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 実は去年の切ない誕生日と、
   今年のとても愛しいキセキ。(7)




 ロロの作戦が無事に終了した数時間後。

 暗闇の支配していたルルーシュの部屋が、白い光に包まれた。目覚まし時計代わりに、朝のある時間になると、天井にある明かりが最大光量で点灯するようになっているのだ。

 「…んっ…」

 ルルーシュは眩しそうに目を開き、身体を起き上がらせると、まだ隣で眠っている弟の額にキスを落としてから、軽く伸びをする。

 「?」

 伸びを終えると、ルルーシュは目を丸くして壁を見上げていた。
 ルルーシュの視線の先にあったのは、無い筈の、『窓』。
 いや、正確には、それは窓から見た青い空が描かれた額入りの絵画だった。薄いレースのカーテンが外に向かって靡いていることや、光の加減から、朝に開け放たれたばかりの窓だろうか。
 技術云々を言われてしまえば、決して上手いと評価されるものではなくて、稚拙とされる部類に入る絵だ。しかし、ルルーシュはその絵を見ているだけで、朝一番に窓を開け放った時の爽やかな空気の感触や香り、おはようと笑いかけてくれているような朝の光を思い出すことが出来た。

 「……気に入った?」

 後ろの方から聞こえた声で振り向けば、いつの間にか起きていたロロの眠そうな瞳がこちらを見上げていた。

 「これ、俺が寝ている間に?」
 「そうだよ。……兄さんが寝ている間にそこに取り付けるの、大変だったんだけど……色々と」

 何故か恨めしそうな目をしてルルーシュを見詰めてからから、ロロは、

 「『誕生日おめでとう』なんて言わないからね。……最近、兄さん凄く意地悪だから」

 ルルーシュの袖を軽く掴みながら、言った。
 …そうか、誕生日祝いをくれたのか、と、最近自分に似て意地っ張りになってきた弟を微笑ましく見ていると、

 「僕は絵が描けないし、描いても下手だから、探してきたんだ。窓と、空の絵。兄さん、窓が無くて空も見えないから息苦しい、って言ってたから。……喜んでくれると思って」

 ロロが言った。
 ルルーシュはその言葉を聞いて、つい先程「意地悪」と言われたばかりなのに、ちょっとした意地悪をしたくなってきた。誕生日プレゼントをくれた弟に免じて一日ぐらいは我慢しようか、とも思ったが、やはり止められそうにない。
 ルルーシュはとびっきりの笑顔を浮かべて、

 「……気に入ったよ、この絵。ロロが一生懸命、描いてくれたんだもんな」
 「!」

 ロロはこれ以上ないぐらいに目を見開いて、口をパクパクとさせてから、

 「違っ……僕が描いたんじゃ……!!」

 顔を真っ赤にして否定した。
 そんなロロを見ながら思う。
 わからないと思ったのだろうか。
 わからないわけがないではないか。
 絵に描かれた窓枠の右下の方にある傷だとか、鍵の部分に少しある錆だとか、レースのカーテンの薄いピンクだとか、オフホワイトのカーテンも、かつて二人で過ごした部屋にあったものだったのだから。

 「絵を描くの、苦手なのに……。俺の為に頑張って描いてくれたんだな。……ありがとう」
 「……意地悪っ……!!」

 ありがとう、と繰り返せば、そう言えばこんなことが以前あったような、と思い出す。

 嗚呼、あれは、ロロが誕生日プレゼントにブルーベリージャムをくれた時だ。
 別のプレゼントを用意する、と言ったロロの手から、プレゼントの箱を奪って、これがいいと繰り返したのを覚えている。あの時は、意地悪がしたかったわけではなくて、プレゼントが上手く出来たか自信を失っているようだったロロに元気になってもらいたかったのだけれど。
 後でロロから聞いたところによると、ブルーベリージャムを作る時は、材料一つ一つを厳選して取り寄せて、相当練習したらしい。ブルーベリージャム作りは簡単そうでいて、初心者には難しいから苦労したという。思うように固まらなかったり、硬さ調節が上手く行ったら今度は味が微妙たっだり。作ったものは全部食べたようだ。しばらくブルーベリーなど見たくもなくなるぐらいに。
 それでも、ルルーシュの誕生日の翌朝、

 『でも、兄さんが<食べさせて>くれたブルベリージャムは、すごく美味しかった』
 
 なんて可愛く笑うものだから、朝っぱらからキスの雨を降らせて、怒られたのをよく覚えている。
 今思えば、誰かの誕生日プレゼントを自分で考えるなんて、初めてであっただろうロロは、ルルーシュの思っていた以上に追い詰められていたのかもしれない。
 調子が悪い、と言ってパーティーから走り去って行った時の今にも泣き出しそうなロロの表情だとか、プレゼントの箱をルルーシュの手から取り戻そうと必死に手を伸ばした時のロロの表情は、今思えば悲壮そのものだった。
 きっと、口に出来ない想いを、抱えきること出来ない程抱えて、押し潰されそうになっていたのだろう。
 当時の自分ではそれに気づきようもなかったのだけれど、当時のロロに何もしてやれなかったことが、今更ながらに口惜しい。

 「嘘つきに意地悪か…。次に何て言われるか怖いな」

 ルルーシュは再び、『窓』を見た。

 優しい光を受けてふわりと風にのるレースのカーテン。
 ロロの中で、過去の思い出は、こんな風に見えている。
 ならば、今の自分との生活は、ロロからはどのように見えているのだろうか?
 こんな、奇妙で、不思議な、今を。

 ……本当に、奇妙で不思議なものだ。

 最初は、なんのつながりもない他人で。
 それが、何の因果か偽の家族になって。
 銃口を向けて、向けられて。
 その後、またしても嘘の関係になって。
 お前なんて殺してやりたかったんだ、大嫌いだと叫んで。
 そんなこと言われたのに、こちらの命を救う為に、死に掛けて。

 そんな二人が、今同じ場所でこうして生きている。

 「ロロ、来年は何をくれるんだ?」
 「 !! …兄さん、気が早すぎるよ」

 ロロが、今、自分の誕生日を祝ってくれていることが、どれだけ奇跡的なことのか、計算しようにも、出来ない。

 「来年も、ロロが描いた絵がいいな」
 「……絶対に、嫌だっ!!」

 本当に、奇妙な過去を持った関係だけれど。

 「なぁ、ロロ」

 ロロにとって、今の自分はいい兄ではないかもしれないけれど。

 「……何?」

 自分は、ロロのことをほんの少しも理解していないのかもしれないけれど。

 「お前が今、ここにいてくれていることが、一番のプレゼントだよ」

 少しづつでいい。少しづつでいいから、分かり合えていけたらいいと思う。

 「ズルイよ……」

 ロロが傍にいるという、愛しいキセキを大切に抱きしめながら、
 
 「……ロロ?」
 「そんな風に、笑って言われたら、何言われたって許せちゃうって、……知ってるくせに!」

 毎日を、二人で、生きていたい。

 「そうだよ。お前の兄は、嘘つきで、意地悪で、ズルくて、鈍感で性悪で酷い男なんだよ」
 「……そこまで言ってないのに……」

 出会えたこともキセキ。今こうしていられるのも、キセキの中のキセキ。
 だからこそ、諦めたくないのだ。もっと、もっと、もっと、ロロのことを知りたいという、この願いを。
 ただ甘いだけの日々を送るだけでは、その願いは叶わず、乗り越えなければならないものが無数にあることは、わかっているけれど。
 それでも、ロロのことを、もっと知りたいのだ。

 ルルーシュは指先をロロの顎に滑らせると、くぃ、と軽く押し上げた。

 「なぁ、ロロ。……俺を慰めてくれないか?」
 「……はい?」
 「弟に散々悪口を言われて傷ついたんだ。癒して貰わないと死ぬかもしれない」

 目を丸くするロロに、ルルーシュが白々しく言った。

 「……的外れなことは言ってないと思うんだけど……」
 「お前の口で『おめでとう』って、言ってくれ。そうしたら、俺の傷も、癒えるから」

 ロロの呟きを無視して、ルルーシュはそう口にした。
 『誕生日おめでとう』なんて言わないからね、と告げられたばかりなのに、本当に意地悪な兄だという自覚はある。「お前が今、ここにいてくれていることが、一番のプレゼントだよ」と言っておいて、それでもロロからの「おめでとう」という言葉を心の底から欲する程に、自分はロロに対して貪欲になっているのだろう。
 ロロは兄の言葉に呆れたような顔をしながらも、

 「いいよ。兄さんの傷、直してあげる」

 ロロは改まって、ベッドの上に座りなおす。
 もっと抵抗されると思っていたから、素直にそう言われてルルーシュが拍子抜けした。
 しかしすぐに、ルルーシュも真面目な顔をして、ロロの言葉を待つ。

 「兄さん、誕生日……」

 ルルーシュは「ありがとう」と返す準備をしていたが、

 「……今年も、祝わせてくれて、ありがとう」

 ロロの言葉に、思わずきょとんとしてしまって、言葉を何も返せなかった。
 ロロは微笑んでから、べぇ、と舌をだした。
 ロロに舌を出される日が来るとは思わなかった。
 そして、

 「……どういたしまして」

 自分の誕生日で、「どういたしまして」なんて、言う時が来るとも。

 (……全く。あまり俺に似なくていいんだぞ? ロロ)

 ルルーシュが困ったように口にした「どういたしまして」という言葉は、ロロにはなかなかウケが良かったようで、ロロは声をあげて笑った。
 やがて、ルルーシュもつられて笑った。



(終)
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