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・携帯で見るとタグが反映されないので、残念なことになると思います。
・8月17日は、ロロがルルーシュの為に、必死に戦った日。あれから一年経ったのだなぁという想いの中で、書きました。
人の願いなんて、いつも矛盾しています。
僕の願いもまた、その例外ではないのだと、よくわかっています。
でも今だけ、貴方には聴こえない声で、そっと言わせてください。
貴方が傍にいないから、
貴方に触れられないから、
貴方と話が出来ないから、たまらなく寂しいのです。
貴方に傍にいて欲しい(傍にいたい)と、
触れたい(触れて欲しい)と、
僕の言葉に応えて欲しい(貴方の言葉に応えたい)と、
狂ったように叫びたくなる時があります。
いつか傍にいられる時が来る?
いつか触れられる時が来る?
いつか言葉を交わせる時が来る?
「いつか」ッテ、イツデスカ??
「いつか」ナンテ、「いつまでも」コナイノデハアリマセンカ?
煌びやかに輝く黄金の懐中時計が、
残酷な時間の中でどれ程錆付いていけば、その時はやってきますか?
だから、こう思ったのです。
貴方がサインさえしてくれれば、
すぐに此処へと招くことの出来る招待状を贈ることが出来たなら、
たとえ、
世界に一枚しかない紙を用いろと、
世界に一本しかない万年筆とインクでなければならないと言われ、
芸術作品と賞賛されるような文字を連ねなければならないとしても、
僕はその招待状を書き上げるだろうと。
けれど、決して、書き上げたその招待状は、
永遠に、
何処にも投函されることはないのでしょう。
何故なら、書き上げたその瞬間に、きっと自分の気持ちが分かってしまうから。
そう、だからこそ今、そっと言わせてください。
僕の想いは、書き上げた招待状と共に持ち帰るから、
……だからせめて、
この言葉を口にすることだけは許してください。
そこは、ホテルの一室だった。
空調のささやかなそよ風に、レースのカーテンが揺れていた。カーテン越しに見えるのは、遙か下にある眠らない街の光と、その道路を流れていく交通手段のヘッドライトとテールライト、そして少し離れた所に集まっている高層ビル群だった。
目を凝らせば、そのうちのいくつかはホテルのようで、カーテンを閉め忘れた部屋の中が見えるものもあった。建物の上の方に目をやれば、空を行く交通手段のパイロット達に存在を知らせる為に、高層ビル群に取り付けられた数々の赤いランプが点滅しているのが見える。
しばらく、そうやって窓の外を見てから、ロロはじっと、ガラスの窓そのものをじっと見てみた。黒い夜空を背景に、自分の姿が映りはしないかと思ったのだ。
ひょっとしたら、と、淡い期待を抱きながら、ロロはじぃ、と窓を見つめる。
(映るわけ、ない、か……)
何をやっているんだろう、と、自分の馬鹿さ加減にロロは溜息をつく。そうだ、本当に馬鹿だ。さっきだって、兄さんは僕の真横を素通りしたじゃないか、と。
ロロがゆっくりと部屋の方に振り向くと、ベッドに座りながら髪を乾かし終えたルルーシュが、ちょうどドライヤーの電源を切ったところだった。きっちりとドライヤーのコードを元あったようにまとめているのを見ながら、ああ兄さん、そういう所はちっとも変わっていないんだなぁ、とロロは口元に笑みを浮かべる。
ロロが見ていることも知らず、ルルーシュは部屋の明かりを消してから、ベッドに静かに横になった。
「……お休み」
目を閉じながらそう言ったルルーシュの声を聞いて、ロロはルルーシュの言葉が自分にかけられたもののように錯覚して、目を丸くしてから、
(そんなわけないじゃないか)
すぐにルルーシュが無意識で言ったのだと理解し、
「……お休みなさい、兄さん」
ベッドの傍で、静かにそう言った。
「本当に変わらないな……兄さん」
ルルーシュの寝顔を見ながら、ロロはぽつりと呟く。
「そこ以外はね」
ロロの目の先には、ベッドに投げ出されたルルーシュの手のひらがあった。赤いギアスのマークがどうしたって目を引く。
ルルーシュが手のひらにその赤い紋章を刻まれてから、どれほどの時間が経ったのだろう、とロロは思う。少なくとも、ルルーシュがこうしてホテルに堂々と泊まれるぐらいには、時間が経ってしまったのだ。悪逆皇帝が完全に遙か過去の人となって、たとえ同じ顔の人間がいても、「そっくりさん」で済まされる時代へと変わるぐらいには。
ルルーシュと思い出を共有出来る者達の命が尽きたのは、遙か昔のことだ。
そう、自分もまた、それほどの時間、ルルーシュを待ち続けている。
どれほど時間が経ったのか、数字で認識することが出来なくなる程に。
それでも、ルルーシュは永い時間を生き続けている。
どうやらルルーシュには何か願いがあって、それを叶える為に、たった一人で生き続けているようなのだが、誰にもその目的を言わないから(言う相手がいないのだが)、ルルーシュが何を秘めているのか、ロロには全くわからない。
何かを求めるように、孤高に生きるルルーシュの姿を見ながら、一体どれほど、自分の傍に来て欲しい、と願ったのだろう。
早く、また話がしたい。
早く、また触れ合いたい。
しかしそう願うことはルルーシュに「早く死ね」と告げるのと、同じこと。
自分の傍にいて欲しいという願うたびに、世界で一番大切な人の死を願っている自分を何度責めたことだろう。
確かに、ロロが命を捧げたのは、自分がルルーシュの傍にいたかったからだ。ルルーシュの傍にいたいという自分の望みは、生前から全く変わっていない。ルルーシュの死を願うことと、自分が生前に命をかけてルルーシュを守ったこととは、決して矛盾しない。
けれど、だからといって、「兄さん、死んで欲しいんだ」とルルーシュに正面から告げる自分の姿は想像することさえも出来ない。
ロロはルルーシュのベッドの傍でしゃがみながら、ルルーシュの寝顔を見つめる。
もう何度も、その頬に触れようと手を伸ばし、すり抜ける自分の指先を見て絶望してきたから、手は伸ばさない。すり抜けた瞬間の、無い筈の心臓が締め付けられるような感覚は、忘れようとしても忘れられないのだ。
「ねぇ、兄さん。……兄さんは、何をそんなに、頑張っているの……?」
ロロは、尋ねる。
思い出を共に語り合う者がいなくなっても、新たに友人をつくるわけでもなく、たった一人で、今、ルルーシュは何かに立ち向かっている。
世界中を回り、何かに駆られるように古書を調べ上げ、長時間、一人で必死な顔をして何かを考えている。
その姿を見て、ロロは思うのだ。
ルルーシュの戦いは、まだ、終わっていない。それが終わるまで、ルルーシュがロロの傍へと帰ってくることはないのだろう。
ルルーシュは、今度こそ、本当に一人で、戦っている。
誰にもその荷を分けることなく、たった一人で。
ルルーシュの戦いが何に始まり、何に終わるのかだけでも分かれば、こうして漠然とした不安の中で待ち続けなくて済むのに、ルルーシュが何と戦っているのかさえ分からない。
「兄さん。もう、頑張らなくていいんだよ……?」
自分の傍に来てくれないのなら、せめて、またルルーシュには笑って生きて欲しかった。
ひょっとしたら、生きる時間が違う普通の人間と付き合えば、別れる悲しみを味合わなければいけないから、ルルーシュは人との付き合いを避けているのかもしれない。
それでもいいではないか。毎日、辛そうな顔をしながら、たった一人で戦うよりは。
けれどもし、自分がそれを伝えられたとしても、ルルーシュは頷いてはくれないだろう。
(……頑固だから、僕の兄さんは)
これをする、と、本当に心の奥底から決めてしまったら、それを成すまでは決して、止まりはしない。
いつになったら、また、兄さんは僕を綺麗な紫の瞳に写してくれるのだろう?
いつになったら、また、兄さんに触れることが出来るのだろう?
いつになったら、また、兄さんと言葉を交わすことが出来るのだろう?
独り言を言うこともなく、一人で生きていくルルーシュを見て、きっとルルーシュはロロのことなど忘れているのだろうと思ったこともあった。
寂しいと、
触れたいと、
言葉を交わしたいと、
こんなにも求めているのは、自分だけなのだと。
もう、自分には、こうしてルルーシュの姿を見に来ることも許されないのかと思ったこともあった。
けれど、ある日、ルルーシュが今にも消えてしまいそうな声で、
「ロロ」
と、誰もいない虚空に向かって言った時、わかったのだ。
決して、ルルーシュはロロのことを忘れてはいないのだと。
「そんな所に僕はいないよ」
と、ロロがいくら告げても、その言葉はルルーシュに届かなかった。明後日の方向に手を伸ばしながら、「ロロ」と何度も口にしたルルーシュの姿があまりにも悲痛で、その行動を止めさせてあげられない自分はあまりにも無力だった。
そうやってルルーシュがロロの名を呼んだのは、その時だけだった。けれど寂しいのは自分だけではなくて、ルルーシュも同じだったのだ。無駄だとわかっていながら、また触れられるのではないかと、宛てもなく手を伸ばしてしまう程に。
一歩間違えば狂気の海に堕ちてしまいそうな程に、「傍にいたい」というこの想いは、自分だけのものではなかったのだ。
だからこそ、願わずにはいられない。自分には、それしか、出来ないから。
人の願いなんて、いつも矛盾しています。
僕の願いもまた、その例外ではないのだと、よくわかっています。
でも今だけ、貴方には聴こえない声で、そっと言わせてください。
貴方が傍にいないから、
貴方に触れられないから、
貴方と話が出来ないから、たまらなく寂しいのです。
貴方に傍にいて欲しい(傍にいたい)と、
触れたい(触れて欲しい)と、
僕の言葉に応えて欲しい(貴方の言葉に応えたい)と、
狂ったように叫びたくなる時があります。
いつか傍にいられる時が来る?
いつか触れられる時が来る?
いつか言葉を交わせる時が来る?
「いつか」ッテ、イツデスカ??
「いつか」ナンテ、「いつまでも」コナイノデハアリマセンカ?
煌びやかに輝く黄金の懐中時計が、
残酷な時間の中でどれ程錆付いていけば、その時はやってきますか?
だから、こう思ったのです。
貴方がサインさえしてくれれば、
すぐに此処へと招くことの出来る招待状を贈ることが出来たなら、
たとえ、
世界に一枚しかない紙を用いろと、
世界に一本しかない万年筆とインクでなければならないと言われ、
芸術作品と賞賛されるような文字を連ねなければならないとしても、
僕はその招待状を書き上げるだろうと。
けれど、決して、書き上げたその招待状は、
永遠に、
何処にも投函されることはないのでしょう。
何故なら、書き上げたその瞬間に、きっと自分の気持ちが分かってしまうから。
そう、だからこそ今、そっと言わせてください。
僕の想いは、書き上げた招待状と共に持ち帰るから、
……だからせめて、
この言葉を口にすることだけは許してください。
「……いつかまた、兄さんと笑い合えますように」
ルルーシュが何かを願ったなら、必ずその願いは、どれほど時間がかかってもルルーシュ自身の手で叶えるだろう。
少なくともその願いが叶うまでは、自分はルルーシュと再会することは出来ないのだとしても、ルルーシュには願いを叶えて欲しい。
(そうでないと、兄さんらしくないもの)
だから、自分は、”早く会いたい”とは、口にはしない。
「ずっと、……待ってる」
*
ルルーシュが目を覚ますと、丁度地平線から太陽が顔を覗かせている所だった。
そこはホテルの一室だった。―― 遠い昔、エリア11と呼ばれた場所の。
時差ぼけでまだ眠りたがっている身体を無理やり起き上がらせ、ルルーシュは携帯端末で目的地までの交通機関を確認し、手早く着替えて荷造りを終えた。
行き先は、富士山の見える、あの場所。
行こう行こうと思いながら、ずっと行くことの出来なかった場所。
墓前で何を言ったところで、死者に何も伝わらないことは頭で分かっていても、永い年月の間、一度もそこを訪れることが出来なかったという事実は、いつも頭の中にあった。
自分がこれから何をしようとしているのか、何が目的なのか、墓前に報告したところで何の意味もないことなのかもしれない。それでも、永い戦いに終止符を打つ為にも、自分が何処に行こうとしているのか、その原点に立ち返ることが、必要だった。
「……待たせて、ごめんな。……ロロ」
その名を口にしただけで胸が痛むのは、最初にロロの墓前に立った時は、すぐにでもロロの元へと逝くつもりだったからだ。父を倒し、すぐにでもロロの元へと。
それが、こんなにも遅くなってしまい、しかも、まだ自分の戦いには終わりが見えない。
(……もう、俺のことなんて、忘れてるかもな)
自嘲気味な笑みを浮かべてそんなことを考えながらも、本当は、わかっていた。きっと、ロロは、ずっと待っているのだろうと。
わかっているからこそ、一日、また一日と、ロロがいた時間から自分が遠ざかっていくのが辛い。
一体、どれだけロロを待たせればいいのだろうか?
この戦いがいつ終わるかなんて、全くわからない。いつ終わるか分かるような戦いなら、とっくの昔に終わらせている。
終わりが何処にあるのか、見当もつかないのだ。
だからこそ。
いつか、
必ず、
終わらせる。
例え、どれほどの時間がかかっても。
それだけが、自分が、ロロの墓前で約束出来ること。
その為に、自分はこの地に再び降り立ったのだ。
それが、
永い時間を待たせている弟へ、花束と共に墓前に贈る約束。
どんなに永くかかったとしても、必ず、お前のところ帰るから。
そうしたら、今度こそ始めよう。
二人の、明日を。
ずっと、欲しかったんだ。お前との、明日が。
終
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BGM 楽園-fantasm-
↑ SSのタイトルは、これの歌詞を参考にしました。
・8月17日は、ロロがルルーシュの為に、必死に戦った日。あれから一年経ったのだなぁという想いの中で、書きました。
人の願いなんて、いつも矛盾しています。
僕の願いもまた、その例外ではないのだと、よくわかっています。
でも今だけ、貴方には聴こえない声で、そっと言わせてください。
貴方が傍にいないから、
貴方に触れられないから、
貴方と話が出来ないから、たまらなく寂しいのです。
貴方に傍にいて欲しい(傍にいたい)と、
触れたい(触れて欲しい)と、
僕の言葉に応えて欲しい(貴方の言葉に応えたい)と、
狂ったように叫びたくなる時があります。
いつか傍にいられる時が来る?
いつか触れられる時が来る?
いつか言葉を交わせる時が来る?
「いつか」ッテ、イツデスカ??
「いつか」ナンテ、「いつまでも」コナイノデハアリマセンカ?
煌びやかに輝く黄金の懐中時計が、
残酷な時間の中でどれ程錆付いていけば、その時はやってきますか?
だから、こう思ったのです。
貴方がサインさえしてくれれば、
すぐに此処へと招くことの出来る招待状を贈ることが出来たなら、
たとえ、
世界に一枚しかない紙を用いろと、
世界に一本しかない万年筆とインクでなければならないと言われ、
芸術作品と賞賛されるような文字を連ねなければならないとしても、
僕はその招待状を書き上げるだろうと。
けれど、決して、書き上げたその招待状は、
永遠に、
何処にも投函されることはないのでしょう。
何故なら、書き上げたその瞬間に、きっと自分の気持ちが分かってしまうから。
そう、だからこそ今、そっと言わせてください。
僕の想いは、書き上げた招待状と共に持ち帰るから、
……だからせめて、
この言葉を口にすることだけは許してください。
<“いつか”叶うでしょうか?>
そこは、ホテルの一室だった。
空調のささやかなそよ風に、レースのカーテンが揺れていた。カーテン越しに見えるのは、遙か下にある眠らない街の光と、その道路を流れていく交通手段のヘッドライトとテールライト、そして少し離れた所に集まっている高層ビル群だった。
目を凝らせば、そのうちのいくつかはホテルのようで、カーテンを閉め忘れた部屋の中が見えるものもあった。建物の上の方に目をやれば、空を行く交通手段のパイロット達に存在を知らせる為に、高層ビル群に取り付けられた数々の赤いランプが点滅しているのが見える。
しばらく、そうやって窓の外を見てから、ロロはじっと、ガラスの窓そのものをじっと見てみた。黒い夜空を背景に、自分の姿が映りはしないかと思ったのだ。
ひょっとしたら、と、淡い期待を抱きながら、ロロはじぃ、と窓を見つめる。
(映るわけ、ない、か……)
何をやっているんだろう、と、自分の馬鹿さ加減にロロは溜息をつく。そうだ、本当に馬鹿だ。さっきだって、兄さんは僕の真横を素通りしたじゃないか、と。
ロロがゆっくりと部屋の方に振り向くと、ベッドに座りながら髪を乾かし終えたルルーシュが、ちょうどドライヤーの電源を切ったところだった。きっちりとドライヤーのコードを元あったようにまとめているのを見ながら、ああ兄さん、そういう所はちっとも変わっていないんだなぁ、とロロは口元に笑みを浮かべる。
ロロが見ていることも知らず、ルルーシュは部屋の明かりを消してから、ベッドに静かに横になった。
「……お休み」
目を閉じながらそう言ったルルーシュの声を聞いて、ロロはルルーシュの言葉が自分にかけられたもののように錯覚して、目を丸くしてから、
(そんなわけないじゃないか)
すぐにルルーシュが無意識で言ったのだと理解し、
「……お休みなさい、兄さん」
ベッドの傍で、静かにそう言った。
「本当に変わらないな……兄さん」
ルルーシュの寝顔を見ながら、ロロはぽつりと呟く。
「そこ以外はね」
ロロの目の先には、ベッドに投げ出されたルルーシュの手のひらがあった。赤いギアスのマークがどうしたって目を引く。
ルルーシュが手のひらにその赤い紋章を刻まれてから、どれほどの時間が経ったのだろう、とロロは思う。少なくとも、ルルーシュがこうしてホテルに堂々と泊まれるぐらいには、時間が経ってしまったのだ。悪逆皇帝が完全に遙か過去の人となって、たとえ同じ顔の人間がいても、「そっくりさん」で済まされる時代へと変わるぐらいには。
ルルーシュと思い出を共有出来る者達の命が尽きたのは、遙か昔のことだ。
そう、自分もまた、それほどの時間、ルルーシュを待ち続けている。
どれほど時間が経ったのか、数字で認識することが出来なくなる程に。
それでも、ルルーシュは永い時間を生き続けている。
どうやらルルーシュには何か願いがあって、それを叶える為に、たった一人で生き続けているようなのだが、誰にもその目的を言わないから(言う相手がいないのだが)、ルルーシュが何を秘めているのか、ロロには全くわからない。
貴方ガイナイカラ、安ラカニ眠ルコトガ出来マセン。
何かを求めるように、孤高に生きるルルーシュの姿を見ながら、一体どれほど、自分の傍に来て欲しい、と願ったのだろう。
早く、また話がしたい。
早く、また触れ合いたい。
しかしそう願うことはルルーシュに「早く死ね」と告げるのと、同じこと。
自分の傍にいて欲しいという願うたびに、世界で一番大切な人の死を願っている自分を何度責めたことだろう。
確かに、ロロが命を捧げたのは、自分がルルーシュの傍にいたかったからだ。ルルーシュの傍にいたいという自分の望みは、生前から全く変わっていない。ルルーシュの死を願うことと、自分が生前に命をかけてルルーシュを守ったこととは、決して矛盾しない。
けれど、だからといって、「兄さん、死んで欲しいんだ」とルルーシュに正面から告げる自分の姿は想像することさえも出来ない。
傍ニイテ。寂シイデス。
ロロはルルーシュのベッドの傍でしゃがみながら、ルルーシュの寝顔を見つめる。
早ク、僕ノ傍ニ来テクダサイ。貴方ニ触レタイ。
もう何度も、その頬に触れようと手を伸ばし、すり抜ける自分の指先を見て絶望してきたから、手は伸ばさない。すり抜けた瞬間の、無い筈の心臓が締め付けられるような感覚は、忘れようとしても忘れられないのだ。
「ねぇ、兄さん。……兄さんは、何をそんなに、頑張っているの……?」
ロロは、尋ねる。
思い出を共に語り合う者がいなくなっても、新たに友人をつくるわけでもなく、たった一人で、今、ルルーシュは何かに立ち向かっている。
世界中を回り、何かに駆られるように古書を調べ上げ、長時間、一人で必死な顔をして何かを考えている。
その姿を見て、ロロは思うのだ。
ルルーシュの戦いは、まだ、終わっていない。それが終わるまで、ルルーシュがロロの傍へと帰ってくることはないのだろう。
ルルーシュは、今度こそ、本当に一人で、戦っている。
誰にもその荷を分けることなく、たった一人で。
ルルーシュの戦いが何に始まり、何に終わるのかだけでも分かれば、こうして漠然とした不安の中で待ち続けなくて済むのに、ルルーシュが何と戦っているのかさえ分からない。
「兄さん。もう、頑張らなくていいんだよ……?」
自分の傍に来てくれないのなら、せめて、またルルーシュには笑って生きて欲しかった。
ひょっとしたら、生きる時間が違う普通の人間と付き合えば、別れる悲しみを味合わなければいけないから、ルルーシュは人との付き合いを避けているのかもしれない。
それでもいいではないか。毎日、辛そうな顔をしながら、たった一人で戦うよりは。
けれどもし、自分がそれを伝えられたとしても、ルルーシュは頷いてはくれないだろう。
(……頑固だから、僕の兄さんは)
これをする、と、本当に心の奥底から決めてしまったら、それを成すまでは決して、止まりはしない。
いつになったら、また、兄さんは僕を綺麗な紫の瞳に写してくれるのだろう?
いつになったら、また、兄さんに触れることが出来るのだろう?
いつになったら、また、兄さんと言葉を交わすことが出来るのだろう?
独り言を言うこともなく、一人で生きていくルルーシュを見て、きっとルルーシュはロロのことなど忘れているのだろうと思ったこともあった。
寂しいと、
触れたいと、
言葉を交わしたいと、
こんなにも求めているのは、自分だけなのだと。
もう、自分には、こうしてルルーシュの姿を見に来ることも許されないのかと思ったこともあった。
けれど、ある日、ルルーシュが今にも消えてしまいそうな声で、
「ロロ」
と、誰もいない虚空に向かって言った時、わかったのだ。
決して、ルルーシュはロロのことを忘れてはいないのだと。
「そんな所に僕はいないよ」
と、ロロがいくら告げても、その言葉はルルーシュに届かなかった。明後日の方向に手を伸ばしながら、「ロロ」と何度も口にしたルルーシュの姿があまりにも悲痛で、その行動を止めさせてあげられない自分はあまりにも無力だった。
そうやってルルーシュがロロの名を呼んだのは、その時だけだった。けれど寂しいのは自分だけではなくて、ルルーシュも同じだったのだ。無駄だとわかっていながら、また触れられるのではないかと、宛てもなく手を伸ばしてしまう程に。
一歩間違えば狂気の海に堕ちてしまいそうな程に、「傍にいたい」というこの想いは、自分だけのものではなかったのだ。
だからこそ、願わずにはいられない。自分には、それしか、出来ないから。
人の願いなんて、いつも矛盾しています。
僕の願いもまた、その例外ではないのだと、よくわかっています。
でも今だけ、貴方には聴こえない声で、そっと言わせてください。
貴方が傍にいないから、
貴方に触れられないから、
貴方と話が出来ないから、たまらなく寂しいのです。
貴方に傍にいて欲しい(傍にいたい)と、
触れたい(触れて欲しい)と、
僕の言葉に応えて欲しい(貴方の言葉に応えたい)と、
狂ったように叫びたくなる時があります。
いつか傍にいられる時が来る?
いつか触れられる時が来る?
いつか言葉を交わせる時が来る?
「いつか」ッテ、イツデスカ??
「いつか」ナンテ、「いつまでも」コナイノデハアリマセンカ?
煌びやかに輝く黄金の懐中時計が、
残酷な時間の中でどれ程錆付いていけば、その時はやってきますか?
だから、こう思ったのです。
貴方がサインさえしてくれれば、
すぐに此処へと招くことの出来る招待状を贈ることが出来たなら、
たとえ、
世界に一枚しかない紙を用いろと、
世界に一本しかない万年筆とインクでなければならないと言われ、
芸術作品と賞賛されるような文字を連ねなければならないとしても、
僕はその招待状を書き上げるだろうと。
けれど、決して、書き上げたその招待状は、
永遠に、
何処にも投函されることはないのでしょう。
何故なら、書き上げたその瞬間に、きっと自分の気持ちが分かってしまうから。
そう、だからこそ今、そっと言わせてください。
僕の想いは、書き上げた招待状と共に持ち帰るから、
……だからせめて、
この言葉を口にすることだけは許してください。
「……いつかまた、兄さんと笑い合えますように」
ルルーシュが何かを願ったなら、必ずその願いは、どれほど時間がかかってもルルーシュ自身の手で叶えるだろう。
少なくともその願いが叶うまでは、自分はルルーシュと再会することは出来ないのだとしても、ルルーシュには願いを叶えて欲しい。
(そうでないと、兄さんらしくないもの)
だから、自分は、”早く会いたい”とは、口にはしない。
けれど、“いつか”また笑いあいたいという願うことだけは、どうか、許してください。
“いつか”がいつかわからなくていいから。
それが貴方の死を願うことと同義だとわかっていても、
傍にいたいというこの気持ちだけは、
どうやっても偽ることが出来ないから。
“いつか”がいつかわからなくていいから。
それが貴方の死を願うことと同義だとわかっていても、
傍にいたいというこの気持ちだけは、
どうやっても偽ることが出来ないから。
「ずっと、……待ってる」
*
ルルーシュが目を覚ますと、丁度地平線から太陽が顔を覗かせている所だった。
そこはホテルの一室だった。―― 遠い昔、エリア11と呼ばれた場所の。
時差ぼけでまだ眠りたがっている身体を無理やり起き上がらせ、ルルーシュは携帯端末で目的地までの交通機関を確認し、手早く着替えて荷造りを終えた。
行き先は、富士山の見える、あの場所。
行こう行こうと思いながら、ずっと行くことの出来なかった場所。
墓前で何を言ったところで、死者に何も伝わらないことは頭で分かっていても、永い年月の間、一度もそこを訪れることが出来なかったという事実は、いつも頭の中にあった。
自分がこれから何をしようとしているのか、何が目的なのか、墓前に報告したところで何の意味もないことなのかもしれない。それでも、永い戦いに終止符を打つ為にも、自分が何処に行こうとしているのか、その原点に立ち返ることが、必要だった。
「……待たせて、ごめんな。……ロロ」
その名を口にしただけで胸が痛むのは、最初にロロの墓前に立った時は、すぐにでもロロの元へと逝くつもりだったからだ。父を倒し、すぐにでもロロの元へと。
それが、こんなにも遅くなってしまい、しかも、まだ自分の戦いには終わりが見えない。
(……もう、俺のことなんて、忘れてるかもな)
約束ヲ何一ツ、果タシテヤレナカッタ男ノコトナンテ。
未来ヲ与エルコトモデキズ
傍ニイルコトモ出来テイナイ俺ノコトナンテ。
未来ヲ与エルコトモデキズ
傍ニイルコトモ出来テイナイ俺ノコトナンテ。
自嘲気味な笑みを浮かべてそんなことを考えながらも、本当は、わかっていた。きっと、ロロは、ずっと待っているのだろうと。
わかっているからこそ、一日、また一日と、ロロがいた時間から自分が遠ざかっていくのが辛い。
一体、どれだけロロを待たせればいいのだろうか?
この戦いがいつ終わるかなんて、全くわからない。いつ終わるか分かるような戦いなら、とっくの昔に終わらせている。
終わりが何処にあるのか、見当もつかないのだ。
だからこそ。
いつか、
必ず、
終わらせる。
例え、どれほどの時間がかかっても。
それだけが、自分が、ロロの墓前で約束出来ること。
その為に、自分はこの地に再び降り立ったのだ。
それが、
永い時間を待たせている弟へ、花束と共に墓前に贈る約束。
どんなに永くかかったとしても、必ず、お前のところ帰るから。
そうしたら、今度こそ始めよう。
二人の、明日を。
ずっと、欲しかったんだ。お前との、明日が。
終
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BGM 楽園-fantasm-
↑ SSのタイトルは、これの歌詞を参考にしました。
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癒し系ボタン
現在のお礼SS:ロロルルロロ一本。
効能:管理人のMP回復。感想一言頂けるととても喜びます。