもう永遠に会えない。
そして、あの時の僕も、もう何処にもいない。
あの時よりも、辛かったり、悲しかったり、怒ったりすることが増えたけれど、
それでも僕は、今の兄さんが、一番好きです。
実は去年の切ない誕生日と、
今年のとても愛しいキセキ。(6)
そのルルーシュの部屋には、窓がなかった。地上より遥か下にあるのだから当たり前なのだが、なんだか息苦しいな、と、ルルーシュはよく弟に愚痴を零していた。
ゼロであった時は、作戦行動中に窓の無い部屋にずっといる、というのはよくあることでなんとも思わなかったが、ただのルルーシュである今、全く空を見ることが出来ない閉鎖空間で生活するというのは、なんだか監禁でもされているような気分になる。
否。実際、閉じ込められているも同然だな、とルルーシュは弟が困った顔をすることもわかっていながらも、よく首を振った。
世界に名を馳せた独裁者は、死した後も必ず数多の生存説が残るものだ。歴史を紐解いて見れば、トンデモ話でしかないようなオカルト的な話から、信憑性が高いと誰でも思ってしまいそうなもので、独裁者の生存説がよりどりみどりで揃っている。
あれだけ派手に皆の前で“刺し殺されて”見せたというのに、悪逆皇帝ルルーシュ生存説は未だに根強く残っていて、中には必ず探し出して見せると息巻いている者もいる。
実際にこうして生きているわけだから、生存説が全くもって正しいだけに厄介だ。見つかれば何が起こるか、ルルーシュも完全には把握できない。
時が過ぎれば、例え姿を見られても「そっくりさん」で済む時代も来るだろうが、今はまだそうもいかない。
だからこうしてルルーシュの生活空間は地下深く潜っているわけだが、いくら誰にも見つかってはいけないとは言え、ずっと地下に潜って自分の目で空を見ることが出来ないというのは、どうにも息苦しい。(いつでも出られると思えばどれほど長くいても平気なのに、外に出られないと思うと息苦しくなるのだから、自分の感覚なんて本当にいい加減なものだ)
しかし、ルルーシュの安全の為に、ルルーシュの生活する遥か頭上で、オレンジ畑を耕しながらも警戒を怠らないジェレミアやアーニャに、空が見えないから地下は嫌だというような駄々っ子のような真似をルルーシュがするわけがない。
ロロには、「閉じ込められてるみたいだ」なんて愚痴ることはあるけれど、本気で「外に出たい」なんて言った事はない。ルルーシュが誰かに見つかることを、ロロは死ぬほど心配しているのだから。
* * *
十二月四日、夜。
「まだ、寝ないの?」
数日ぶりにルルーシュの部屋に「お泊り」に来ているロロが、自分の部屋から持ってきた枕に頭を乗せて言った。ルルーシュは頷きながら、ベッドの上に座ったまま、リモコンを手に取る。
「『悪逆皇帝』の番組を見ないと」
「悪逆皇帝」という言葉をロロが嫌っているのはわかっているのが、つい意地悪くそれを強調して言う。直さなければとは思っているのだが、まだこの悪癖がどうしても抜けない。
「意地悪」
案の定、ロロは不機嫌に言って、毛布を頭から被ってしまった。
ルルーシュはベッドの正面の壁にかかっている薄型テレビに向かってリモコンを操作し、電源をONにする。丁度、『ニュース特集 ~悪逆皇帝ルルーシュ失墜の軌跡~』という番組が始まるところで、特集の名前がニュースキャスターによって読み上げられると、ロロが毛布の下で不愉快なのを主張するかのように寝返りをうったのが、視界の隅で見えた。
クラブハウスにいた頃は、ロロもよくルルーシュと一緒にニュース番組を見ていたが、最近は絶対に見ない。“悪逆皇帝刺殺”のシーンがよく流れるからだ。
ロロは、ルルーシュが刺されるシーンなど見たくないという。そしてテレビの中でルルーシュのことを悪く言われるのが耐えられない、と。
お前が本当のことを知っていてくれれば、俺はそれでいい、と何度もルルーシュはロロには言ってきたが、ロロはそういう問題じゃないとルルーシュの言葉をばっさりと切り捨て、ニュースは一切見なくなってしまった。
普段であれば、ルルーシュがこういう番組を見始めたら、ルルーシュの部屋とリビングを挟む形になっている自分の部屋に、ロロはすぐに戻ってしまう。だが、そうしたいのを、おそらく久しぶりの“お泊り”だから今は我慢しているのだろう。ひょっとしたら今、毛布の下で耳を塞いでいるかもしれない。
特番をルルーシュは最初、真面目な顔で見ていたが、やがて退屈そうに首を傾け始めたあたりで、ルルーシュはチャンネルを変えてしまった。
チャンネルを変えた先ではインスタントカレーのCMが流れていた。
「つまらなかった」
間延びしたBGMを聞き流して、ルルーシュが欠伸をしながら言えば、
「そうだろうね」
毛布の下からは完全に機嫌を損ねた声音の返事が返ってきた。
CMが終わると、今度もなんと『悪逆皇帝ルルーシュ』に関する特番だった。番組の内容は、ルルーシュ刺殺の場面を垂れ流すようにメディアが報道したことへの是非を問うものだった。いくら悪逆皇帝とはいえ、人間が腹を刺され大量に血を流しながら死ぬ瞬間を、報道機関が時間帯を問わずに流し続けてきたことへの疑問の投げかけである。
「……ロロが作ったんじゃないよな?」
冗談のつもりで言ったのだが、毛布の下から一切返事は返ってこなかった。寝てしまったのか、そうでない理由で返事が返ってこないのかと考えながら、おそらくは後者だろうな、と予想して、若干肝が冷えた。
ルルーシュはしばらくその番組を見てから、リモコンで画面を消した。
「……ああいうことが議論出来る余裕が出てきたんだな」
言っている本人ですら、本心か皮肉かわからないような口調で言えば、
「そうだね」
感情の籠もっていない、素っ気無い返事が返ってきた。
「…悪かったよ」
ルルーシュは毛布越しにロロの肩の辺りに手を置いた。
「知らない」
冷たい「知らない」という声を聞きながら、ルルーシュは電気を消してから、毛布に潜りこむ。
「ロロ」
「知らないってば」
ルルーシュは背を向けるロロと、背中を合わせになる形で横になる。それから手探りで、毛布の中で弟の右手を探すと、握り締めた。
「本当に悪かった。そんなに怒ると思わなかったんだよ。…謝る」
ルルーシュが言えば、しばらく返事はなかった。
繋いだ手が振りほどかれることはないけれど、まだ怒っているのだろうかと思い始めた頃、
「……うん」
間をおいてからロロはそう答え、ルルーシュの手を握り返した。
「…もう、さっきみたいなことはしない」
「出来ない約束はしなくていいよ?」
言っている内容は厳しいが、ロロの口調は柔らかで、その口からはクスクスという笑い声すら聞こえた。
ルルーシュはロロに聞こえないように安堵の息を吐いた。
今、二人の間には、ルルーシュの記憶が変えられていた頃とも、ルルーシュがロロを利用しようとしていた時とも違う距離感がある。
ルルーシュの記憶が改変されていた頃は、ロロが仮面をつけていた。
ルルーシュが記憶を取り戻してからは、ルルーシュが仮面をつけていた。
一度ロロの命が喪われかけた時、二人はやっと、お互いに人として、仮面をつけずに向き合うことが出来たのだ。監視者としてでもなく、搾取する者としてでもなく、道具としててもなく。
ロロはこんなにはっきりとモノを言っただろうか?
ロロはこういう言動で怒っていただろうか?
ロロはこんな風に笑っていただろうか?
仮面を外した毎日の中で、そんな風に思うこともあるけれど、きっとそれはお互い様なのだろう。
ルルーシュがロロとしっかり向き合おうとすればするほどに、ロロは違う顔を見せる。毎日毎日、そうやって、色々なロロの表情と出会うたびに、自分もまた、これまでに知らなかったような感情が呼び覚まされて、戸惑う時もあるのだ。
ロロはこんな人間だったろうか? という疑問をルルーシュが口にするより先に、
『兄さん、そんな人だと思わなかった!!』
とロロに言われて心に重傷を負ったことがある。
――なぁロロ、お前は、記憶を改変されていた頃の俺が良かったのか?
そんな問いが喉元まで何度もせり上がって来たけれど、ルルーシュはその度に、言葉を飲み込んだ。
前の方が良かった、と言われたところで、もうあの頃の自分には戻れないのだ。
今の自分にとってロロは、庇護するだけの存在ではなく、対等の存在になっている。前と同じようにロロを見る瞳を、もう自分は持っていない。だからと言って、今更ロロを手放すつもりは毛頭ない。
『兄さんは最近、本当に意地悪だよ』
と、ロロはよく言う。
ただその言葉は、怒りと共に発せられることもあるが、笑顔と共に口にされることも決して少なくない。「意地悪」になった兄を、ロロが決して否定的にだけ捉えているわけではないのだ、とそんな時にルルーシュは胸を撫で下ろす。
毎日毎日ロロと顔を合わせていれば、衝突することもあるが、それでも今という時間は光り輝いている。ぶつかっている時は辛いのだけれど、後で振り返ればその痛みすら愛しいと思えるのだから。
「おやすみ」
「…おやすみ」
試行錯誤の日々の中で、こうして眠るたびに、思うのだ。
明日、ロロはどんな顔を見せてくれるのだろう、と。
* * *
ルルーシュが穏やかな寝息を立て始めた頃、隣で寝たフリを続けていたロロがぱちりと大きな目を開けた。
規則正しいルルーシュの呼吸の音だとか、傍にあるルルーシュの体温に誘惑されながらも、ロロはルルーシュが寝ていることを確認してから、
(よしっ、行動開始)
パジャマの胸ポケットに入れておいた小さなペンライトを取り出して点けてから、ルルーシュを起こさないようにゆっくりと毛布の中から出ようとする。しかし、ずっと握られたままだったルルーシュの手が、どうやってもロロの手から離れない。
嘘、と焦りながらロロは握られていない方の手で、ルルーシュの指を一本一本なんとかしようとするが、あまり力をこめるとルルーシュが起きてしまいそうで、なかなかルルーシュの手から自分の手を解放することが出来なかった。
一瞬、ギアスという言葉が頭を過ぎっていったが、ギアスの連発で死に掛けた後、命の危険でもない限りギアスは絶対に使わないと、ルルーシュと(半ば強制的に)約束させられたのを思い出して、ロロは首を横に振った。
(兄さん、こんな時まで意地悪なんだから!!)
別にルルーシュがロロの邪魔しようと思っているわけではないとはわかっているが、それでも思わず毒づきそうになってしまうぐらい、ルルーシュの細くて長い指が、巧みにロロの指に絡み付いている。
本気でギアスを使おうかと思った時に、ようやくロロの指はルルーシュの指から逃げることに成功した。
なんとかベッドから抜け出して、ロロは眠るルルーシュの方を振り返る。
(まさかこんなところで手間取るなんて)
これからが大変なのに、と思いながら、ロロは音を立てないようにして、ルルーシュの部屋から抜け出した。
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