×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
出会いは嘘から始まった。
その嘘の一年が終わったあと、今度は、一年間嘘をつかれた方が、嘘をついた。
二人の嘘がようやく終わってから、また、一年が経った。
色々なことがあった。
それまで、不自然なぐらいに仲が良かったのは、二人の間に「嘘」があったからだ。
嘘をつくのをやめて、お互いに向かい合った時、自分達はこんなにも相手のことを知らなかったのか、と何度も愕然とした。
一年の間に幾度もぶつかって、ぶつかって……。
言ってしまった言葉と、言われた言葉に落ちこむ日もあった。
“自分達が、こうして共に生きることにしたのは間違いではなかったのか?”と。
けれど、もう口もきけないのではないのかと思うぐらいに、酷いことを言い合った次の日の朝を迎えた時、気まずい空気が少しづつ薄らいでまた笑い合えた瞬間に、思うのだ。
“一緒にいられて、良かった”と。
そのたびに、「出会えた」という奇跡を忘れかけていた自分が情けなくなる。
幸せでい続ける為に絶対に忘れてはいけないことは、
それはきっと、「今、自分が幸せである」という事実だというのに。
だから、決して忘れないように。
出会えた奇跡と、今こうしていられることの奇跡を。
<October,25> (前編)
そこは、窓の無い部屋だった。
けれど、その部屋にいる者が決して圧迫感を覚えないのは、取り付けられた明かりや、香り、そしてインテリアに工夫があるせいかもしれない。洒落たそのリビングにいる時、ロロはいつだってくつろいでいた。
だが、そんなリビングで……ロロは今日、決してくつろいでいなかった。
気のせい、と思いたかったのだが。
ロロの気のせい……な、わけがなかった。
幼い頃の環境のせいで、ロロは、自分に視線が向けられればすぐに気づいてしまう。
しかし、別にそういう過去を持つロロでなくとも、いわゆる「ガン見」としか言えないような目でじぃ、と自分の動きの一部始終を目で追われていれば、自分が「見られている」ということには気づくのが当たり前だ。
「……兄さん、何?」
だが、先程からずっとロロを「ガン見」していた張本人は、自分の視線があっさりと気づかれたことに驚いたらしい。ソファに身を沈め、優雅に長い脚を組みながら余裕の表情を浮かべていたというのに、ロロに声をかけられ慌てて目を丸くして、
「なんでもない。……普通にしててくれ」
誤魔化せると思っているのか、驚きを隠すように優しく微笑んでそう言った。
普通にしててくれと言われてもなぁ、と困りながらも「そう?」と言って、ロロは作業に戻る。先程から大きな花瓶の移動をしていたのだ。
おそらくルルーシュが全力を出しても持てないであろうその花瓶を、頼まれていた場所に置く。運んでいるときに花瓶の中でずれてしまった花の位置をロロが直していると、また、はっきりとした視線を感じた。
なんだろう、と、ルルーシュに気づかれないように、斜め前に立てかけてある鏡を見ると、やはりルルーシュがロロをじっと見ていた。
鏡越しに見える紫の瞳にある感情は、読みにくいものだった。ただ、真剣にロロを「視よう」としているという感情以外、何も読み取れない。
(……気になる……)
大きな葉の手入れするふりをしながら、ロロもまた紫の双眸を見つめる。ルルーシュはそれに気づかずに、ロロを見つめ続ける。
(……そんなにずっと見ていなくても、兄さんを置いて、何処にも行ったりしないのに)
どうせ、理由を聞いても今は教えてくれないのだろうな、と思いながらも、愛しい兄がそうやって自分を見ていることに、悪い気はしない。
(……気になるけどね)
やがてロロは作業を終えると、
「兄さん、先にシャワー使っていい? 少し汗かいちゃって」
ルルーシュの方を振り返って言った。
ルルーシュは、ロロに視線を気づかれていたことなど知らないのか、
「ああ、いいよ。……ありがとう。俺には持てなかったからな。それ」
花瓶の方に少し目をやってから言った。
穏やかにロロを見るルルーシュの瞳は優しげに細められていて、先程までじっと見られていたことなど、ロロはどうでもよくなってしまった。
*
ロロがシャワーを浴びに行ってしまうと、ルルーシュはソファに座ったまま瞳を閉じた。
眠る為ではない。目蓋の裏に描きたい光景があるからだ。
自分が見たものが忘却の彼方へと去ってしまう前に、ルルーシュはその細部までを思い描く。
ロロが花瓶を持ち込んでいる姿、『……兄さん、何?』と小首を傾げながら尋ねてくる姿と声、そして生けられた花の世話をしている姿。
ルルーシュは、ロロの一つ一つの動作を細かいところまで思い出していく。
はたから見れば、ルルーシュは幸せな夢でも見ているかのようだった。
やがて、ルルーシュは目を閉じたまま、両手をゆっくりと宙に上げる。
そしてその両手で何かをしようとした時――。
今まで何度も何度も聞いた携帯の呼び出し音が、リビング中に響いた。
ルルーシュは飛び起き、テーブルに置いてあった電話を、ディスプレイに表示された相手の名前も見ずにとった。この呼び出し音が鳴る相手は一人しかいない。
「私だ」
相手に合わせて、ルルーシュは自然に「私」と言った。
『陛下』
「陛下じゃない」
生真面目な男の言葉を、ルルーシュはすかさずたしなめる。もうルルーシュが『陛下』と呼ばれる地位を退いてから(退いたというか、引きずりおろされたというか、自分から飛び降りたというべきか……?)、一年以上経つ。
『失礼しました。……ルルーシュ様』
「あれからもうどれぐらい経つと思ってるんだ? ジェレミア。もういい加減その癖が抜けてもいいだろう」
『……善処します』
本当に申し訳ないといった厳粛な声音で言うジェレミアをそれ以上追求する気にはなれず、
「……で、どうした?」
ルルーシュは尋ねた。
『例のものが届きましたのでご連絡致しました。いつでもご使用出来るようにしてあります』
ジェレミアの言葉に、ルルーシュは思わず笑みを浮かべた。
「そうか。……ご苦労だった。礼を言う」
『勿体なきお言葉』
「悪いな。『元悪逆皇帝』の贅沢な買い物につき合わせて」
『いいえ。ご家族を思われての陛下……、いえ、ルルーシュ様のお入用の品でしたら、何でも』
ルルーシュは思わず吹き出す。ルルーシュがジェレミアに手配するように言った品は、決して安い物ではないし、手軽に持ち運びが出来るものでもないから、その仕事を労ったつもりだったのだが、大真面目な返答が返ってきてしまった。
「では『家族思い』の私は、後で早速、例のものを使わせてもらう事にするよ」
『御意』
「その時は、また頼む。……ロロに感づかれないように」
『イエス、ユア、マ……いえ。了解しました』
“それ、わざとやっているんじゃないだろうな?” という言葉が喉元まで出かかったが、ルルーシュは我慢した。
*
ルルーシュがロロを「ガン見」していたことなど、ロロが忘れてしまうぐらいの時間がたったある日の朝のこと。
「……今、なんて?」
ロロが若干上ずった声で訊き返すと、ルルーシュはすぐには答えず、黒々としたコーヒーを平然とした様子で少し飲んだ。
ロロは、辛抱強くルルーシュの返答を待つ。
「言った通りなんだが」
「言った通りって……!!」
ロロはついさっき、ルルーシュに告げられた言葉を思い出す。やっぱりわけがわからないよ、とロロが追撃しようとした時、ルルーシュが全く同じ言葉を言った。
「アーニャとデートしてこい」
開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。
は、なんでデート? しかもなんでアーニャと? わけがわからないっ!
ルルーシュのすぐ横で、相変わらずの無表情を浮かべながらたたずんているアーニャを一瞥してから、ロロは声を荒げた。
「何で!? どうして!? 理由は!?」
「俺は外に出られないし……。お前もずっと同じような所にいたらストレスがたまるだろう? たまには羽目を外して来い。変化が無い日々だとボケるかもしれない」
「ボケって……余計なお世話だよっ!!」
「ロロ……私じゃ不満……?」
ぽつりと呟いたアーニャに、
「……兄さん以外とデートして何が楽しいんだよっ!」
思わずロロが本音を暴発させた。
アーニャの表情は変わらなかったが、まとう空気が明らかに変わったのがロロ以外の人間にはわかり、
「……ロロ。今のは言いすぎだぞ」
「そうですよロロ様。今の言葉は紳士が女性に口していい言葉ではありませんよ」
口々にロロをたしなめた。
(……何この空気……)
風向きはどうみても自分に悪い方向になっている。元々ルルーシュが無茶苦茶なことを言い出したのが悪いというのに。
「アーニャ。……ロロがもし完璧にエスコート出来たら、今の言葉、許すよな?」
「……。うん、許す」
「……だ、そうだ。ロロ、埋め合わせをしてこい」
何だこの流れ。意図が読めない。
ロロが唖然としていると、ほらほらロロ様こちらですよ、ロロ行くよ、とロロはジェレミアとアーニャに両腕を捕まれて引きずって行かれた。
*
次の日。
「ロロ。今日はジェレミアとデートしてこい」
「間違ってもそこで『デート』って言って欲しくないんだけど」
「……悪かった。出かけて来い」
この頃には、ロロはルルーシュの意図が、なんとなく読めていた。
*
次の次の日。
「ロロ。買い物を頼みたいんだが」
「いいよ、どうせ遠いところに買いに行けって言うんでしょう?」
「……」
皮肉を込めたロロの言葉に、ルルーシュは少し顔を曇らせた。
それを見て、ロロはすぐに反省した。
(ああ、気づかない振りをしてればよかったのに)
「気にしないで。……何を買ってくればいい?」
後編へ
戻る
PR
癒し系ボタン
現在のお礼SS:ロロルルロロ一本。
効能:管理人のMP回復。感想一言頂けるととても喜びます。