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*7話捏造話。カレンの出番を全部ロロが取ってます。




 傍にいるよ。何があっても、兄さんの傍に。



   僕だけに、出来ること



 ナナリーの影に怯え、ナナリーの声を聞けば、脱兎のように逃げ去っていく。そんなルルーシュの姿を、ロロは静かに見ていた。
 一年間、自分が享受した愛情は、本来はナナリーに向けられていたもの。
 目を閉じれば鮮やかに思い出すことの出来る、自分に向けられたルルーシュの暖かい笑顔、愛情。どれほどルルーシュがナナリーを愛していたか、その愛情を直に身に受けた自分だからこそ、わかる。任務の為ならば、ルルーシュをすぐに殺してしまえる筈だった自分に、ためらいを与えたもの。未来への夢を与えたもの。それはルルーシュの愛情に他ならなかった。
 それほどの愛情を傾けていた相手の世界に、自分が必要とされいないという事実は、どうしようもない孤独の中にルルーシュを追いやっていた。
 ロロの為にも、計画を急ぐ、と約束した兄。その兄が今、絶望に打ちひしがれている。
 電話越しにナナリーに「愛している!」と叫び、夢の底でもナナリーの名を呼び続けた兄。そんな姿を見て、ロロは思い知らされた。
 ナナリーでなくては埋められない、孤独があるのだと。自分では、駄目なのだと。
 ナナリーに嫉妬しなかったかと言えば嘘になる。
 仕方ないのかもしれない。兄妹の絆を超えることはできないのかもしれない。
 だからといって、諦めることは出来ない。
 自分はルルーシュを守ると、決めた。
 守ると決めた以上は、最後まで守り通す。

*  *   *

 夜の帳が落ちた街を、ルルーシュは彷徨う。彷徨ってさえいれば、何処かに掴みたいものが、落ちていると信じているかのように。ほんの数日前まで心身ともに自信に満ち溢れていた王者は、孤独に苛まれて暗闇の中を歩き続けた。そんなルルーシュの姿を、ロロは静かに、ずっと見守っていた。

  人をギアスで操り、狂ったように笑い続けるルルーシュも。
  人目のない所で蹲るルルーシュも。
  虚空に向かって、ナナリー、と呟くルルーシュも。

 全て、受け入れなければいけない。ロロはそう思ったのだ。
 ルルーシュが失ったものの大きさも、その孤独も。それを引き起こした存在の正体も。
 ルルーシュの孤独を目の当たりにしながら、ロロは思う。
 自分に出来て、ナナリーには出来ないこと。
 それは、ルルーシュの傍にいること。
 自分では、ルルーシュの孤独を埋めることは出来ないのかもしれない。
 それでも。
 何もしないまま、ルルーシュを独りにしたくはなかった。

*   *   *

「ここ…は…?」
 ルルーシュはあるホテルの一室で目を覚ました。カーテンは全てしめられ、灯かりは机の上にあるものだけが、柔らかい光を放っている。
 ロロはルルーシュの眠るベッドの傍らで、椅子に座り、ルルーシュを見下ろしていた。そして目を覚ましたルルーシュを見て、安堵の息を漏らした。
「ホテルだよ。…何があったか、覚えてる?」
 ロロが訊くと、ルルーシュはぼんやりと天井を見上げた。
「…いや」
「だろうね。ごめんね。ギアスを使って、気絶させたから」
 ロロは穏やかに微笑む。
「…捨てたよ。リフレインは」
 ルルーシュは目を見開いた。
「思い出した? 兄さんがあんなもの使おうとしたから。…仕方なくて」
 数時間前、ロロは建物の陰から飛び出し、全速力で走り出していた。
 ルルーシュが自身にリフレインを注射しようとしていたのだ。ロロはギアスを使ってリフレインを奪ってから、ルルーシュを気絶させ、持っていた鎮静剤をルルーシュに注射し、近くにあったホテルまで、ルルーシュを運んできたのだ。
 ルルーシュは身体を起こした。
「俺の後をつけていたのか」
「…うん」
 低い声で咎めるように訊くルルーシュに、ロロは素直に頷く。
「お前は、俺の監視役だったな。…忘れていたよ」
 敵意の籠もった視線を、ロロは静かに受け止める。
「忘れてしまえばいいじゃない、…何もかも」
「お前に何がわかる! 何も出来ない奴が!!」
「じゃあ、…何を、すればいいの?」
 叫ぶルルーシュに静かに尋ねると、ルルーシュはロロの胸倉を掴んだ。
「俺を慰めろ…出来るならな」
 ルルーシュの瞳には、危険な光が宿っていた。敵意と、憎しみと、孤独から生まれたどろどろとした欲望が。
 ナナリーさえいれば、ルルーシュはこんな、飢えた獣のような目をせずに済んだのだろうか?
 ナナリーさえ、いれば。
 ロロは、ルルーシュの要求に、頷いた。
「…いい、よ」
 予想外の答えに、ルルーシュの瞳が揺れる。
 ロロはルルーシュの手に触れながら、ベッドに膝をついた。
「…でも、それで、本当に兄さんは癒されるの? 本当に満たされるの?」
 ロロの瞳が悲しげに細められる。
 身体を重ねることになっても、構わない。ただ、それで余計にルルーシュの苦しみが増すのなら、避けるべきだ。
 …いや、違う。とロロは思う。
 この流れのまま暗い欲望を満たすようなことをすれば、ルルーシュはその行為が終わったあと、必ず後悔し、自分を責め続けるだろう。
 残酷なまでに優しい人。それが、ルルーシュ。
「…僕じゃ、駄目なのでしょう? 兄さんの孤独を埋めることは、出来ないのでしょう?」
 ルルーシュは何も言わなかった。だが、その沈黙こそが、ロロの問いへの肯定だった。
 それでも、いい。
 今は、出来ることをしたい。
 ロロは、そっと、ルルーシュの頭を自分の胸に抱き寄せる。
「やめていいんだよ。辛いなら。逃げたいなら」
「俺は…」
 ロロの服を握り締めていたルルーシュの手は、ベッドにゆっくりと落ちた。
「いいじゃない。…逃げたって」
 リフレイン。ルルーシュが使おうとしたそれは、未来を代償にして、過去の幸福に耽溺する為の薬。そんな薬を必要としたルルーシュに、自分が出来ることは何か。
 ロロは、ルルーシュと過ごした一年間を思う。
「帰ろう、何もかも忘れていた頃へ。いつも笑っていた、あの頃へ。それで、兄さんが幸せになれるのなら、…それで、いいじゃない」
 例え偽りの日々、偽りの関係だったとしても、一年間、毎日が幸福で輝いていた。暖かな笑顔が溢れていた。ルルーシュに孤独の影がさすことはなかった。
 ルルーシュの顔を影が過っていくようになったのは、造られた幸福な日常が終わりを告げてからだ。
「俺は…っ…」
 偽りだから、なんだというのだろう。真実で不幸の坂を転がり落ち続けるというのなら、それを得ることになんの意味があるのだろう?
 ルルーシュが幸せに日々を過ごせるなら、真実など、どうでもいい。
 ルルーシュが微笑んでいてくれるなら。
「忘れないで。兄さんが何を選んでも、僕だけは兄さんの傍にいる。何処にも、いかない。兄さんと二人だけで取り残されたって…ずっと、一緒だよ」
 愛情を向けられるのに慣れていなかった頃、ルルーシュの傍にいることが、苦しくて仕方なかった。それなのに、自分が少しでも辛い思いをしていると、何故かルルーシュはすぐに感づいて、ロロの傍にいようとした。何故そこまでするのかと、当時のロロには理解が出来ずに苦しんでいた。
 今ならわかる。ルルーシュはただ、大切な人に笑っていて欲しかっただけなのだ。その為になら何でもする。ルルーシュは、そういう人。
 ルルーシュが自分にしてくれたこと。例えそれが、本当はナナリーに贈られたものだったとしても、確実にそれは、ロロの世界を変えた。ロロの心に沢山のものを残していった。
 ロロがルルーシュの髪を撫でると、ルルーシュの身体がびくりと震えた。
「例え兄さんに憎まれても、僕は、兄さんから離れない。…だから兄さん。自分の行きたい道を選んで。何処にでも、ついて行くから」
 背中に鋭い痛みが走った。
 ルルーシュの震える手が、爪が食い込む程に、ロロの背を強く抱き寄せていた。
「皆…いなくなってしまった」
「…うん」
 ルルーシュの悲しみを、受け止める。
「…ナナリーも…スザクも…俺から遠ざかっていった。…傍に居てくれると、信じていたのにっ…!」
「うん」
「スザクは、俺は世界に必要とされていないとまで言った…! 俺がさしだした手を、あいつは取らなかった…!」
 壊サレル。
 一瞬本気でロロがそう思う程に、ルルーシュの手に力がこめられた。ロロは始めて、自分の身体が悲鳴をあげる声を聞いた。
「わかっていたさ…力を手にした時から…わかっていた…」
 わかっていた、わかっていたんだ。と、何度も何度もルルーシュは押し殺した声で、繰り返す。

 ナナリー。
 スザク。

 ロロは二つの名を胸に刻みつける。
 ルルーシュが、自分を受け入れて欲しいと願った、愛する者達の名前を。そして自らの意志で、ルルーシュと相対する人間を。
 それがどのような種類のものであれ、ルルーシュは彼らを、この瞬間も深く愛しているのだろう。そして、ルルーシュを突き放した彼らの意志がどれだけ真っ直ぐなのか、理解している。だから、ルルーシュの傍から離れた彼らを、心の底から恨むことも出来ない。
(この人は…ずっと、我慢していたんだ。悲しみも孤独も、それが、自分が招いたものだから。きっと、泣く資格が自分にはないんだと思っていたんだ)
 人の上に立つ者は、下の者の前で崩れることは許されない。ましてや、その者が、己の顔を見せることも出来ず、己の犯した罪の大きさから、悲しみを表にだすことを、自ら封印していたのだとしたら。
 愛する者達に置き去りにされた孤独と哀しみは何処にも行けずに、己を確実に蝕んでいく。孤独な、王者を。
「兄さん、いいんだ。ここには僕しかいない。…寂しくて泣いたって、誰も兄さんを咎めたりしない」
「…っ…」
「大丈夫。僕は、ここにいるよ」
 ロロがルルーシュの背中を撫でると、ルルーシュは声を上げて泣いた。

 ルルーシュの嗚咽を聞きながら、ロロは思った。

  ああ、やっぱり、僕は、この人が好きなんだ。
  僕には、傍にいることしか出来ない。
  だからこそ、ずっと傍にいる。
  ずっと、この人と一緒にいる。

  道を違えたことで、愛する人達に置き去りにされたというのなら、
  それがこの人をこんなにも苦しめているのなら、
  僕だけは、この人を、一人にさせたりしない。
  例え、何も出来なくても。
  この人が、どんな道を、選んでも。

  それが、僕だけに、出来ることだから。

 (兄さん…愛してる)

 ロロはそっと、ルルーシュの額にキスを落とした。


 

『変ワリユク心』に続く。
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たまには真面目にあとがきのようなものを書いてみる
 スザクに売られたことで受けた痛みと、ナナリーに必要とされていないということへの悲しみの両方が、7話でルルーシュを蝕んでいただんだろうなぁ、と思います。特にスザクの事に関しては、傷ついたまま、傷ついてる事にルルーシュ自身、気づかずに放っておいてしまった。C.C.に事実だけは話したけれど、ユフィの時と違って、傷ついた自分を誰にも曝け出さなかった。かといって、25話のスザクと相対した時のルルーシュの表情や、身体の動きを見れば、ルルーシュがスザクのことで傷ついていないわけがない。それがナナリーの一件で一気に表面に出てきたのかなぁ、と。
 でも、その孤独を受け止めてくれる人がいない(と思い込んでいた)。だから、自分が何をしたいのかわからないまま、ルルーシュは街を彷徨い続けるしかなかったのでしょう。
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現在のお礼SS:ロロルルロロ一本。
効能:管理人のMP回復。感想一言頂けるととても喜びます。
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